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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e2m19】呼び出し

遅れました。ごめんなさい。

 朝課外。教師の念仏が聞こえる中、俺は頬杖ついてぼんやりしていた。昨日カレンはオフラインだった。今日もギリギリに登校。そして鹿島は欠席。つまり、昨日の交流の顛末がどうだったか、未だに知らない。心中ずっとモヤモヤしていると、副担任が申し訳なさそうに入ってきた。

「桜さん、大宮くん、ちょっと校長室へ」

「?」

 突然の招聘(しょうへい)に眉根を寄せた。カレンのバカ、また何かやらかしたのか? ご指名だというのに、突っ伏してスースー寝息を立ててやがる。

 背中を強く叩いても唸るだけ。どんだけ熟睡してんだよ……。しょうがないので、負傷兵を抱えるようにカレンの腕を肩に回し、のろのろと教室を出た。

「なぁ昨日交流に行ったのか?」

 ヨダレがべっちょりついている奴に言っても無駄だな。寝癖が酷く、シトラスの香りすらしない。風呂入ったのか? 臭くはないけど。

「校長室だぞ、目を覚ませ」

 頰をバチバチ叩くと、すっごくブサイク顔で起きやがった。

「ん゙ん゙……なんで?」

「知るか。失礼します」

 入室すると、校長机の前に別の女子がいた。よく見ると鹿島だった。

「……なんでお前がここに?」

「うん」

「ちょっと3人に確認したいことがあってね」

 恰幅のよい校長は、口をへの字にして、顎に梅干しを作っていた。誰が見たって悪い知らせだなこりゃ。

「君たち、昨日の交流は?」

「行ってない」

「僕も急用があったので……」

「そうか。さっき先方の校長から、『誰も来なかった』と報告があってね」

「え⁉︎ お前も?」

 ずっと暗鬱な顔をしていた鹿島は、うつむき気味に肯く。

「またお母さん倒れたの。外で。頭打って出血してるって救急から連絡があったから……」

「マジか……⁉︎」

「うん。私、大宮くんは行ってると思って」

 なんてこった……つまり、各々用事ができたものの、他の人が行っているだろうと踏んで、連絡1つ寄越さなかったのか。相当なポカじゃん。

「事情はわかった。3人とも用事があったと伝えておこう」

「あ、あの、今日謝りに行っていいですか? 昨日で交流は終わりましたけど、だからと言って、もう会ってはいけないわけじゃありませんし!」

 俺は慌てて挽回策を講じた。いくら校長経由で謝罪するとしても、俺ら本人が頭を下げなきゃ、誠意は伝わらないからだ。

「私もそうしたいけど、病院でノロが発生したんだよ」

「こんな時期に? ありえなくね?」

「季節外れで検出例も少ないけど……実際起こったんだよ」

 鹿島の声に元気がない。目も合わせようとしなかった。続けて校長が状況を説明する。

「発生は別病棟らしいが、病院は面会謝絶を5日設けた。相手校の教職員も当然含まれている」

「直接関係ないなら、ちょっとだけ――」

「ダメだよ。今病院はピリピリしてるし、万が一感染が拡大したら……」

 院内の雰囲気を読めそうな鹿島がピシャリ。謝ることすらできないのか。じゃ相手の先生に、電話で謝意を伝えてもらおうか? けど、フクちゃんら本人に言わなきゃ意味がないのではないか?

