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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e4m3】レポート実験

一応できました。

「オッケーやっちゃって!」

 カレンちゃんは、向こうの大宮くんに叫びました。あ、読者の皆さんこんにちは。あなたは今、鹿島梢の視点です。

「ねぇ、大丈夫よね? 梢ちんいるし、十分な距離をとったし」

 ええ、私たち3人はね。急遽カレンちゃんのレポート実験に呼び出された私は、化学火災対応の消化器とメディキットを持ってくるように言われました。何するのと聞いても、はぐらかされるばっかりで……。作業をしている大宮くんは、きっとゾンビのような顔をしていることでしょう。

 何をしているのかは知りません。知りませんが、多分カレンちゃんに、『(カレンのモノマネ)ダッシュで逃げたらワンチャンあるかもしんねーじゃん! それともパンツァーファウストで今すぐ吹っ飛びたいの⁉︎』と、凄文句よろしく並べられたのでしょう。

 白衣姿の小早川さんは、ビデオカメラで撮影しています。


Shinichi was exploded!


 水槽から白煙が上がって発火、すぐに凄まじい爆破が起こりました。細々に砕け散った物質は、運動場のそこらでも小さな爆破を引き起こしています。

「予想の範囲内というか、なんのひねりも面白くもなく、ただ無残にフラグされて残念……」

「煙マジヤベェ……!」

「やっぱり、防護服程度じゃダメね」

 小早川さんが、ポツリと呟きます。まあ、私の1人称視点になっている時点で、お察しですが。爆発がある程度収束しても、2人はダウン中の主人公を一切気がけず、今の記録を再生しています。

「いい感じに撮れてんじゃん」

「これなら、おおよそ計算できる」

「しっかし運動部に避難勧告出しといて、よかったわー。あ、梢ちんもレポート書けんじゃね? 化学爆発を受けた人の怪我みたいな」

「化学はもう履修したから大丈夫。それにレーティングはEだから、ダメージスキンもデスアニメーションもブラッドもディスメンバードリムズもアダルトテクスチャも切ってあるよ。大宮くんはきれいなまま。あと重ねて言うけど、良い読者さんも悪い読者さんも、劇物の実験は絶対に真似しないでね?」

 帰宅してる人が、何事と防球ネットに集まっていますが、私たちの顔を見て、『あっ(察し)』となっています。

「ねぇ。まだ(くすぶ)ってる……ちょい水でもかけたがいんじゃね?」

「土壌汚染しているから、運動場はしばらく使えない。盛土で囲って、流出防止し、廃棄処理する。雨が降らないといいけど」

「残念、明日小雨だね……」

「大丈夫大丈夫。全部きれいに燃えた方がいいっしょ!」

 その細かい所を気にしない性格、良くも悪くもカレンちゃんらしいよ。けど、汚染が校内でよかった、いやよくないか……。その時、先生の怒声が飛び込んできました。振り返ると、完全に“敵対状態”になってます。

「うげっ、梅っぴ! カンカンじゃん……」

「これだけ派手に爆発すれば当然よ。であれば、取るべき行動は1つ」

「離脱離脱ぅ! 梢ちん、後は頼んだっ!」

「えっ……?」

 止める暇もなく、2人は実験エリアからエクストラクションです……。もう豆粒ぐらいの大きさまで逃げています。肩で息をしている梅本先生は、私とダウン中の大宮くんを見て、誰が諸悪の根源なのか、すぐに悟りました。


「いや……カレンのレポートを手伝っていたんですが――」

 その後大宮くんは、怒って告げ口することもなく、淡々とカレンちゃんを庇っています。もうね、1ヒロインとして泣けてくるよ。

「運が良かったな桜……ちょうど今日、学年主任と生徒指導主事は出張だったから……」

 それを聞いた大宮くんも、自分のことのように安堵しました。

「あのー先生。ちょっと手伝ってくれません? 小早川さんに聞いたのですが、あそこは盛土しないと、土壌の汚染が拡大するみたいなんです」

「クッソ……カレンの奴、やり逃げかよっ……!」

 体育倉庫から真砂土(まさど)をこっそり拝借して、爆破範囲の上に重ねて、更にその上から、ブルーシートを被せました。

「マジ頭にくるよなー、ったくよ……」

 作業中、1人ブーブー不満を漏らす大宮くんを見ていると、“変わったなぁ”と感慨深くなります。以前はもっと邪険で、“俺に話しかけるな”オーラがすごかったのです。こんな他人の厄介事に巻き込まれるのは、人一倍嫌っていたはず。今は……ちょっとぼんやりして目立たない男子になりました。大宮くんの切れ長の瞳は、のぞみちゃんそっくりです。けど、あのコのように切れ味をちらつかせてはおらず、以前よりずっと穏やかになっています。

「よかったね」

「ああ? 何が?」

「カレンちゃん。先生が上手くもみ消してくれそう」

「悪運の強い奴だ。カレンエピソードだったら、絶対校内問題に発展してたろ? ひょっとしてさ、エピソードヒロインじゃないってのは、なにやらかしてもいいってことじゃね?」

「まあ、そだね。あ、読者さんの視点を、そっちへ返した方がいい?」

「結構です。このまま“女性主人公”のタグつけてやるから、そのままなっちまえ。俺もう飽きたわ正直」

「私はヒロインがいいです」

 そんな雑談をしているうちに、盛土作業は終わりました。そして、カレンちゃんの代わりに私たちが先生に謝って、以後気をつけますと約束しました……まあ、こんな謝罪に意味はないし、どうせすぐ別の問題が勃発するでしょうけど。

「ふぅ。やっと終わったね」

「お疲れ。お前もとんだ迷惑だよな」

「大宮くんほどじゃないよ」

「ま、あの馬鹿がちゃんとレポート書いてくれるなら、しょーがねーかな」

「本当に怒ってないの? 優しいんだね」

「違う違う。諦めだよ、諦め。もうね、俺が何言ってもアイツ聞く耳持たんだろ? だから怒ってもしょうがない。無駄だから……クッソ、自分で言って虚しいわ。これって完全にカレンに飼い慣らされてるじゃん……」

 “飼い慣らされる”という表現は得てして妙なので、吹き出さざる得ません。学校中探しても、こんなにカレンちゃんに対して、懐の広い男子はいませんね。

「そうそう、化学A組と一緒でよかったね」

「まあ御都合主義だな。明日俺のレポートを小早川氏に手伝ってもらうことになってる。今日みたいな惨事にならないといいが……」

「彼女は良識派ヒロインだから大丈夫だよ。というわけで、このシーン終わり。主観視点はお返しします」

「いらん」

「……うーん、それにさ、やっぱ最後に大宮くんがフラグしてくれないと、“締め”として、たるんでる気がする……」

「壮大な出オチやったんで、もう勘弁してくれ……」

今回も読んでくれてありがとうございました。

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