【e3m2】低スペックパソコンを奪う儀
一ヶ月近く放置してました。申し訳ないです。
「ん?」
ゲームを終え休息している時に、音声通話ソフトから呼び出しがあった。
「里の……なんて読むんだコレ?」
“里の无名”という知らないユーザーだった。どうせ詐欺かその類だろうと、着信拒否する。すると、時を置かずして家の電話が鳴った。行って見ると、画面に“ツジ”と表示されていた。
「物申す物申す。宮どのやある?」
その従容とした聲色で、古語を使うのは叔母さんではない。その女さんだ。
「おう」
「ゑゝ口惜しや。いかでか妾の呼鈴に応じず?」
「何? よびりん? もしかして、さっきのお前だったの?」
「げに」
「どうやって俺のアカウントを?」
「櫻どのに、案内を伺えり」
こいつとカレンってさ、実は仲良いだろ?
「あっそ。で?」
「いまごへんにたりふしもうすぎあり。すなわt――」
「なぁ、ちょっとわかりやすく喋ってくれないか? 対面ならなんとなくニュアンスわかるが、こう電話口だとわからん」
彼女の言葉を遮って願い出た。一寸間を置き、ハァと嘆息が1つ聞こえた。どこか艶かしさも含まれていた。
「左様におっしゃるなら……」
「すまんね。で?」
どうせ同好会のパソコンだろうと、見当つけていたが、どうやらそうらしい。
「あの後妾は、喚き散らす霊長類御前に1つ泡吹かせてやらんと、びっくりフラッシュを仕掛けて、パソコンを返し候。首尾よく、アレは1丈驚き飛び上がって、それはそれは愉快でして――」
折角奪ったノートをまた返した……? 辻さんはクツクツと、匂いこぼれる花のように打笑った。電話口だと、その顔は見れないし、普段の彼女から想像もできない。
「――コホン、失礼。して、かのオランウータン御前は、地獄の冥官すらわななく嗔を顕し、所もおかず妾に襲せ申した。わずかに虎口を逃れたのでございます」
俺は相槌だけ打っていたが、やけに饒舌だと感じた。時々こいつと話す機会はあるが、用件の問答が済めば会話も終わる。要点のわからない、行方のない雑談なんて普段やらないはずだ。なので単刀直入に聞いた。
「で? 俺にどうしろと?」
「明日は、宮どのにばひ取っていたたきとう存じます」
「……なんで?」
「一つ。あの後オランウータンは、パソコンを飛翔館に据え、徒党を以て固めた為。二つ。御辺は彼奴等の敵でない為。三つ。故に軍も起こらない為」
正直、辻さんのために働く義理はない。情報科のスキルを使って、自分でやれば良いことだ。しかし、コイツとカレンが対峙して、諍いが起きないためしはない。
辻さんは、『妾eスポーツ同好会員にあらじ』と未だに認めないので、職員室の不評を買うドンパチも辞さないだろう。いわんや、ケンカ売られて血の上った霊長類が、それを考えるかって話だ。それに、俺も鹿島も、いい加減奴らのケンカに辟易している。
「ステルスで、パソコンを取ってこいってわけか?」
「強窃その手法の如何は、問いませぬ」
ちょっと考えたが、そこまで難儀ではなさそうだ。辻さんの言う通り、俺はカレン側の人間だからな。パッと取って、素知らぬ顔で出てくればいい。
「もしもの折、宮どのは櫻どのに弓引けますまい。故、或る御前に助太刀申し上げました。恵どのであります。あの隅目に太刀打ちできる御前は、かの女房を置いて外におりますまい。しかも櫻が友ばら。疑いもなかろうと存じます」
さすがだな。見目形の目立つメグを置けば、地味な俺なんて誰の目にも入らないはず。コソ泥を仕出かすに、もってこいのパートナーだ。
「わかったよ」
「忝うございます。パソコンは部室にて承り〼。ではご健闘を」
そう残すと、あっけなく電話を切った。通話時間を見ると、奴との会話の最長記録だった。後で調べたが、奴のハンドルネームは、里の无名と読む。“田舎の名無し”という意味だった。
!実績解除!【みんなリアフレ】
:条件:全ヒロインのハンドルネームを知った。
一応今回のお馬鹿イベントまではほぼ執筆完了しているので、短期間で出せると思いますが、以後は白紙です。メグのキャラクター性もいまいち癖がなく、せいぜい毒のないカレン程度ぐらいしか表現できていません。困ったものだ……。