「先方には私が改めて謝罪するので、ノロが収束したら会いに行きなさい」

 校長はそう提案した。さすが一校のトップにもなると、学校間トラブルでも取り乱したりしないのな。しかも、ヘマをした俺らに対して怒りもしない。

「迷惑をかけて申し訳ありませんでしたっ!」

 3人平謝りして、校長室を出た。


「で? ママはどうなん?」

 すっかり目が覚めたカレンが聞いた。

「数針縫うだけで済んだけど、持病もあるから念の為また入院してる。大丈夫だよ」

「良かった。てかさ、アンタ何やってたん?」

「先輩と遊んでた」

「はぁああぁぁぁあああ⁉︎」

 驚きと苛立ちの混じった大音量が廊下を響かせるが、鹿島の無表情の方がキツい。

「待て! いや、これは不可抗力でな……説明させてくれ。うぉい、その物騒な物をしまえ!」

 先輩にフラグされたこと、リスポーンしたのがショッピングモールだったこと、彼女が駄々こねて騒ぎを起こしたことを、時系列順に親切丁寧に説明した。

「ばっかじゃん⁉︎ そんなんシカトしとけ!」

 カレンは吐き捨てるように断罪した、全く同感だよ。

「てか、なぜお前は行かなかった?」

「アタシは、一昨日だけの助っ人でしょ? それにゲームの練習があったし」

「だよな……ごめん鹿島、マジでごめん」

「しょうがないよ。私だって、気が動転して忘れていたから」

 鹿島の場合は、肉親の緊急なのでしょうがない。カレンの都合も、以前からわかっていた。一番の失態は、やはり俺だ。予定時間が過ぎていたとしても、雨が降ってたとしても行くべきだった。無意識の内に、交流よりも可愛い先輩を選んだのではないか? それがこんな2校の問題になるなんて……後悔してもやりきれない。

「怒ってるでしょ? 代わりにぶっ飛ばそうか?」

「そういうのは止めようね?」

 改めてカレンの掲げたパンツァーファウストを手で制し、鹿島はスタスタと1人歩き出す。

「あれマジで怒ってるジャン、どーすんのよ?」

「わかってるよ、俺だって――」

 カレンと声を潜めていると、先の方から鹿島は振り向いた。

「早くしないと、課外終わっちゃうよ?」


 中休みにぼーっとしていると、ふわっと甘い香りが漂ってきた。先輩が来たな。

「(*´∀`*) おーみやく〜ん❤︎」

 今日は普通にスポーンしましたか。昨日もそうしてくれれば……と悔やまれる。

「(*ฅ́˘ฅ̀*) まい、きのうとっても楽しかった。夜もずっと思い出して、ねれなかったよ❤︎」

 頰に両手を当て、フワフワとした夢心地の表情。沈痛の俺とは対照的だ。信じられるか? こんな愛くるしい人が、地べたに寝っ転がってワンワン喚いたんだぜ? もっと分別あるヒロインかと思ったが、大間違いだ。

「( •͈૦•͈) おーみやくん?」

 そしてなんでだろう。先輩が視野(サイト)に入ると、視線が巨乳にオートエイムするんだよ。家庭用機じゃあるまし、これバグか、それとも仕様か?

