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比較的早めに仕上げました。が、ここはネタとネタの間なんであんまり面白くないです。
メグと別れ、マムについていく。他愛のない話で、メグ・レイナ・メイヤーについての基本情報を得た。
カーサロン“メイヤーズ”は、家族経営の小さな会社だ。ジョック氏と恵子さんの2馬力で、娘のミーガンがバイト待遇で働いている。他に2人の姉妹もいるが、外国の学校に通っているそうだ。
敷地内に米国風の邸宅があって、そこに住居していた。なるほど、メグがeスポーツ同好会室を、『ちと狭なかね?』と言うはずだ。でかいな……こりゃ。
初めての人様の家に上がって(ルームスリッパに履き替えて)、すぐ風呂場に案内されるのは、変な気分だ。しかし、汚れているからな。浴槽もキングサイズだった。手早くシャワーを浴び、バスローブに着替えてを出ると、メグが戸口で待っていた。
「ご飯できとーよ。ダイニングさ行かんね」
彼女の言う通り、俺の上がりを測って用意されていた。
「これは……」
目前の皿の数に、舌を巻いた。前菜からデザートまで一式揃っている。中でも、この巨大なステーキは……。俺はゲーマーなので、食にはこだわらない。いや、こだわれない。家を吹き飛ばされてから、ここにきての天佑だった。カウンターの向こうから、マムが話しかけてくる。
「スパイシースモーキーで良かったかしら?」
「え?」
「ああ、味付けのこと。seasoningを2回、hickory saltを2回、juice enhcrを4回」
「えっと……はい(よくわからない)」
「それに男の子は、ブルーレアなんでしょう?」
「?」
「お肉の焼き方のこと。もっと焼いた方がいいなら――」
「とっても美味しいです」
「よかった。けどごめんなさいね、本当はみんなで一緒に食べるでしょうけど……」
この一家は外食でもしない限り、共に食卓を囲まない。風呂上がりの人間から、流れ作業的に食事にありつく。気が立ったダッドが待てないからだ。既に彼は夕飯を食べ終わって、リビングでくつろいでいた。くつろぐと表現する割には、しかめっ面のままだけど。
「ウチのできとー?」
しばらくして、メグもやってきた。湯上りの彼女は、既にパジャマ。髪は全て下ろしてあり、まい先輩と同じ程度のセミロングだ。うーむ、すごく色っぽいぞ……。
「オレよりデカいステーキ食ってんのか!」
側を歩いてきたダッドが急に声を荒げた!
「え! えぇ⁉︎ す、すいません!」
「なん言いよっと!」
「そのステーキはオレの権利だ! こいつにゃスパムでも食わしてろ! オレの家では、オレがキングなんだぞ!」
「そんなキングはいりません」
「さっさ部屋に戻って、ブランデーでん舐めとかんね!」
優しいマムがぴしゃりとはねつけ、メグも援護射撃する。女性2人に睨まれると、流石に躊躇するのだろう。
「チッ。こんなガキ、芝生に寝かせてやれ。スプリンクラーで起こしてやる!」
捨て台詞を残して、すごすごと去っていった。
「なんなん、あん人? 売れない車屋のくせに、“キング”とかグラグラすー」
「ごめんなさいね、誰彼構わずあの調子なのよ……」
そうなんだ。まあ、家族内の小さな言い合いなら、むしろ羨ましいよな。少なくとも、俺が原因でなければの話だが……。
「なあ、やっぱ俺帰ろうか? 家族の雰囲気が悪くなるな――」
「Nvm! こんなん、いつものことて。ちゃんとベッドも用意しとーけん。あ、マム。アイスあったろ? ウチ食べたか。シンの分も出してー」
「もうゼリーがあるんだが……?」
「なん、ゼラチンじゃ満足せん。ウチ、バニラとショコラのダブルでいいニャン♪」
「じゃあ大宮君には“バースデーサプライズ”ね」
「え……? 別に今日、誕生日じゃないんですけど」
「バニラ、ショコラ、バターピーカンのトリプルに、トッピングはチェリー、カラースプレー、ホイップクリーム、チョコソースのスペシャルよ」
聞いただけで胸焼けしてしまった……。
