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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e1m8】レッドライト

続きです。鹿島との日常会話部分が難しい。本来は単なる優しいメディックだったんですが、カレンにキャラ負けしてどうしようかと悩んでいたんですが、大宮の代理と第四の壁を突き破るキャラとしてもっと色付けができたらと思っています。

「はぁ〜」

 床の番重(ばんじゅう)を見て、大きな歎息(たんそく)をもらした。俺自身の失態とはいえ、マジで情けねぇ……。結局、“単なる1兵士でありながら、スーパーマンの様な活躍”はできかった。

 唐揚げパンウォーフェアは引き分け。お目当てのそれは、棚の一角に陳列されていて、誰も気づかなかったらしい。ミッション失敗の責を負って、俺はG組とH組に謝罪行脚となった。そして、全バターロールを自腹購入。幾つあるのか数える気もしない。

 唐揚げパンを楽しみにしていた奴は、脱力して嘆いた。俺を罵る奴もいた。無駄にフラグを被った菅は、苦笑いしていた。結局の所、次の休み時間に早い者勝ちとなり、元ブルーフォーは惨敗を喫した。今カレンは、食堂の列にいる。奴の呪詛(じゅそ)が聞こえるのは気のせいか?

 別にさ、バターロールが嫌いというわけじゃない。ただ、教室にはジャムもトースターもないので、そのまま口に詰め込むしかないのだ。マーガリン入りの風味豊かな奴ならともかく、これは文字通り無味乾燥で、2個食べれば口がパサついてウンザリする。ゲーマーなので食にはこだわらないが、当分これかと考えると気が滅入る……。

 食欲も失せ、窓から残り少ない春の陽気を感じた。今日はいい天気だな……。

「これどうぞ」

 机にアップル牛乳が置かれた。しかも2つ。笑顔を向けていたのは、鹿島だった。

「お昼、一緒してもいい?」

「あ? ああ……」

 俺の返事を聞いてから、彼女は弁当箱を机に置いた。

「残念だったね」

「これは俺に?」

「うん、水分ないと食べにくいかなって」

 ありがてぇ。このご当地飲料があれば、5個ぐらい流し込める。

「けど、金持ってねぇや。全財産バターロールの代金になったし」

「いいよ。私が勝手に買ってきたんだから」

 そっとテトラパックを押した。

「すまねぇ……」

「よかったら、いくつかもらえるかな? うちの朝ごはんとかおやつとかにしたいと思っているんだけど……あ、お金は払うから」

「金はいらんから全部持ってけ」

「それはダメだよ……4袋いいかな?」

「助かるよ」

 鹿島は番重を見て、うーんと唸った。

「毎日そのままだと飽きちゃうから、ジャムとかピーナツバターをつけるといいかも。他には、ソーセージとか、ハンバーグとレタスを挟むといいよ」

 なるほど、バリエーションで飽きがこないようにするのか。片手で食えるから、ゲームしながら食べることもできそうだ。

「それより、さっき怪我しなかった?」

 鹿島は話題を変えた。まあ、カレンにボディーブローや絵具缶を食らったり、スナイパーに胸部を撃ち抜かれたり、73ミリ砲で吹っ飛ばされたりしたが、自動回復というチートじみた能力で生き延びたな。ちなみに、鹿島はそれが好きではない。自分の仕事が無くなっていると感じているからだ。

「最後以外は」

「よかった。あ、そうそう。先輩がありがとうって言ってたよ」

「先輩?」

「えーっと、大宮くんが救出した人」

「ああ、ピンクの髪の人ね」

 あの時は切羽詰まっていてわからなかったが、ウィッグでも着けていたのか? でも何のために?

「今度ちゃんとお礼が言いたいって」

「いいよ、俺らが痛い目に合わせたんだから……」

 それよりも気がかりなことがある。3時限目の授業が15分ほど遅れた。先生は何も説明しなかったが、多分唐揚げパンウォーフェアを受けての緊急会議だろう。

「どうしたの? 浮かない顔してるよ?」

「いやね、この後どうなるんだろうってね」

 パンを食べるのを止めて、神妙(しんみょう)な顔つきになっていたのだろう。鹿島はすぐに察した。カレンが職員室から呼び出されていないからだ。通例このような問題行動には、即座に指導が入っていた。対象者があまりにも多いので、職員室は状況を把握しきれていないのか?

「私も心配かな」

 こいつの心配は己が身ではなく、カレンだ。俺も正直自分より奴の処分が気になっている。騒ぎの規模からして、校長訓戒ではすまないだろう。そして他の連中はどうなるのか?

「2年のほぼ全員が参加したんだろ? 何人にどれくらいの処分が下るのやら見当もつかん」

 鹿島は何も言わなかった。ただ、小さな弁当箱を見つめていた。俺のアップル牛乳でさえ味気なくなった。

「本当に今更だけど、俺らはなんてことをしてしまったんだ」

「赤信号、みんなで渡れば……ってやつだね」

 そう。食欲と日頃の不満に駆られて、とんでもないことをやらかした。俺自身も、“カレンを見守る”と、その時は納得していたが、終わってみれば、主犯カレンの援護役と唐揚げパンの運び役として、かなりマズいポジションだった。彼女を心配する前に、自分の覚悟を決めておかないと。

「まあ……」

 鹿島が無理に笑みを作った。

「みんなで赤信号を渡ったからこそ、深刻に考えなくてもいいのかも?」

「?」

「みんな停学だったら、誰も恥ずかしいとは感じないかな」

 全員が全員同じ処分を食らったら、それは誰も何も食らっていないと同じか。まあ、内申を気にしている奴はご愁傷様だけど。

「大宮くん、そんなに気にしてもしょうがないよ。ちょっとはカレンちゃんを見習おうよ」

 キングピンであるカレンその人は、悪びれた様子を全く見せていなかった。

「相当な胆力があるのか、それとも度し難いバカなのか、俺にはわからん」

「ねぇ大宮くん。過ぎた事はどうしようもないから、別のことをお話しない? 気分が下がっちゃうのは、ちょっと残念かな」

 鹿島は優しい眼差しで願い出た。そうだな、もはや黙って処分を受け入れる以外、俺たちにできることはなさそうだった。窓から入ってくる風は心地よかったが、茫漠(ぼうばく)とした不安をぬぐい去れなかった。アップル牛乳はいつの間にかなくなっていた。

今回も読んでくれてありがとうございます。次回はまた乱闘を始めるネタに走ります。

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