「( ᵒ̴̶̷᷄дᵒ̴̶̷᷅ ) どうしたの? おーみやくん、こわい顔してる」

 顔を上げると、先輩がまた泣きそうな顔をしていた。

「ち、違っ! すいません。ちょっと考え事してて……」

「( ¤̴̶̷̤́ ‧̫̮ ¤̴̶̷̤̀ ) じゃあじゃあ、おーみやくんも昨日楽しかった?」

「はい」

「(๑′ᴗ‵๑) えへへ。またデートしようねぇ?」

 はぁ……昨日この人が登場しなければ、よかったのに。ただ俺らの事情を知らない先輩を、責める気にはならないし、結局は俺がだらしなかったのだ。

「あっ! 何ノコノコやって来てんのっ!」

 ドシドシと足音を立て、張りのある声が後ろから飛んできた。我が組の狂犬、カレンだ。

「( ‘д‘⊂) ふえ?」

「アンタのせいで、大迷惑被ったじゃん、何考えてんの⁉︎」

 豊かな眉毛が釣り上がり、目を見開いている。今にも噛みつこうと、八重歯をむき出しにしている。これはまずいな。まだ武器こそ出してないが、フラグやらかす勢いだぞ。

「おい、先輩は無関係だろ?」

「大ありじゃん! そもそもこいつが諸悪の根源っしょ⁉︎」

「(´•ω•) どういうこと?」

「いや、先輩は知らな――」

「( •̆ ·̭ •̆ ) イヤっ! 話して」

 カレンの口をふさごうと詰め寄ったが、簡単に手首を取られ、そのままねじ伏せられた。そして腹にストンプを食らう。踏みつけるのではなく、足を反発させ加減をしてくれた。

「でもいっでぇ……」

 苦悶している間、カレンは洗いざらい喋った。数多の罵倒を込めてな。

「(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅ ) ウソッ……!」

 先輩は見る見る青ざめ、涙目で聞いた。信じられないって顔だ。カレンの短絡さには、つくづく頭にくる。今先輩を責めても、何か状況が改善するわけでもないのに。

「イテテ……先輩、もういいんです。過ぎた事ですから」

「アンタは、なんでそう甘いのっ⁉︎」

「じゃなんでお前は、そうキツいんだよ⁉︎」

「だって梢ち――」

「カレンちゃん。気持ちはありがたいけど、声を荒げるのは良くないな」

 教室が凍りついているのを見かねた鹿島が、ずいっと出て来た。仲裁者のような落ち着きだった。

「(๑•́₋•̩̥̀๑) 梢ちゃんごめんなさい……まい、知らなくて」

「いえ。気にしないでください」

 笑顔とは言わないでも、口元を緩めて言葉をかけた。鹿島のために怒ったカレンは、本人にハシゴを外されて、振り上げた拳をどこに持っていけばいいのか所在なさげだ。

「運の悪い事が、重なっただけですから」

 人格ができているのだろう。俺や先輩に何1つ怨嗟(えんさ)を投げず、不運の連鎖と片付けている。早くこのイベントを終わらせてくれ、と切に願っていたが、果たしてチャイムが叶えてくれた。

「カレンちゃん席つこうね、先輩も戻りましょう」

 お母さんのように2人を諭している、そんな姿勢が目に焼き付いてた。


 昼休み。バターロールにかじりながら考えていた。面会謝絶が終わったら即平謝りだ。土下座でもいい。菓子折り持っていくか? けどフクちゃんたちには、食事制限あるからな。やっぱ鹿島のぬいぐるみとかが無難か。

「Hiya」

 そこに予期せぬ来客が来た。背が高く、金髪で、自信あふれる笑顔とポーズ。技術科(エンジニア)のメグだ。

「お、おう」

 なんだろう? 俺なんかに用があるのか? 彼女は、窓際の俺の席と後ろの誰かのを見比べる。

「なああん、ドクとケンカしたと?」

「はぁ?」

 振り返ると、鹿島が小さな弁当を1人で突ついていた。さっきああいうことがあったので、尋常じゃないように見える。

「よう一緒に食べよるやん? どげんしたと?」

「……」

「理由は知らんばってん、誘ってやらんね」

「ああ。で、お前は何か用事あんの?」

 俺らに少し問題があるを知られたくなかったので、意図的に話題を変えた。

「ウチの? 今終わった」

「は?」


☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆

☆本日の日替わりチャレンジ(あと11時間)          ☆

☆大宮伸一と会ってお話しよう【大宮の仲良しポイント+5】  ☆

☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆


「今日俺は、こんなものがあると初めて知った」

「じゃ帰るばい、See ya!」

 何だよ……メグも無意味なことやってんのな。

「Hey シン!」

「え?」

「次のエピソードは、ウチやけん!」

 と意味ありげな言葉を残して、退散した。次? エピソード? どういうことだ? まあいいや、どうせメタ的な次回予告だろう。

 話をシリアスに戻そう。メグが指摘した通り、鹿島がぽつねんと食べるというのは変だ。大抵、俺か友だちと一緒にするのに。なんだか、どんよりした空気すら漂っているにも見える。やっぱ怒って俺と距離を置いているのか。あの単細胞は、一発ブチかましたら消えるけど、鹿島は溜め込みそうだもんなぁ。『しょうがない』『気にしない』とは言ったが、『怒ってない』とは言ってない。

 俺は不可抗力と言い訳したが、結局優柔不断が招いたトラブルだからな。鹿島の奴、上面では淡々としているが、腹の底は煮え立っているのかもしれん。

「あー食い過ぎたー(ゲップ)」

 おっさんみたいな声と台詞を吐きながら、カレンが食堂から帰ってきた。本当の本当に気が進まないが、悶々と考えるのもアレなんで、一応生物学的同類の女子として相談してみる。