案内された部屋は、ゲストルームだった。ベッドやちょっとした机が備え付けられている。今俺は、ぽつねんと床に座っていた。秒針がやけに大きく聞こえる。
つい日付が変わったところだ。パソコンもスマホもないので、手持ちぶさだな。既にメイヤー家は、しんとしていた。もう全員就寝したのか? メグなんか学校が終わった後、すぐに仕事だからな。すると、その本人がやってきた。
「Hi」
「おう、まだ起きてたんか」
「こっちん台詞よ。明かりん漏れとったけん見に来た。課題でんしとっとかなってね」
「お前はもう終わったの?」
「やらんよ。ウチ成績とか関係なかし」
その台詞の裏には、高校卒業と共に資格を取って家業を継ぐ、という意思が読み取られた。
「そっかそっか。あいにくナイトウォーカーは、目が爛々と冴えてね」
「遅までゲームしよるけんやろ?」
「そ。あのさ、メカニック初心者の本とかある?」
「今から研修? えらいマジメやん」
「いや、そうじゃなくて、足手まといになりたくねーから」
「そげん思ってなかて。まあ、あるにはあるばってん……」
メグは部屋のクローゼットを開けた。そして四つん這いになって、そこにしまってある箱をガサゴソとインタラクトする。しっかし、いい尻してるよなぁ……。
「これなんかどげん?」
色目で見られているとも気づかず、メグは本を渡してきた。それには既に線が引かれ、書き込みも多かった。しかし――
「英語ですか……」
「そっちん方が読むの早かし。漢字ん多かと、亀んごつ遅なる」
「Tools in garage……これを読むとボルトを締緩スピードが速くなります。Become a better mechanicは……ランダムパーツのコンディションが即わかるようになります」
「Fyi, Business managementは、収入が5%上がると銘打っとる。Master of commerceはパーツショップで割引が効くようになるごたね。けどマネージャー向けやん。シンにはいらんやろ?」
「あ、その2冊も読むわ」
「Are you serious?」
目をまろくし、メグが急に紅葉した。
「あ? ああ。後学のために」
「後学て……オーライ。こげんかときに、そげん言うてくうとは思いもせんやった。うんうん、シンらしか、ほなこつ」
なにやら一人合点しながら、手元の2冊を俺に渡す。
「でもさ、お前ってスゲーよな」
「なんが? 褒めてもなんも出てこんよ」
「いやいや、エンジニアだから当然なんだろうけど、手に技術持ってよ。よっぽど情熱と才能があるんだろ?」
「なかよそんなん。物心つく前から、ずっと手伝っとったけん、いつん間にかこげんなっとっただけやね」
自慢も謙遜もしなかった。この家に生を受けたメグは、ごく自然に、当然のようにメカニックになったのだ。
「けど、好きじゃなきゃ続けられんだろ?」
「よーわからん。ばってん、なんというか、そーね、壊れとったモンがちゃんとしたり、動き出したりするのは、見てて嬉しか」
何だろう、鹿島の職業観に似たものを感じた。あちらは人、メグは機械なんだろうけど。
「ダッドん影響もあるよ。もうわかっとるやろーけど、あん人くさ、人と関わるのが苦手やけん、ずーっと機械と向き合っとーと。天職やろこん仕事。あげん偏屈ばってんくさ、結構可愛かところもあっとよ」
「へーどんな?」
「壊れとるエンジンが動き出した時は、小躍りすっと。ウチ、『めずらしか。あん人が笑っとーやん。エンジンば直すて、バリすごかことやなか?』ち思っとー」
お年頃になると、女の子は父親を邪険に扱うとよく聞く。しかしメグは、減らず口を言い合いつつ、上手な距離をとっている。そんな風に感じた。
「ふーん。じゃさ、やっぱ従業員がいないのは?」
「そら、話ばしとなかけんやろ。どげん忙しかろーが、今まで1回も求人出したことなかよ」
「なるほど」
「けど、若い時はマリーンやったし、結婚もしとーけん、そげん社交性がなかとも思えんけどね」
リアル海兵隊員でしたか……あの体躯はもっともだ。ん?
