【e2m18】交流は遅延された。永久に。
また遅れました。申し訳ないです。
「やっべぇなぁ……」
暗雲立ち込める空を見て焦っていた。これは確実に一降りくるな。朝晴れていたので、傘を持ってきていないのだ。
教室にカレンの姿はなかった。鹿島も6限目が看護だったので別教室。『用事を済まして、そのまま交流に行くね』と言っていた。
「病院まで降らないでくれ……」
こう祈りながら、なんやかんや鞄に詰め込む。急いで飛び出し、校門と出ようとすると――
「=͟͟͞͞(●っ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)))っ おーみやくうううん!」
最後に聞いたのはドップラー効果のあるアニメ声で、最後に見たのは迫り来る巨乳だった。
Shinichi was fragged by Mai's leap.
Wolfplayer:おーい?
Wolfplayer:こっから出られないんだ。出してくれ!
気づくと、どこかの清掃用具室の扉に張り付いて、必死に助けを求めていた。
Wolfplayer:みんな、どこだ?
外からコツコツと足音が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。
Wolfplayer:恩に着るよ
外に立っていたのは、まい先輩だった。俺を見るなり、愛嬌ある顔がクシャクシャになって、ブワブワと涙を浮かべた。
「˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚ ウエェェェン! まいきらわれたあぁ!」
そして、堰を切ったようにギャン泣きする。
「( இДஇ) おーみやくんにきらわれたあ! きらわれたんだぁ!」
「はいぃ? 嫌われたぁ? なんで?」
「(⸝⸝o̴̶̷᷄ ·̭ o̴̶̷̥᷅⸝⸝) おーみやくん、まいとデートするってきめたのに、ほーか後どこにもいなくてぇ……!」
「デェト?」
……ああ決めていたな。桜カレンが! つまりこの人、ここ数日俺を探し回っていたのか?
「えっと、今日も用事――」
「₍₍ (̨̡ ‾᷄⌂‾᷅)̧̢ ₎₎ ヤダヤダ! 用じはもーいい! まいとあそぶ! デートする! しないならねんねするっ!」
もう呆れてしまう。女子高生が地べたに寝っ転がって、駄々こね始めたからな。
「……とりあえず起きません?」
「(# `)3') イヤッ!」
風船のようにほおを膨らませて……幼児かよ。
「そんな事言っても知りませんよ」
「(๑`Д´)۶ ぜ〜ったいおきない! ず〜っとここいる!」
「いい加減に――ハッ!」
妙に全身がチクチク痛々しいと思ったら、小さな矢のような視線が多数向けられていた。これってさ、俺は女子を泣かせてる悪い奴になってる?
「ちょっ……! 人見てますって」
「(#`Д´#) 知らない! おーみやくんのいぢわる! ウエェェェン!」
ホードメーターを上げるにつれて、通行人の数はますます増え、不穏な空気すら漂い始める。レベルが上がるにつれて、訝しげな視線とヒソヒソ話は増える一方だった。このままでは警備員を呼ばれてしまう。
「……わ、わかりましたっ!」
「(ᵒ̤̑ ₀̑ ᵒ̤̑) 本と?」
「少しなら」
「(*'∀'人)じゃ、おててもつないでいい?」
転んでもただで起きないとはこのことか。黙っていると、また瞳が潤み始めたので――
「もうなんでもしてくだせぇ……」
横たわっている先輩を引っ張り上げた瞬間、ネオジム磁石の如く引っ付いた。
「あの……これ手を繋ぐというか、腕をくm――」
「(´͈ ᗨ `͈)'`,、気にしないで」
もうね、絡みつくレベルじゃん。しかも、俺の腕をわざと巨乳に押し付けているし。
「(¤̴̶̷̤́ ‧̫̮ ¤̴̶̷̤̀) エヘヘ、だいしゅきホールドだよ」
頭すらべったり腕に預けている。その名前、誤解生むのでやめて下さい……。
「状況を確認しよう」
俺は先輩にフラグされた。そして、彼女がショッピングモールに進んでいくと、そこが俺のリスポーンポイントになったわけだ。今は何時だ? 本来なら電車に乗ってる頃か。
とりあえず、切りの良い時に、断り入れてスプリントするしかない。鹿島に電話すべきだが、未だにスマホは紛失中で、手続きすらしてない。そして先輩は、カレンと鹿島両名の番号を知らない。当然、俺も空で覚えているわけもなく、連絡のしようがなかった。
「(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) あ、あの自ぜん食ひんのお店、見てみようよ」
ほっそりとした指先には、うげ……高そうなショップだ。『これ買って!』とねだられたら、たまったもんじゃない。金はバターロールに消えたからな。
「先輩……」
「(๑’ᵕ’๑) なぁに?」
「俺、金持ってないんスよ。だかr――」
「(๑’ᵕ’๑) ねだったりしないよ?」
「え?」
「(´❛֊❛`) えっとね、プレゼントはいいの」
ふと彼女の顔に暗い影が横切った。まるで黒い鳥影が射さすように。ドキリとする前にもう消えていたが。
「(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈) 今日は、おーみやくんのこーかんどを上げるのが目てきだから」
おちゃらけて言い放つものの、今の先輩らしからぬ暗い表情が引っかかった。見間違えだろうか?
