【e3m5】乗り物ミッション
ステルスミッションから一変してアクションFPSの乗り物系ミッションにしました。
CUTSCENE(画面上下に黒帯)
蹴破られた扉が、ばったり倒れる。
どやどやと、幾つもの“上履き”が乱入する。
「どこへ行った⁉︎ パソコンも消えてる!」
1枚の窓が開けっ放しで、カーテンがはためいている。
視点カメラは館の外から。ブルーフォーの1人、窓から下を覗く。
「報告、両名とも窓から脱出した模様。繰り返す――」と無線。
ピンク髪の上級生が入ってくる。
『先輩!』と守衛が姿勢を正す。
「( ´•௰•`) おーみやくん、いない?」
「脱出済みかと」
常田まい、訝しげな表情。
「1階警備班に連絡、館周辺を警戒せよ。館内に潜んでい……」と無線。
ブルーフォー、慌ただしく退出。
常田まい、1人残される。
目を瞑って、顔をやや上げる。
「( ¯ὢ¯ ) おーみやくんのにおいするけど、わかんないな……」
ニスや絵の具の缶を一べつする。
ふと掃除用具入れに気づく。(ピアノ効果音)
常田まいの顔アップ(緊張を煽るBGM)
ゆっくりと掃除用具入れの前に歩き、取っ手に手をかける。(緊張を煽るBGMが最高潮)
「先輩! 菅さんから連絡です」
「⸜( ॑꒳ ॑ )⸝ あ、はいはーい」
常田まい、掃除用具入れから離れて退出。
カメラは掃除用具入れにゆっくりズームし、フェードアウト。
CUTSCENE END
「Phew. That was close...」
扉の隙間から先輩の姿が消えると、俺とメグは大きな息をついて安堵した。バレていたら、どうなってたことやら……。つまりな、今俺とメグは抱擁とかハグのレベルじゃない、がっつり絡み合っているのだ。お互いの股に片足突っ込んで、彼女の胸部は俺のそれに押し付けて、互いの頰もぴったり寄せ合っている。おまけに暗く狭い密室で、強いミントの香りが鼻を突き抜けてくる。
そんな悶々とした俺の手を、彼女は引いてさっと外に出た。あんな破廉恥な体勢だったのに、まるで気にもとめていない。俺が気にしすぎなのだろうか?
差し当たり一難は去った。後はこのパソコンを同好会室に持っていくだけ。予定では、メグは敵を撹乱させ、俺は屋上のヘリコプターに乗って脱出する。
「よか? ウチが騒いどる間に上さん行くんよ?」
「ああ、お前も無茶すんなよ」
「まかせときんしゃい」
とウィンク。こんな時でもスマイルで余裕を感じさせる。彼女は廊下に出ると、ダブルバレルショットガンを天井に向けて撃った。
「HEY YOU BUSTERS! I’M HERE!」
と相手をあざけて、逃げ出した。
「Ya NEVER catch me hahaha haha-♪」
という歌を残して。煽られた何人のもブルーフォーが、扉を横切っていた。
様子を見て、廊下に出る。シビリアンもいるので、下手にステルスを装うより、普段通り歩いた方がバレないだろう。ほどなく屋上に続く階段を見つけた。ここまでトラブルなく進むと逆に怖いな。無理やり力技で進めるバカが一緒にいないからだろう。メグが言った通り、ヘリのローター音が聞こえてくる。
「これはっ……」
外へ出ると、息を飲んだ。この黒光りする不気味な機体は、SH-187型ステルスヘリコプターだ。不可視電磁スペクトルの97パーセントにおいて、その姿は見えない……らしい。次世代多目的ヘリらしいが、もう実践配備されていたのか。なんだか俺、UNATCOエージェントだな。
「てか、なぜメグはこんな代物を……」
恐る恐る近寄ってみると、キャノピーはスモークが入っていて、パイロットがいるのかわからない。ただ、もう1つが俺を招くように開いており、いつでも発進準備ができている。
『シン、なんしよーと⁉︎ はよ乗らんねっ』
不意に、メグの声がスピーカーを通して流れた。
「え、お前乗っているの⁉︎」
『遠隔たい! はよっ!』
言われるままに乗り込むと、シートベルトをする間もなく、すぐに機体は上昇する。周囲の地面が浮いていく。これでお馬鹿イベントは完了だ。
なんだか一抹の……いや、特大の不安がよぎった。あのさ、“アクション物・ヘリコプター・主人公”の混ぜ合わせほど、危険なものはあるか? けどまあ、このヘリは最新型だし、目的地はすぐそこだし……。身に絡みつく不吉を振り払っていた時だった。
機体が大きく揺れた! 揺れたというより、外部からの衝撃だ!
