【e1m7】ノー唐揚げパン
これで唐揚げパンウォーフェアーが終わります。新しいキャラが登場しますが、To Heartの宮内レミィをイメージしています。というか、カレンは同作品の長岡志保を過激にしたようなキャラですし、鹿島はメインヒロインの神岸あかりからきてますね……。
教室に向かって、北校舎2階の廊下を戻っていく途中、味方に呼び止められた。渡り廊下が、タンクローリーと交戦中に突然崩落したという。計画にそのような爆破予定はない。1階に降りると、渡り廊下のドアに退路守備隊が固まっていた。唐揚げパンが来るのを待っていたようだ。
「ちょっと、なにしてんの?」
「桜か、耳をすましてみろ」
ここの守備班長に制止された。言われるままにそうすると、鳥のさえずりに混じって、ディーゼルエンジンの律動音が聞こえる。キャタピラが軋む音も。中庭の奥にフェンスと高い垣根があって、その奥から排気ガスを若干確認できる。
「トラック?」
「だといいんだが、装甲兵器ならまずい」
同感だ。ふとチプカシに目をやると、休み時間終了まで残りわずかだった。カレンが考えあぐねて俺を見たので、時計を数回叩いて判断を促す。
「もう突っ込むしかなくない?」
「大丈夫か?」
「しょうがないじゃん」
「えーっと、ATとライトマシンガンナーは、垣根を警戒してくれないか? 残りは教室の外を確保してほしい。残党が先回りしているかもしれない。お前パンツァーファウスト残ってんの?」
「ない。アンタを先導する」
「他にいい案は?」
誰もが沈黙を守った。
「んじゃ、それでいこう。俺はこいつを運ぶから世話になるぞ」
足元に置いた番重に目をやった。既に多数の犠牲を払っているので、なんとしても、これを持ち帰らないと。
「これで撃ち止めか……」
もう戦闘はなかろうと踏んでいたカレンは、最後のマガジンをMP40に装填。渡り廊下の全長は約40メートル。スプリントすれば難なく渡り切るが、俺はキャリアだから、慎重にならざる得ない。
あの正体不明の車両は、十中八九オプフォーだろう。こっちが動き出せば、何らかの反応があるはず。まず教室確保班が、先に出て探りを入れるため、各々間隔を開けながら出ていく。車両のエンジンが唸った。
次に警戒班が出た。垣根の方を向き、地べたに伏せて戦闘に備える。ライトマシンガンナーが目配せした。俺も飛び出して、カレンの誘導に従う。廊下を半ば過ぎた辺りで――
「退避っ!」
垣根の木立ちから閃光が輝き、轟然と破裂音を伴った砲弾が向こうの校舎に命中!
「BMP!」
カレンの悲壮的な叫び。ド派手なカラーリングのそれは、フェンスをなぎ倒し、猛スピードで近づいてくる。ライトマシンガンナーが応射するが、“その武器では乗り物にダメージを与えられません”。
カールグスタフを持つATが撃った! 1発は車体の上を飛んでいき、もう1発は急制動で外れた。
「ヘタクソッ!!!」
カレンが毒づく。俺は血の気が引いた。歩兵戦闘車は返礼とばかりに、同軸機銃を撃った。ATは2名ともやられた。そのまま、回転音と共に主塔がこちらを向く!
「伏せろ!」
衝撃と一緒に、俺、カレン、ライトマシンガンナーの3人はもんどりを打つ。何度も天地がひっくり返り、背中から落下した。番重は手元に転がった。フラグされてない? 運が良かった? 番重が盾となった? それともそういうイベントだから? 背中痛ぇ……。
「キャレン! シン! 止まらんね! ……Aaaaand hands on the air!」
BMPに備え付けられているであろう拡声器から、福岡弁と英語が混じった怒声が飛んだ。カレンは跳ね起きたものの、黒点の前では石像同然だ。
「キャレン、Drop your gun RIGHT NOW!」
彼女は眉間にしわを寄せて、俺を見た。俺はただ頷く。
「早よせんね!」
再度催促されると、諦めてMP40を放り投げて手を挙げた。俺もカレンに並んでそうした。文字通りお手上げだ。口の中を切ったな、鉄の味がする。
「どーする?」
「詰んだんじゃねーの?」
「はぁ⁉︎ てか、あの距離でグスタフ・ファーレンハルト外すとかあり得なくない⁉︎」
コイツなら外しようがないが、誰もがお前のような胆力を持っていないんだよ。あとファーレンハルトさんはチェンバロ奏者な?
