【e1m6】隠し目標
申し訳ないです、遅れました。できるなら週一のペースで更新しようと考えていますが、時間がないのであまり書く暇がありません。私の怠惰なので、もっと頑張ります。
カールグスタフの連射が、しじまを破って空気を震わせた。戦闘再開の狼煙だ。ホイッスルが高々と鳴り、ブルーフォーが鬨を上げる。G組は鈴なりになって、突っ走りながら盲射。危険なほど前進している! これは……フラグ覚悟の攻撃だ。スモークグレネードの煙が噴出し始めた。目で菅を追っていると、伏せていた奴が、振り返って長物を掲げた。
俺は、腕時計のストップウォッチを押すと共に駆け出す! 味方の速やかな進出と圧倒的な猛射により、オプフォーは完全に威圧された。けど程なく弾を使い尽くすだろう。くそ、責任重大だな!
難なく購買部まで来たが、そこでぎょっとした。
「人がダウンしてる……」
上履きとセーラ服のリボンの色からすると、上級生だ。巻き添えを食らったのか? 既に彼女も煙幕に包まれつつあった。まるで俺の戸惑いをかき消すように……。
「シンイチ!」
後ろからの声で我に返った俺は、鍵を取り出した。煙が濃くなるにつれ、咳き込み、舌で苦さを感じる。南京錠に突っ込んで回そうとするが具合が悪い。錆び付いているのか。力ずくで回すわけにはいかないので、鍵を前後に調整した。
「早くしなさいよっ⁉︎ 寝てんの⁉︎」
俺を口撃する暇があったら、連中に弾をギフトしてろよな! 試行錯誤やっていると、やっと解錠できた。パンコーナーに行くと、棚一面に陳列されている大量の商品に戸惑った。一体どれが唐揚げパンだ? 焦りに焦っていたので、どれも同じに見えてしまう。落ち着こうにも、そんな時間も状況もない。
「どれだよマジで……ん?」
台車に置いてある、積み重なった番重を見つけた。パンや弁当を納品する運搬容器の名称な。パンメーカーも印字されてある。
「これか……?」
チプカシを見ると、ロックを外して中を確認する時間はなさそうだ。もうこれに賭けるしかない。
台車に手をかけた瞬間、外の戦闘が一層激しさを増した。と同時に店に振動が走った。誰かがロケット弾を撃ち込んだのだろう。ただし購買部は建築物なので、傷1つ入らない。
「敵が突然沸いたのか?」
お決まりの展開に呆れつつ、台車を外に引っ張りだした。前線では、ゴルフは手酷くやられていた。オプフォーも決死の攻勢に出ている。このまま台車を押していけば、間に合うだろう。スモークグレネードは、既にその役目を果たし、ホールを一望できつつあった。
そして、購買部の近くでは、いまだにあの女子が横たわっていた。
「…………」
だめだ! やっぱ放置できん。彼女は犠牲者だから。台車から手を離し、そのまま女子に駆け寄った。肩を起こすと、腕を俺の方に回した。ピンクのセミロングヘアーが顔に掛かった。すっごい甘ったるい香りだ……。
そして、やけに足取りが重い。リアル系ゲームでも、負傷した味方を抱えると移動スピードが落ちるが、それの再現だろう。なんとか陣地まで連れて帰ると、みんな呆れていた。『シビリアン救出は大切かもしれんが、目標はどうするんだ』、そう言いたげだった。
「鹿島!」
「はいっ!」
衛生兵の腕章をしていた彼女は、待ち構えていたように飛び出してきた。
「この人頼む!」
俺は一言だけ。彼女もそれで理解した。ハハッ、これで“隠し目標”を達成したぞ。後で褒賞を貰えるかもな。
そして台車に向かって走りだした。カレンは俺の意図を察知して随伴する。ありがたい。俺の予定外の行動に、抵抗線はもう保持できない状態だ。もちろん、オプフォーはそれ以上の損害を出している。菅は同じ位置にいたが、床に突っ伏したまま微動だにしていなかった。
「すまん……」
もはや後方の予備隊が出て、必死でプッシュを食い止めていた。あちこちで弾が飛び交う中、俺が再び台車に飛びつくと、カレンは荷台に飛び乗った。オプフォーに背を向けて撤退すると、俺の背中が丸々被弾面となる。だから、台車と番重をカバーにしながら引く。
カレンは番重の後ろに立ち、前からの襲来を撃退する。案の定、敵は俺らの喉元に向かって飛びかかってきた。しかし、カレンのエイムには叶わない。MP40がゲップを鳴らしながら硝煙を吐き、次々とフラグしていく。マガジンが空になった。彼女は一瞬銃を見た。好機と見た男子が飛びかかった。しかし、カレンはマズルでその顔を殴りつけた。ありゃ本気でぶん殴ったな。かわいそう……。
今やブルーフォーは壊滅寸前で、台車を引っ張るのと同調して退いている。一方オプフォーは、新しい人が階段やら廊下やら湧くように現れていた。
「なんなのぉコレェ! 無限湧きじゃん!」
カレンが悲鳴を上げるが、全く同じことを思ったよ。しかも大半は、なぜか俺らに向かって突っ込んできている。そのように設定されているのか?
カレンは重番の上にマガジンを並べて、必要に応じてタクティカルリロードしていた。『毎分500発の連射速度で、集弾性も良く、しかも反動は非常に穏やかで扱いやすいのよね』と、いつも彼女はMP40を愛でている。
「!」
彼女の背中から怒りを感じた。あまりにも大量湧きすぎて、いらだっているのがわかる。つまり、パンツァーファウストの出番だな。
「おい、降りろ!」
ちょうどその時、なんとか陣地後衛まで後退することができた。奴の背中を叩くと同時に、番重を抱えた。ロックとフタがあるので、積み重なって箱のように持てる。
ものすごい轟音と同時に爆発。至近距離に撃ち込んだな。味方を巻き込んでなければいいが、コイツならやりかねん。そのまま階段を駆け上がった。もうこれを持って遠回りにクラスに帰るだけ……と考えると気が抜けてしまう。しかし、このお馬鹿イベントが終わるまで何が起こるかはわからない。
もう余計な演出はいらんぞ……と思いつつ廊下をパタパタ走って行くのだった。
少しづつ読んでくれる人が増えているみたいで嬉しいです。感想などよろしくお願いします。