『What’s a hell?』
ヘリの周辺で、彩り様々な煙があちこちで花開く。これは……対空砲じゃねーかっ!
「先輩!!!」
カレンに雇われたであろうヒロインに叫ぶと、呼応するように機体の横っ腹にボディブローを食らった! けたたましいサイレンが悲鳴をあげる。メグから見ると、ヘリは落葉のように舞っていただろう。中の俺は、文字通り上を下へだ。なんだよこの展開、マジで様式美じゃねーか!
『WE’RE GOIN’DOWN!』
『こんなシーンでは、フラグしない』とわかりきっていたが、体のあちこちを打って、目眩がする。なんとか横倒しの機体から這い出た。最新ヘリは残骸と化していた。
「唐揚げパンといい、パソコンといい、なんでどーでもいいもののため、ゲホッゲホッ……!」
以後は言葉にできない程しんどかった。ペタンと地べたに座り込む。登る白煙と金属の焼ける臭いが不快だ。
『シン、シン、if you’re alive, say something!』
通信機能は生きているらしく、ノイズの乗ったメグの声が流れてくる。
「Something……」
ポツリ呟いてやるが、相手には聞こえない。ショックが和らいでくると、小気味好いエンジン音が唸りを上げてきた。1台の小型ATVが急ブレーキをかけ、残骸の横付けで停まった。
「Get in, get in!」
メグだった。よくもまあ、これだけ乗り物を用意すること。なんですか? ヘリの次は車ですか?
「これ1人乗りじゃ……」
「なああん、詰めりゃよかろーもん、はよせんねっ!」
飛翔館から離れた場所に墜落したが、すぐにでもブルーフォーの連中が殺到するだろう。だからメグは、しきりに急かしてくる。やがてATVとは別の音も聞こえてきた。
「聞こえるねアレ? キャレンのベスパやろ」
彼女は遠くから唸るエンジン音で、車種を特定する。フルスロットルらしく、姿を見ずともカレンの怒りを表現していた。もう事は知れているから、捕まったらフラグ待った無しだ。
メグの後ろに座り、その肩に恐る恐る手を添えた。
「なああん、そんじゃ振り落とされる。もっと抱きつかんね!」
「……えっと」
「huh, 嫌でんそうしてもらうし」
と吐き捨てる前に、メグはスロットルを目一杯にねぶった。急発進で振り落とされそうになる。振りほどかれた手は、とっさに前に伸びて、何かを掴んだ。つきたての餅の感触があった。
「Oh! どさくさにまぎれていやらしかー!」
と顔を上げて豪快に笑った。この世にラッキースケベなんかあるもんか、とバカにしていたが、ひょっとしてこんなのを言うのではないか? 今俺の手に余るほどの、“2つの果実”を握りしめている。
俺らは校庭横の私道に滑り出た。目標地点の部室は、もう手の届きそうな距離だが、高い防球ネットが立ちふさがっているので、大回りをしている。
「Darn it! SHE’s comin’!」
メグが振り向きざまに叫ぶ。つられて俺も見ると、カレンの真っ赤な原付が、後ろに迫っていた。フルフェイスをしているので奴だと確認できないが、白昼堂々校内を乗り回すのは、カレン以外いないだろ。
折しも今は下校のピーク時だ。北校舎前の私道は、多数の生徒で埋められていた。メグは、クラクションを鳴らしつつ、生徒の間を縫うように車を飛ばす。当然みんな大わらわだ。俺も左右に振り回され、落とされないよう必死でしがみ付く。一方カレンは、俺らが“開拓した”道を追いかけるだけなので、差は縮まっていく。
しかし幸運なことに、すぐに校庭に突入した。部室まで、対角線状に突っ切る形になる。前方に障害物がないなら、排気量の差でぶっちぎれる。
メグが俺のウィンドシールドとなっていて、分厚い空気の壁を裂いていた。ATVにメットは不要だが、飛び石とか安全を考えると必須だな。彼女のシンプルな2つ結びの髪が、吹き流しのようにバタバタと絶えずしなっていた。
すぐ後ろまで迫っていたエンジン音が急に途絶えた。遠くでカレンは原付から足を着き、停車していたのだ。諦めた? んなわけあるか! 大気が切り裂かれる咆哮が、カレンの、いや先輩の一手だ!
