【e3m6】DYNAMITE PLANTED IN MY ROOM!
ネットに接続できなかったので投稿が遅れました。その間書きだめていたので、連投できそうです。
パァァァンと、残響が長く引く破裂音で、俺は叩き起こされた!
「なっ……カ、カレン⁉︎」
こんな朝っぱらから、イベントを始めるのは奴しかいない。案の定、ベッド側に人が立っていた。しかしあの甲高い声ではなく、ポツリと――
「違う。自分」
だけつぶやいた。目を擦って、よくその顔を覗くと、スナイパーの小早川氏だった。その手に持つボルトアクション式狙撃銃から、うっすら硝煙が出ている。そして、天井にデカールが1つ。
「なぜアンタが……?」
「朝のお目覚めイベント〜」
銃をしまって、1人虚しく手を叩く。声の抑揚がないし、表情も乏しい。
「……嬉しくない?」
「当たり前だ!」
「なぜ?」
「俺がフラグされて、家も吹き飛ぶオチだからっ!」
「けど久しぶり」
「2度といらねwww」
久しぶりとは、よくカレンが、ダイナマイト目覚まし時計などで、俺を叩き起こしていた(家を吹っ飛ばしていた)事件を指す。
「もう今朝のお膳立ては完了。さあどうぞ」
俺を見据え、机をスッと指す。そちらに目を凝らすと、アタッシュケースが鎮座していた。
「ミーガンからのギフト」
俺はこのヒロインをよく知らないが、常に捉え所のない態度で、言葉も少なく、多くを語らない。理系教科では並ぶ者がいないほど優秀で、身体能力も高い。まあそんなヒロイン評は、今はどうでもいい。誘蛾灯に惹かれるが如く、恐る恐るケースを開けると、ビープ音と共にライトが点灯した。と同時に、ミッション目標に“爆弾の解除”が追加。
「うわああああ!」
「貴方ってバカなの?」
俺が頭を抱え、嘆きを上げても、彼女はポーカーフェイスを守ったままだ。
「なんてこった……マジでバカじゃね⁉︎ これインタラクトしなかったら、安全にイベントスキップできたじゃん……なまじ稼働させてしまったから、ミッション目標が“解除”になってしまった」
「自分は、開けろと言っていない」
人ごとのように言い切る。言葉遊びかよ、そう睨みつける。
「そう言わんばかりに誘導したろ」
「家を犠牲にしてもいいなら、避難という選択もある」
「今更そんなことできるか。あっ……!」
その時、ふと思い出した。前にダイナマイトを食らった後、対策を考えたのだ。クローゼットから小型ボンベを取り出す。
「それは何?」
「液体窒素だ。起爆装置を一気に冷凍s――アレェ?」
やけに軽い。蓋を開けても、白煙は出てこない。ボンベを逆さまにしても、雫一滴出てこない。
「漏洩して全部蒸発している……」
「プッ」
ほんの一瞬で、小さくはあったが、彼女は吹き出した。
「笑うなっ! もうゲームオーバーだっ!」
「落ち着く。解除方法はある。よく見て」
ケースの中身をよく確認して、今一度鳥肌がたった。カレンが即席でクラフトした奴と訳が違った。なんて説明すればいいのだろう……朝から頭が回らんが、なんつーか専科のマジもんだ。
キーパッド、基盤に長短のケーブル、制御装置、電源、緑のキャニスターが、スポンジに詰め込まれている。いつの間にか、すぐ横に小早川氏がいた。危険物の目前にいることすら何処吹く風という様子。
「これ、x21-MTEDね。プラスAグレードの高性能起爆装置。多数の遠隔地点を制御爆破する」
「もう名前からして危ねぇ。ん……? 俺、これ知ってるぞ! てことは? 今、家中にブラスターが仕掛けられているんか?」
「正確には4ヶ所ね」
「メグだろ⁉︎ メグがやったんだな! あいつ今どこいんだよ⁉︎」
「ミーガンはいない。設置は自分がやった。ともかく、知ってるなら話は早い。まずブラスターを処理して、最後にそれに“息を吹きかける”」
「この起爆システムは、ブラックライトで光る気体で満たされた、“巨乳”チューブで接続してんだろ?」
俺は部屋から出た。本来なら、ライトを当てて誘導線を辿るべきだが、自分の家だ。そうしなくても、ブラスターの設置場所には目星がつく。
父さんの部屋に入った。異物はすぐに見つかった。壁にひっつく形で、ケースに入ったブラスターが、ビープ音を発していた。しげしげ眺めながら――
「取り外すと、爆破するんだよな」
と独り言。
「そう。窓から捨てる」
音もなく、戸口に小早川氏が立っていた。そして、部屋の隅まで歩いて窓を開けた。
「どうぞ」
と彼女が視線を向けたので、俺はブラスターを取り出した! ビープ音は高く短い間隔になって、俺を煽る! 慌てることなく、外に投げ捨てた!