「なぁ」

「何?」

 カレンの声色にはまだ不満が多分に含まれていた。当然だな。

「鹿島のやつ、まだ怒っていると思う?」

「アンタ、アタシが梢ちんに見えんの? そんなん聞くな」

「そう無下にあしらうな。今も1人で飯食ってるし、何だかいつもと雰囲気違――」

 言い果てずに、二の腕をぎゅうと引っ張られた。

「だったら直接聞けっての! 梢ちん!」

 単細胞に聞いた俺がバカでした。女性のちょっとした機微を捉える細やかさなぞ、何1つ持ち合わせていない。真っ先に本人に聞けだとよ!

「?」

 鹿島はお箸を口に咥えたまま、目をまん丸として硬直した。

「ほら聞け! 女々しいったらありゃしねぇ」

「う……」

「なぁに?」

「あのさ……そのー」

「かーっ! あのね、こいつ梢ちんが一緒にメシ食ってくれないから、まださっきのこと怒ってるってウジウジしてんの!」

 俺が言い出せなかったことを、吐き出すように叩きつけた。

「そのさ、マジですまねぇ。交流をダメにしたどころか、学校にまで泥塗ってよ」

「正直に言って! まだ怒ってるなら今すぐ制裁してやるから」

 鹿島がそれで晴れるなら、喜んで吹き飛ばされるつもりだ。

「あはは」

 鹿島は、困ったように小さく笑った。

「さっきも言ったけど、全然怒ってないよ?」

「マジか?」

「マジだよ」

「じゃなぜ? お前ちょっと悩んでるように見えるぞ」

「そう? ごめんね。家のことだよ」

「あ……」

 そうか、鹿島にとっては母親が再入院したことも悩みだったな。バカだよ。俺、自分が嫌われたことばっかり気にしてよ。

「さっき大丈夫って言ったけど、実際どーなん?」

「うん。お母さんはの病状は悪くないから、入院は長くない思う。それより秀太がね……」

「弟クン?」

「また入院で、がっかりしてるみたいで」

 鹿島は前を見ながら鼻でため息をついた。小学生とはいえ、母親が再入院となると堪えるか。そういや鹿島が家事やってるはずだろうから、また負担も増えるだろうし。俺らが知らんところで苦労しているんだろう。

「あのさ、何かできることがあったら言ってくれ」

「そーよ。アタシらフレンドなんだし」

「ありがとう、けど大丈夫だよ。何とかなってるし。交流はちゃんと謝れば許してくれるよ。取り返しのつかないミスじゃないからね」

「そうよね、実際向こうのセンセーが怒った訳で、フクちゃんたちが怒ってるわけじゃないし。絶対交流なんて気に留めてないはずよ。そーよ、問題なしっ!」

 それフォローになってないぞ。見当違いの慰めをかけられた鹿島はちょっと呆れて、

「う、うん……」

 と形だけの同意を示した。


 というわけで、5日間が過ぎた。ゲームの時間短縮機能のように、あっという間だった。あれから相手校とのやりとりは何もないので、正直『行かなくてもいいかな』と邪な考えが走った。面倒臭がりの悪い癖だ。ただ、鹿島と学校の面子があるので、行かないわけにはいかないよな。

「担当経由で頼もうぜ」

「うん」

「カレンの奴は……まあいいか」

 中休みというのに、まだ熟睡している。いよいよゲーム大会が迫っているのか、最近あいつが起きている方が珍しい。完全に昼夜逆転してるな。

 職員室の松本先生を訪ね、改めて事情を説明した。校長が口添えをしているのだろう、先生はすぐに受話器を取ってくれた。

「いつもお世話になってます、東高等学校の交流担当の松本です……先日はウチの生徒が失礼致ししました。ええ……ええ……本人らの希望で、今日ちょっと生徒さんに会わせて…………え? 倒れた⁉︎」

これから本当のシリアス部分になります。個人的にはバカイベントを書いている方が楽しいのですが。また時間ください。

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