「Oh shiiiiiiiiit!」
メグが吐き捨てると同時に、次々と榴弾が落下。ポップなカラーの煙柱が、次々と立ち登る! 後少し、イベント終了ポイントの同好会室前に差し掛かった時だった。ピンク色の逆立つ煙が急にそびえ立ち、突き上げるエネルギーは、ATVをおもちゃのように吹き飛ばす。舞い上がった俺の視界は、空と地面がぐるぐると入れ代わり、地にたたきつける衝撃が、回想シーンの終わりとなった。
……ここでエピソードの冒頭と繋がった。えらい長かったな。
「戻った? アンタもマークしておいて正解だったわ。けど、アタシの勝ちね」
悪役ヅラのカレンが、ルガーを持ち上げ、俺の目の前でその引き金を――
Satoshi was fragged by Sasami’s Snooper rifle.
菅が音もなく忍び襲った30口径弾を受けてフラグされた! カレンの注意は逸れ、俺の後ろいるであろう、小早川氏に向け撃った。
「シンッ!」
横を向くと、既にダブルバレルショットガンが滑り寄っていた。スローモーションになり、俺の右手が無意識に伸びる。2つのバレルをカレンの腹に当てた時、彼女と目があった。
「!」
彼女の“尺取り虫”は、折れ曲がったまま動かない。もう俺が人差し指を引くだけで勝ちだ。
「……」
ゲームだったら、なんら戸惑いなくクリックできる。だが、これはゲームじゃないからな……。カレンと視線が合ったので、むしろ引き金から指を離してしまった。
彼女は足を上げた。そのまま俺を踏みつb――
Karen was fragged by Nozomi’s Sten Mk2.
バッタリ倒れるカレン。ははっ……大物は依頼主本人がフラグしましたか。
「こずゑどの、こずゑどの。畢り申した。宮どの、大丈夫でおざるか?」
同好会室から駆け寄ってきた彼女。ははっ、あたかも一本道シューターの見本ように、全てがテンプレート通りに進んだな。全く面白くない。俺はよっこらしょと立ち上がり、制服に着いた砂埃を払う。悪党2人が倒れたので、お馬鹿イベントは終了だ。向こうでは、鹿島がメグを介抱していた。
インベントリからノートパソコンを取り出して、辻さんにくれてやった。
「ほらよ」
「唯唯、致したり。確かに受領申した。御志かしこまり侍り」
ここで初めて辻さんは、如法と咲った。満足げにパソコンを受け取ると、ダウンしているカレンに向かって――
「櫻どの。此度も妾に天運微笑みましたな。汝が不体裁、しばし衆目に晒し給え。ま、今は殞没の身に、何言うてもあじきなきことなれど」
としたり顔。そして、ポケットからシール(×付きの桜の花)を取り出すと、パソコンの天板に1枚貼り付けた。カレンのフラグマークかよ……。誰が何の目的で、こんなシールをベタベタ貼っているのかと怪しんでいたが。
「では妾、これにて暇申して去らん」
惜しげも無く俺にノートを突き返すと、さっさと帰ろうとした。
「え? コレ必要なんじゃ?」
「その折に、再び借用願いましょう」
俺の問いかけに、振り返りもせず応えた。唖然として、彼女の小さな後ろ姿を見届ける。何ですか? 結局俺らは、辻さんのお遊びに付き合わされただけ? たかがシール1枚貼るため、飛翔館を物々しい雰囲気にして、ヘリとATVを潰し、他の生徒をロードフラグしそうになって、運動場に砲撃を加えた。
「……」
呆れてものも言えなかった。
「まーウチらの勝ちということで、結果オーライやろ♪」
瀕死だったメグもすっかり回復していた。セーラー服は砂まみれになっていたが、ひと暴れして、清々しい顔だった。
「見て。あの2人を蘇生してる」
いつの間にか小早川氏も側に来ていた。彼女の指差す方を見ると、鹿島は菅の蘇生に取り掛かっている。氏の言葉の裏を察知したメグは――
「ウチらも行こ? キャレンがリバイブしたら、せからしかし」
と提案した。確かに。辻さんは、カレンといざこざ起こすのを嫌って帰ったのだろう。当然彼女がいないなら、カレンは俺らに八つ当たりすること請け合いだ。
「おい鹿島、そいつ蘇生すると面倒なんで、先に俺ら帰るわ。後よろしく」
「う、うん……」
今回も読んでくださってありがとうございます。今回のお馬鹿イベントは、メグのキャラ被りを避けるために、あえてカレンを敵にして露出を控えさせましたが、いまいちでした。以後はまた白紙状態なので、しばらく時間ください。