「しゃあしか! そげんうるさかと穴ほがすぞ!」
ギャアギャアうるさいカレンを一喝するBMP。いい加減に口をつぐまないと、本当にフラグだぞ?
「こっち張っとって正解やったばい! 唐揚げパンはウチがもうらうけん!」
コマンダーハッチから、女子が上半身を見せた。
「チッ……やっぱメグか」
正式な名前は、ミーガン・R・メイヤーさん。A組のエンジニアだ。彼女の人物描写は……そうだな、この場で説明するのはアレなんで一言で済まそう。ギャルゲーに出てくる外人ハーフ枠だ。ともかく、この窮地をどう脱出すべきか? カレンが小声で囁きながら、軽く腰で突っついてくる。
「ちょっと、今がチャンスじゃない? スキル発動しなさいよ……」
「は?」
「もー! 映画であんじゃん? 主人公がピンチに陥って手を挙げると、袖から二丁拳銃が飛び出してきて、あっという間に悪役を蜂のs――」
「んなもんねーよ!」
「NOOBの方がマシじゃん! バカ!」
いつの間にか、また大声で罵り合いになっていた。じゃ、お前が二丁拳銃出してみろやコラ。
「アタシだったら、二丁パンツァーファウストが出て、あれを分子レベルまでバラバラにしてやんのに……!」
「そんなスキル、俺的にあってたまるか」
「もーなんば言っても無駄やん……。とにかく、やられたくなければ、さっさとそれば渡さんね」
「断る!」
正義感の強い正統派ヒロインのように、キッと睨みつけるカレン。威勢だけはいい。が、何も策はないんだよなぁ。
「Hahaha、えずかー。ちかっぱ元気ばってんどげんすっとね? これには勝てんやろ?」
通例、戦車等の敵兵器が登場すると、“都合よく”その場にバズーカが置かれているものだが、そうは問屋が卸さないのだろう。倒れたATの方を見ると、武器もろとも綺麗に消えていた。じゃあ環境物で難を凌ぐしかない。変に動くとメグに怪しまれるので、ここ辺りに何があるのかを考えた。
「なぁ、さっきの階段下の収納庫に、アクリル絵具の缶あったよな? 去年の大掃除で、整理整頓したやつ」
「あ? ああ……それが何?」
「2階から投げろ」
「BMPにぃ? なんで?」
「声でけぇよ。お前は破壊しか頭にないだろうが、他のやり方もあるだろ?」
「はっきり言って」
「照準器を汚したら、無力化当然だろ?」
カレンはもう走り出していた。決断力の早さに感服しつつ、ちょっとは慎重になろうぜ?
「!」
BMPの機銃が火を吹いたが、幸運にも彼女は被弾しなかった。メグがハッチから出たままだったからか?
「Darn it! ……まーよか。ともかくシン、そのボックスば渡さんね♪」
カレンには強い態度だったが、俺にはウィンク付きの爽やかな笑顔で脅され……いや脅しでもないか。砲塔はあっち向いたままだし……。
「いいけど、どーやって?」
「あーね……受け渡しのことなーんも考えとらんやった。'Cuz、ウチ1人しか乗っとらんと」
あけっぴろに言って無邪気に笑った。つまり、彼女が運転手も射手も車長も兼ねているのだ。専属のガンナーがいたら、カレンは間違いなく撃ち抜かれていただろう。
「じゃあ、こっちに来て、後ろの扉を開けてよ。兵員室に“なおせ”ばいいだろ?」
「そやね。ちょっと待たんね、来るけん。変な真似しちゃいかんばい?」
そう言うと、彼女は車両を動かし始めた。
いいぞ、BMPの砲塔は仰角に制限があって、近距離高所への攻撃ができない。つまり、渡り廊下2階からのアクリル絵具投擲に対し、なす術はないだろう。陽気なエンジニアは、コマンダーハッチから出たままだ。砲塔も明後日の方向を向いている。なんて警戒心のなさだ。俺はいつの間にか手を下ろしていたが、メグも気にも留めていない。
「後ろば向けっけん、気をつけんね」
金髪碧眼の女子高生が、方言を使うって変だなぁ。今じゃ地元の若人でさえ、使わないのに。ちなみに、俺とメグは親しいわけでもない。彼女は誰にでも気さくに話しかけるのだ。