お隣さん大丈夫かって? みんなとっくに引っ越してら! 隣接する土地は、長いこと売れられたままだ。今日のイベントを見れば、理由はわかるだろ? 缶が草むらに落ちて転がると、ドォンと破裂した。近所迷惑な音がそこら中に鳴り響く。
「っしゃ! 次ィ!」
その部屋を出た。しっかしメグの奴、自分のエピソードだからって、とんでもないイベントを仕掛けてくれやがったぜ。おかげで、すっかり目が覚めたぞ! 迷惑千万この上ない。この上ないが……“爆弾を適切に処理した”というミッションを達成し、気分は高揚していた。
「やはりな」
思惑通り、2つ目のブラスターは、キッチンの冷蔵庫に貼り付けてあった。勝手口を開けて、そのまま投げ捨てる! 先ほどと同じ様な破裂音。朝日が眩しく、ツバメが早口にまくし立て、人通りまばらな住宅街にとって、異様な音だ。だが、誰も騒ぎもしない。もうね、ここ一帯の住人は、空爆があっても平静でいられるだろう。
続けて、納戸に入った。タンスにブラスターが貼り付けてあった。
「ここは投げるのが難しい」
後ろに立っていた小早川氏がポツリ。天井に近い小窓しかないからな。
「どうしよう……あれ開かない窓だ。ガラス割れなかったら、シャレにならん」
小早川氏は、ウェルロッドで、窓を撃ち割った。許可得ず、人ん家の調度品を撃ち壊されるのは不本意だ。しかし、確実にブラスターを処理するためには、やむを得まい。
小さな窓に狙いをつけ、投擲! 無事に家の外に飛び出た。どこに落ちたかは知らんが、まあ売地を少々掘り返したぐらいだろう。
「さて……」
最後は、俺の部屋の本体だな。あのキャニスターが、言わば親ブラスターだ。
ところで、賢明な諸プレイヤーは、俺があまり急かされていないことに気づいているだろう。それは、今のところ時限イベントではないからだ。なぜと問われれば、そういうイベントだから、と答える他ないが。
「しかし……」
自然と気が引き締まる。過去の記憶によると、爆弾本体にインタラクトすると、カウントダウンが発生する。それが0になる前に、爆弾本体の形状を、小早川氏に伝えるのだ。そうすると、彼女が対処法を教えてくれる……はず。彼女はさっき一緒に見ていたが、正当な攻略上、きちんと俺が伝えないとダメだろう。
俺の部屋に戻ってきた。相変わらず危険物は起動中。よく考えたらさ、ケースごと投げ捨てられんかね? “傾きを感知すると即爆破”する設定が加えられてそうで、できないが……。
カウントダウンは既に始まっており、制御装置のタイマーが57秒を示していた。
「小早川さんよ」
「?」
俺の自信ありげな顔に、彼女はうっすらと眉根を寄せていた。よーく見れば、彼女も表情を変えるのな。
「えーっと、20個のキーパッド、点灯LED4つ、長いワイヤ1本・短いの2本、キャニスターが2缶、120vと12vの電源だぞ」
手早く伝えた…………………………。
「何?」
しばしの沈黙の後、そう返した。
「いやいやご冗談を! ちゃんと伝えたぞ。あとはお前が、対処法教えるんだろ⁉︎」
「自分は解除方法まで聞いてない」
「ウソォ⁉︎」
正攻法がダメなら、素人の俺にどうしろと……?
「早く」
残り30秒。彼女の声にもわずかに焦りが滲む。
「クッソ、もういいよ。お前脱出しろ」
彼女は何も返さないし、動きもしない。もしかして、俺に申し訳ない気持ちでもあるんか? そんな同情いらんぞ? 多分さ、全く痛みを感じる間も無く、一瞬でフラグだろうが、そんなの付き合う必要ねぇよ。俺は家を守るミッションがあるから逃げられないけど。
「あのさ、マジでヒントとか知らねーの?」
彼女は無言でかぶりを振った。シラを切っているとも、本当とも思えない。なぜなら、彼女のことはよく知らんから。
「あと20秒」
役に立たないどころか、緊張すら煽ってきやがる! 必死に記憶を手繰り寄せる。確かさ、ケーブルを切るはずだ。ケース内には、右に12v、左に120vの電源ケーブルが制御装置につながっている。このどっちかだ。今時こんな、“時間切れ直前で、どっちかのケーブルを切断する”、みたいな演出をやらされるとは……。
「10秒」
「ボードゲームの持ち時間みたいな声出すな」
こめかみから脂汗が垂れていた。手汗も半端ない。
「12v……120v……」
ピコン、ピコンと1秒1秒と刻んでいく。もう腹括らねぇと……。あのさ、イベント的には……イベント的には、爆破するのが面白い。そうに決まってる。メグもカレンも、読者諸氏もそう望んでるだろ? だろ⁉︎ 何を考えているんだ俺⁉︎ そんな面白さ云々が脳内を駆け巡っている時点で、どうかしている。
「自分は今日の運勢、12星座占いを見てきた」
呆れた。非常に有益なアドバイスじゃないっすか。あれか? 今日のラッキーナンバーを残せとでも言うのかい?
「大宮のラッキーカラー、むらs――」
「今回も読んでくれてありがとうございました」
Shinichi was blasted by Meg’s x21-MTED.
Sasami was blasted by Meg’s x21-MTED.
!実績解除!【エンジニア万歳】
条件:大宮家が破壊された。