「なあ、お前が軍用品の扱いに長けてるのって……」
「あーあれね、『ゾンビパンデミックになった時んサバイバルに』って、ダッドがバリ親身になって教えてくれたと。おかしかろ? そげんか災害起こるわけもなかつに」
ヒヒとほくそ笑んだ。本場アメリカを差し置いて、ここ日本がゾンビに溢れるとは思えないが、屈強な軍人も、どこかでゾンビを恐れているのだろうか。
「わ。こげんか時間やん。じゃ、そろそろウチ寝るけん。グッナイ!」
「2番のプラスだけで、車のネジの8割に適応する……」
次の日。俺はメグから借りた整備士の本を読んでいた。授業中だろうが休み時間だろうが、お構いなしだ。整備云々以前に、昨日使った工具すら知らなかったからな。なので、そこから勉強だ。
「何読んでるの?」
鹿島の声だ。シトラスの香りもするから、カレンもいるな。
「自動車整備士の本」
「は? アンタ技術科に転向するん?」
「いや」
………………
「コイツ目も合わせねー。なんでそんなに必死なん?」
「なぜなら必死だからだ」
「理由になってないね。けどまあ、元気そうだからいいか」
「あ?」
「やっと目を上げた……うーん、昨日はちゃんと食べて寝たんでしょ?」
2人のヒロインが、しげしげと見ていた。鹿島の台詞は付加疑問文で、もはや確証して念を押した言いっぷりである。何もかも見通しそうな診察眼とやらは、時々うっとおしくなる。
「そうだな。で、用は何だ?」
「今日の放課後に“病院”行くけど、どうかなって」
鹿島の言う病院とは、自身の診察や母親のお見舞いのためではない。エピソード2で、特別支援学校の院内分教室と交流をやって、今もその生徒たちと繋がりがあるからだ。
「すまん、ちょっと仕事がね」
「仕事ぉ? バイトやってるん?」
「違う。家が吹っ飛んだから、今メグん家に厄介になってんだよ。滞在費の代わりに仕事手伝っている。これを読む理由でもある」
「……」
鹿島は、眉根を寄せてカレンをちらり。直ぐに彼女は早口なって、両手を振る。
「ア、アタシじゃないアタシじゃ!」
「メグにしてやられた」
「そうなんだ、意外……」
『カレンちゃんみたいな事、やらかすの?』という顔だ。俺もここ最近メグの為人を知りつつある。前向きで、大らかで、派手なのが好きなんだよな。
「あ、そうそう。フクちゃんのお母さんが、アームのカタログに感謝してたよ。すぐ注文したって」
さっきも言った、特別支援に通う生徒さんとその母親だ。彼は、難病で身体の自由が難しく、ずっと寝たきりだ。だから、母親がずーっとタブレットを持っていて、腕が疲れるという困り感があった。だからタブレットを支えるアームのパンフレットを渡した。
「大変だな」
「うん。ほぼ毎日県外から来ているらしいの。休日は一日中いるみたいだし」
母の愛情だな。俺にはわからん話だ。
「ウチのママりん、絶対やらねぇそんなの」
と別のご家庭の内側もチラリ。
「こっちが落ち着いたらまた行くよ。みんなによろしくって伝えて」
「わかった、大宮くんも頑張ってね」
「あ、そうそう。ねぇシンイチ」
「あ?」
Shinichi was fragged by Karen's MP40.
「ブンダバー!」
「えっと、どういう理由でフラグしたのかな?」
「いや、エピソード3でまだ1回もやってなかったんで」
「残念。流石に理不尽すぎ……」
やっと全体の骨子が出来上がりつつあるので、今後は話を膨らませていきます。次回もよろしくです。