「あ〜どうやって扉開けるの? このハンドル?」
「それ、ちと重たかよ♪」
兵員室のハンドルを回しているんだが、たしかに重い……その時、突然俺の頭に衝撃が走った。
You are Hurt. Get to Cover to Recover!(心拍する音)
「なにやってんの!」
アクリル絵具の缶が、後頭部に命中した。幸運にも、フタが外れなかったようで、俺はアーミーメンにならずにすんだ。
「痛ってぇ! どこ狙ってやがる⁉︎ あそこだ!」
と、砲塔の左側上方にある照準器を指さした。
「キャレン!」
カレンは缶の取っ手を持ち、大きくスイングするように投擲! メグは寸前でハッチ内に消えた。心なしかカレンの舌打ちが聞こえた気がする。あのさ、メグに直撃させろとか、誰も言っていないぞ。
その位置から反撃できないということを知る前に、カレンのもう1投が見事ヒットし、中身の液体が飛び散った。
「What's the hell?」
そのまま、2投3投するにつれ、砲塔付近が鮮やかに彩色され、アートのようになりつつあった。
「シンイチ!」
そうだった! もう休み時間が終わろうとしているのに、つい傍観者みたいに眺めていたよ。番重をかっさらうように取り上げて駆け出す!
「No! シン! STOP! PLZ!」
砲塔は回るものの、照準はできないので、全く恐怖を感じなかった。
階段を一気に3階まで駆け上がり、角を曲がると、前方で銃撃戦が行われていた。先の確保班が教室の外に陣取り、オプフォーの残党と戦闘を繰り広げていた。
「大宮っ! じゅうびょおおう!」
銃弾が掠るのを、恐れる暇すらなかった。もう全力疾走だ。肺の空気は空っぽになり、俺のスタミナゲージはとっくになくなっていた。それでも全神経には電流が駆け巡り、緊張は頂点に達した。
タッチダウンする姿勢で教室に飛び込む! スローモーションとなり、番重と俺の上半身が教室に入ったところで、休み時間終了のチャイムが鳴った。勢い余った俺は、そのまま前から突っ伏してしまう。
息が整わないまま、床に突っ伏したまま顔を上げた。
The match is over!
黒板の前にテキストが表示された。と同時に、やられていたクラスメイトがリスポーン。F、G、H組から歓声が沸き起こった。
穴の空いた風船のように力が抜け、再び頭を床に預けた。ミッションをクリアーした達成感よりも、負けてカレンからフラグを喰らわない安堵感の方が優っていた。準備運動なしに無理な運動をさせられたので、今さらながら気分が悪い……。
「ブンダバー!!!」
カレンが上機嫌で凱旋した。足音の数からして、生き残ったのブルーフォーも引き連れている。
「アンタなにやられたように寝てんの⁉︎ ヒロイックな倒れ方して、次回作に続くってわけぇ?」
声は高揚しており、周りでドッと笑いが起こった。お前のために必死で走ったのに、なんて言い草だ。俺はゆっくりと起き上がり、床の上にあぐらをかいた。
「ではでは、ルート品を開封!」
俺から番重をひったくったカレンは、プレゼントを前にした子どもだった。そして、期待に満ちた瞳で、フタや連結用のロックを解除し始める。他のクラスの連中も、それを囲むように集まっていた。
「……?」
熱心に、というかヤケになって、パンを全部取り出している。彼女の顔から徐々に笑顔が消えつつあった。
「何やってんだお前は……もっとよく探せ」
重い腰を上げカレンに近づいた。周りの生徒がざわついて、俺らから距離をとっていた。奴が取り出したパンを見回すと――
「バターロールしかねーじゃん……マジ?」
顔を上げると、穴の空いた円筒形が視野いっぱいあった。
WEST H.S.
Sophomore: Shinichi Omiya
Status: FRAGGED IN ACTION
一応作品としてはこんなお馬鹿っぽいネタを入れつつ、最後にはちょっとまともにしたいなと考えています。シリアスなシーンは苦手なんで頑張ります……。