その後、あちこちに引っ張られたが、語るに足らない雑談をするだけ。俺はあいづちしか打たなかったが、先輩は構わないようだ。そろそろ暇乞いしなきゃな……。
「ねぇ先p――」
「∑(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) あっ!」
また何かを見つけたらしく、俺はトレーラーのように引っ張られる。ショーケースの白や赤や薄ピンクのドレスが視界を横切り、入っていった先は……?
まばゆい照明、白を基調とした壁や天井、ピカピカの石タイル、咲き乱れた花……あとなんだ? 俺が地球最後の日でも好きになれない装飾品調度品の数々。
「ブライダルサロン、ラ・シンデレラーレ(震)」
「いらっしゃいませ」
バッチリ着飾った女性スタッフが出てきてもうた……。
「すいません、すいません! 間違って入りましたぁ!」
情けないうわ声を残して立ち去ろうとするが、先輩の腕は堅牢な錠だ。全く解けそうにない。
「( ◜ᴗ◝) ドレス見せてもらえますか?」
「御婚約のご予定でしょうか?」
「( ◜ᴗ◝) そのうちに」
そのうち・TBA・近日発表・カミングスーン。なんですか、そのウィッシュリストにありそうな単語は⁉︎ そのはっきりとした声色と共に、腕を締め付ける力が一層強くなった。
「(◍´͈ꈊ`͈◍) ねー?」
「すんません冷やかしなんで!」
スタッフは、“将来を約束したバカップルが、血迷ってやって来た”と踏んだんだろう。顔色ひとつ変えなかった。
「どうぞご覧ください」
それからというもの、先輩はハンガーにかかっているドレスを、それこそ穴が開くほどチェックしていた。ここではじめて先輩の腕は解錠されて、晴れて自由の身となった。
「( *• ̀ω•́ ) シルエットはぶなんにAラインかなぁ。けどマーメイドも、こしにメリハリがあっていい感じ。あ、この深めのVラインすてき。けどおーみやくんい外に、むな元見られるのヤだな。レースはシンプルすぎず、は手すぎないのがいいね。あ、この生地サラサラして気持ちいい」
今更なんだが、どうしてこの人は俺につきまとうのだ。彼女は、唐揚げパンウォーフェアで助けてくれた云々言ってたが、そんな理由で凡人に好意を持つは思えない。
しっかし、少し離れた所から見ると、異次元の可愛らしさだな。繁華街歩いたら、何人のスカウトが声かけてくるやら。あと例えもできない程スッゲー甘い香りがする。きっといいシャンプーを使っているのだろう。今は店のアロマに覆い被されているけど。
「(っ´ω`) ねーどー思う?」
振り向きざまに俺の意見を尋ねた。打ち微笑む顔は、ハッとするような愛くるしさだ。すれ違う男性が、何人も視線を寄こすわけだ。ピンクの髪のせいもあるけど。
「え? 何がです?」
「٩(๑`н´๑)=3 もー! ダンナさんも考えてくれなきゃこまる!」
ドレスなんてわからんし、旦那じゃないし。先のスタッフが口を抑えてこらえていた。
「わぁ……すてき」
新郎新婦のマネキンを見つけると、先輩はこう漏らした。そのドレスを着ている自分たちを想像しているのだろう。もっとも俺の顔はゾンビで、タキシードの後ろに、“HELP”と書かれた紙が貼ってあるがね。
もうね、現在のミッション目標が、“脱出する”になっている程うんざりしている。しかし先輩は、隅々まで見て回る気だ。何かと説明してくれるが、知らないし知りたくもない。
ゆっくりと落ち着いた店内には、『カヴァレリア・ルスティカーナ』が流れていた。正直あのバカと一緒にいる方がマシだ。そりゃうるさいし、バカなことするし、火器をぶっ放すが、趣味が同じで色気もないから、気を使わなくていい。
先輩に目をやると、ディスプレイ用に飾ってあった別のドレスを見ていた。どうやらお気に召したようでようで、しげしげと吟味していた。
「୧(୧ˊ͈ ³ ˋ͈) これきてみたいなぁ」
あのですね、飛び入りで着付けてもらうわけないでしょ。
「(• ̀∀•́ ) し着できます?」
しかし、何ら臆せず先のスタッフに尋ねた。こんなに図太いのこの人? それとも、単に子どもっぽくて物事がわからないのかなぁ?
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「え? いいんですか?」
先輩が更衣室にいる隙をついて、脱出しようかと頭によぎった。いよいよ交流学習の時間がやばい。けどここで逃げたら、明日もっと面倒になるな。どれだけ着替えに時間ががかかるのか、検討もつかないでいると、あっさりとカーテンが開いた。
「(灬╹ω╹灬) どう……かな?」
「おお……!」
言葉も出てこなかった。正直、ウェディングドレスなんて“一回限りの布切れ”とみていたが、撤回しないと。
この人は、学校の制服を着ているだけでもトップレベルに可愛いんだ。それが、女性のために作られた衣服を着るとどうなるか、説明する必要もあるまい。
純真無垢の白をまとい、ヘアースタイルやら化粧までバッチリ施された先輩は、ちょっぴり恥ずかしげだ。もう広告素材に出していいレベルだな。
「すごく綺麗ですよ……」
生まれて初めて“綺麗”なんて言葉を使った。よく短時間でここまで……待てよ、試着室で髪整えるの無理じゃね?
