【e3m14】校長があなたを略式裁判のプレイに招待しました
今回は割と早めに区切れました。
「チョーウザい、このチビッ!」
「ほざけ脳无し御前めが! 汝の面憎むべし!」
俺は頬杖をついて、物思いにふけっていた。あっちでは、仲のよすぎるデスマッチが、また勃発している。放っておけば、いつか終わるが、すぐまたじゃれ合い出すのできりがない。
あの事故のニュースの後、メイヤーズに電話をかけた。しかし、臨時休業を告げる自動音声が返ってくるだけだった。直接ガレージに行こうかとも考えたが、ダッドから『当分俺の店に来るなよ』と釘を刺されていたし、なにより俺はもう部外者なので、煙たがれるだろう。
今日メグに話を聞こうとA組まで行ったが、まさにお決まりの展開で、彼女は欠席だった。スコップと薙刀(先竹革付)がかち合う音が止まらない。ハァ……何も知らないヒロインどもが羨ましいよ、全く。
その時、校内放送が鳴った。
『2年F組大宮伸一さん、至急校長室まで来なさい。繰り返します……』
「すわっ⁉︎ これは如何に?」
「ハハハハァ〜! アンタやらかしたん?」
「えっと……?」
2人のデスマにはもう慣れっこの鹿島だが、俺の呼び出しには、流石に心配顔を出さずにはいられなかったようだ。
「あー大丈夫。見当はついている。やらかしたわけじゃないから気にすんな」
他に呼び出される理由がないので、多分メグの事だろう。
な、なんだこれは……⁉︎ 校長室に入ると、その面子に度肝を抜かれた。全管理職、進路指導主事、生徒指導主事、学年主任、担任が雁首そろえて待ち構えていたのだ。しかもしかめっ面で。
「君は毎回呼び出されとるな……」
そう切り出したのは校長。ええ、けど望んでそうしているわけじゃないんスけど?
「察しはついておるだろうが、メイヤーさんのことで、聞きたいことがあってね」
学校長御自ら審問されますか。まとめると以下のようだ。メグの欠席を怪しんだ担任が電話した所、マムが例の事故対応に追われている、と説明したらしい。生徒の家庭が警察沙汰となったので、職員室も一大事となった。現在、情報収集と対応に躍起になっている。
「それ以後、電話が通じなくてね」
校長は困り顔だ。カレンの悪事でさえ動じなかった余裕は、どこにも見当たらなかった。学外の事件で、しかも警察が動いているからだろう。
“電話が通じない”。多分ダッドが、『オメェらの知ったことか!』と拒否っているのだろう。メグも事情聴取に出向いているか、余計な詮索を逃れようと欠席しているのだろう。にしてもな、1つ疑問が浮かび上がる。
「なんで僕に聞くんですか?」
「あなたは、最近ミーガンさんと登下校していたからです」
あの憎たらしい学年主任が、あいも変わらず事務的に切り出した。驚きだ。カレンは当然として、俺までマークされていたなんて……。
「我々、学校安全委員会は、あなたの同好会とその活動について、大変興味深く見守っています。人も増えたようですしね」
え? eスポーツ同好会を見守る組織があるのかよ。そんな職員室の監視対象のような悪行――
「めちゃくちゃやっとるわ」
独り言ちた。デカイものでコンバットソフトボール、ステルスミッション(笑)、小さなものではカレンと辻のデスマッチなどなど……両手じゃ収まらんな。ちと脱線したが、学年主任の静かなる威圧は続く。
「ともかく、あの事故について知っていることを話しなさい」
「わかりません。あの事故は、僕も帰宅してから知ったので」
そう答えると、教師らはお互い顔を見合わせた。
「嘘をついていませんか?」
「まさか。僕が帰ったのが週末の夕方で、ニュースが出たのがその夜ですから」
「その後、メイヤーさんとやりとりは?」
「ないです。電話しましたが、自動音声が流れるだけで……」
学年主任は、ちらりと校長を見た。彼は軽く頷く。
「わかりました」
麻痺効果を持つ眼光に、ずっと射すくめられていたが、彼がその目を瞑ったおかげで、五体の自由を取り戻した気分になった……。
「では別件に入りましょう。あなたは諸事情あって、メイヤーさんのお宅に住み込んでいましたね? そこで労働をしていましたか?」
