【e3m11】Loading...(2)
割と早く書けました。カレンとのぞみの喧嘩は書きやすいです。
「櫻カレンッ!!!」
教室のドアが、凄まじい力で開く音がした。そして、この大音声。相当血が上っているな……。
「そちは海内切っての烏滸者よ! 何篠さる事有るべし!」
「な、なんなのよアンタ……」
「あさましくいやしき心やと言はまし。此れ知らずとは言はせじ。いかでかしらを切れようぞ。只今泥を吐けッ!」
「このチビ何キレてんの? マジでわかんないんだけど……」
俺はずっと本から目を離していないが、カレンが当惑するのも当然だ。辻さんが躍り込むなり、理由も述べず一方的に怒鳴られているから。側にいた鹿島が、不穏を察して前に出た。
「ねぇ、ちょっと落ち着いこうよ? 怒っている理由を教えてくれないかな……」
「かく申すは、妾番匠より俄かに便りありて、曰く『宮が処、再建の兆しあり。しばし待たれし』と」
マジ⁉︎ 俺の家、復旧するって……⁉︎
どうせロクなことになるまい、関わるまいとしていたが、家が復旧するとわかったなら話は別だ。まあ、辻が乱入した時から、もう本の内容は頭に入ってなかったが。
「妾大いに驚きて、宮どのが処に往けども、之既に灰燼に帰せり」
「それ、アタシじゃないって……どーしてシンイチの家が吹き飛んだら、アタシが犯人って決めつけるのよ……」
そりゃカレン、今まで俺の家を吹き飛ばしたのは、お前しかいないからだ。当然、辻さんもそのように考えたのだろう。
「孰そ櫻が下手人にあるべからずと思わん」
「あ、それはね、本当にカレンちゃんじゃないよ。メグちゃんだって」
「……宮どの!」
ドシドシと足音を立てて、俺の前までやってきた。
「こずゑどのの言いは、誠か⁉︎」
「うん」
被害者本人から確証をもらった途端、辻さんの色は、なんとも苦々しくなった。しかし一度抜いた刀は、容易に引っ込められんのだろう。怒りの方向をカレンからメグに変える。
「這奴! あの半西播人か! 今より行きて一言物申さ――」
「アンタさぁ、無実のアタシを詰って、詫びの1つもねーの?」
「ほ、痴れ言を。チンパン御前に垂れる頭など、持ち合わせておりませぬ」
カレンのレイジメーターを煽るかのごとく、呵々と嘲笑う辻さん。お前、それが余計な火種となろうに……。
バァンと、カレンは両手で机を叩いた。火中の種が早くも弾けたわけだ。イベント開始時から、不穏な空気が漂っていたが、それはもう完全に教室中を充満していた。クラスメイトの中には、すでに廊下に“疎開”している奴もいる。
「やっぱ1日1回ぶっ飛ばさないと、気が済まねー。その端正な顔が、オカメ顔になるまでタコ殴りにしてやんよ」
「あいや、凄文句よろしく並べても、妾には面白う覚え候うのみ。疾く疾く一打なりとも浴びせよ」
あとは予想通りだ。初めは周りに遠慮して接近武器で戦うが、途中から机など環境物を投げ合い、しまいににゃ銃火器・爆破物なんでもござれ、となる。
はぁ……“校内問題は2年F組発”と職員室で囁かれているそうだが、そりゃ本当だわ。今まで、俺が犠牲になれば事が終わっていたが、今ではしょっちゅうデスマッチが勃発しているからな。
「(ૢ˃ꌂ˂⁎) ヒロイン同し、つぶし合えー!」
そして、なぜか先輩が俺の側にいるし。もう勉強どころじゃねぇな。
「(ㆆ﹏ㆆ) ねぇおーみやくん……めぐたんのかおりがするよ?」
「へ?」
「(☍﹏⁰)。 ねぇなんでなんで? なんでめぐたんのかおりがしみ付いているの?」
もうね、浮気の疑いですよ。既に涙目だ。ここできちんと説明しておかないと、この人の疑惑は、どんどん根を張って取り返しのつかないことになる。
「あのですね、かくかくこういうワケで(以下省略)」
「(´•ω•`) じゃあ、おーみやくん、めぐたんと一しょにいるんだ。ラブラブなんだ……」
「先輩、誓って言いますが、そんなんじゃないっす。仕事しかしてないっす」
周りから見ると、真摯に浮気を弁解する男でみっともない。
「(๑•́₃•̀๑) まいにそうだんしてくれれば、よかったのに」
「さもありなん。などかは何事ものたまわせぬ。御辺はさらぬ人にあらず、妾かように侍れば、事にふれてさのみこそ申し承ることにて侍れ。うとくおぼすべからず。便りあらむ事は、憚らずのたまわせよ」
うおっ! カレンを片付けた辻さんが、ずいっと目前に出てきた。“Karen was blasted by Nozomi's Satchel charge”というログは消えかかっていた。そして、蘇生用注射を持っている鹿島を屹と見逃さない。
「こずゑどの! 其奴の黄泉がえりは後にしてくだされ。忌々しい事限りなし」
「いやね、2人のご好意はありがたいけど…………」
「けど何ぞ? はやはや申せ。御辺は栄螺か」
前にも言ったが、辻さんの家には犬がいて、先輩に至っては、良からぬ事件が起こりそうでな……。
「( •́ㅿ•̀ ) そんなにめぐたんがいいんだ……」
「気落ちなさるな艶色御前。かく申すは、これなん恵どのこそかりそめのヒロインなり。宮どのは、左様な柔弱骨にございませぬ。はて、さては我が駄犬にこそあれ」
2人して詰問されていると、ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴った。
「おい授業始まったぞ。もう教室戻れ」
「……口惜しや。などか歳1つ違えば、千里を隔てらるるか」
「(p′︵‵。) まいちゃん、おーみやくんと同じ年に生まれたかったよ……帰りたくないよー」
Nozomi was fragged by Karen’s Panzerfaust.
Mai was fragged by Karen’s Panzerfaust.
Shinichi was fragged by Karen’s Panzerfaust.
「ブンダバー! マルチフラグゥ! 強制退去させたったわ!」
「大宮くんまで巻き込む必要なくない……?」
今回も読んでくれてありがとうございました。