もう用は済んだので解放される。そう確信していたが、不意にもう一矢降りかかってきた。予想もしない質問に呆気にとられていると――
「質問が聞こえませんでしたか? あなたはメイヤーズで就労しましたか?」
この語調……もはや詰問だぞ! こいつ何をそんなに……? 労働? そんな大げさな。そんなマズいことやったか……? 顔にこそ出さなかったが、軽いパニックになっていた。返答次第では、俺はおろか、メグの立場まで苦しいことになるぞ? 会話選択肢の制限時間は切れようとしていた。
「はい……」
もうそれしかなかった。“いいえ”を選ぶと、ありとあらゆる嘘を練り上げなければならず、しかも後日綻ぶのは、火を見るより明らかだったから。
俺の答えに、学校安全委員会の連中は不満の音を漏らした。特に著しかったのが、ろくに顔も合わせたこともない進路指導主事だ。
「お前は、アルバイト許可願を提出しとらんな?」
尊大な語気にムッとした。
「そんな大げさな。学校の看板を背負って、正式に働いたわけじゃないです。家が壊れたから、メイヤーさん家でお世話になって、ついでに家業を手伝ったまでです。そして、ちゃんとミーガンさんとお父さんの指導の元――」
「そんなのは関係ない! お前が就労した事実が問題だ!」
学年主任も大概だが、コイツも腹が立つ。頭ごなしにバカにしやがって……!
「大宮」
その場をなだめるように、担任の梅本先生が問いかけた。
「お前、賃金はもらったか?」
「いいえ」
とっさに嘘をついた。ここで“はい”を選ぼうものなら、さらに厄介になること請け合いだ。
「お世話をしてくれただけでありがたいのに……お金まで頂けません」
その答えに満足した担任は、ウンウンと頷いて進路指導主事に言った。
「本人もこう答えてますので、きっと見間違えでしょう」
なんだろう。このやりとりと語調から、もしかして委員会は、茶封筒の受け渡しまで見ていたのか? マジで恐ろしいぞ……。進路指導主事はそれでも疑惑の目を外さない。
「本当か?」
「はい……」
「よし。なら一筆書け」
「は? いや、もう終わったことでしょ⁉︎」
「終わったも始まったもあるか! 進路部の許可を得ずに、就労した不始末を考えろ馬鹿者!」
「必要な文書さえ提出すれば、事後ではありますが、君の就労は、認可したものとして処理します。もしそうしないなら、“懲戒に関する内規・12番”無断アルバイトとみなして、3日以上の校内謹慎、または校長訓戒が下ります」
生徒指導主事が割って入った。頭痛い。もうこれさ、略式裁判じゃねーか。しかも、唐揚げパンウォーフェアを引き起こした、カレンと同等の刑罰だし。
俺が絶句したのを担任は察知して、優しく声かける。
「お前が一筆書くだけで、全て問題は片付く。全て良いように事を運ぶから心配するな。な?」
先生たちはアメとムチの使い方が上手なこと。俺はもう抗う気分になれなくて、しぶしぶ同意した。アルバイト許可願、理由書、送付依頼、従事後感想文、そして“賃金は得ていない。今後アルバイトはしない”という念書まで……。
「具体的にどんな従事をしたか?」
その後は矢継ぎ早の質問、いや尋問だった。俺は相当腹に据えかねていたので、一貫して以下の返答をした。
『詳しくは事業主のお父さんに聞いてください』
ささやかな反抗だったのは言うまでもない。チャイムが鳴った。裁判はゲームオーバーだ。流石に教師陣は、授業を潰して拘束するまではしなかった。
「最後に大宮君」
校長が止めた。
「はい?」
「これは誰かね?」
手渡された写真を見ると、かなりブレてはいるが、まごうことなき桜カレンだった。ステルスミッション(笑)のハイライト、校内で原付に乗っていた時だな。当然、校長らもわかっている。わかっている上で、あえて当事者の俺に尋ねているのだ。確証を得るために。なぜなら、この写真のカレンは、フルフェイスを被っているからな。
校長の意図を汲み取った上で、こう答えた。
「わかりません」
「うむ。嫌疑不十分」
彼は生徒指導主事、学年主任の方を向いてニヤリとした。2人は不満顔だった。担任はホッとしていた。カレン……お前また懲罰食らう寸前で、校長に助けられたぞ?
また読んでください。