「ねぇ先輩……」
「(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡ ////// は……はいっ! //////」
「すっごい綺麗ですけど、だからといって思わず求婚しませんよ?」
「え━Σ(ll゜艸゜ll)━⁉︎」
ちょうどいいタイミングで『ピアノ協奏曲第一楽章』が流れ始めた。
「( *• ̀ω•́ ) すいません! あと3着ぐらいお願いします!」
「もういい加減にしません? お店迷惑ですよ」
「⸜(* ॑꒳ˆ* ) おきがえはすぐだよ?」
「はぁ?」
「⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ ほらぁ!」
その場でくるっとすると、キラキラエフェクトと共に別のドレスに切り替わった。
▷東高等学校制服
▷シルク白Aライン・シンプル(お試し)
▶︎レース白マーメイドライン・エレガント(お試し)
▷チュール白プリンセス・アヴァンギャルド(お試し)
▷サテン白マーメイド・ゴージャス(お試し)
▷なし
コスチューム選択画面かよ。じゃ更衣室意味ないじゃん……。1回、また1回とチェンジしてアピールしてくる。正直、最初は『おっ!』と思ったが、以後の感動は薄れるよな。趣が違う和装なら話は別だけど。
「( ๑˃̶ ॣꇴ ॣ˂̶)♪⁺ アッ❤︎」
「!!!」
ちょおおおおおお! それ下着じゃないっすか先輩っ! 最後の“▶︎なし”ってそういうことかよ! てかわざとでしょ? サーモンピンクの勝負下着でした、本当にありがとうございます! 隠すそぶりすらせず、思いっきり豊満なカラダをアピールしてる。
「(⌯¤̴̶̷̀ᗨ¤̴̶̷́)✧ おーみやくんのエッチィ♡ ジロジロ見ちゃだめー(見るなとは言ってない)」
その後も数々のドレスを試着した。
「(. ❛ᴗ❛.) いくつか見つもってもらえますか?」
「かしこまりました、少々お待ちください」
「せせせ先輩……買うの⁉︎」
「(๑•̀ㅂ•́)و✧ うん」
まじかよ……相場なんて知らねーがウン十万とかするんじゃね?
「只今セール期間のバンドル割がございまして、セットで2,027え――」
「やっす!」
「( *• ̀ω•́ )b プリカでお願いします」
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「ラ・シンデレラーレでのご購入、ありがとうございます!」
「メールで見た事ある定型文だな――ってうおいっ!」
気づくと、俺の服もタキシードになっていた! よく見たら、先輩の購入DLCに俺の衣装もあるじゃん!
「•ू(ᵒ̴̶̷ωᵒ̴̶̷*•ू) すごくにあってるよ、しん一さん」
し ん い ち さ ん!
「途中の呼称変更はダメっす!」
「カメラマンも準備できております。どうぞこちらへ」
何ですか? この店、先輩とグルなんですかね?
「٩(´͈౪`͈٩) は〜い。いこいこ!」
その細い体のどこにパワーがあるのだ。ぐいぐいと引っ張って行く。
「中判カメラありますか? あ、白レンズの中望遠は全部試して下さい。プリントも引き伸ばして最高品質で。データもください。修正加工します」
花嫁がプロカメラマンと打ち合わせとるとか……。初デートでプリクラってのはよくあるが、どこの世界に挙式の格好で、プロに撮ってもらうカップルがいるんだろ。
「(ノ≧ڡ≦) おまたせっ」
俺はもうままよという感じだが、小走りでやってきた先輩の顔は、もう楽しくて仕方ないって感じだ。カレンの悪ふざけに似ている気がした。方向性はちょっと違うけど。
その後様々なポーズを写真に収めて、やっと退店できた。
「先輩あのさ、そろそろ俺……」
「(๑•́ω•̀) 雨ふってるよ?」
最悪。窓の外ではそれはもう酷い雨で、俺の気を削ぐかのようだ。
「おまけにゴロゴロ鳴ってるし……」
「(๑°꒵°๑) 何か食べて、雨上がるのまとうよ」
「そっすね」
バーガー店の窓際席につくと、もう気は完全に削がれた。今から交流に行っても、終わってるだろうし、だったら濡れたくない。お金がもったいないから傘も買いたくないし……。
バーガーやらポテトやら、夢中でがっつく先輩を見ながらため息をついた。あーあー口周りにソースがべっとりついてるよ。
「そんなに食べて、大丈夫ですか?」
「( '༥' )ŧ‹”ŧ‹” ?」
5本の指先を順に舐めながら応える。
「(๑╹ڡ╹๑) これほしいの?」
「いや」
もういいや、交流は諦めた。初日に『体調不良や用事がある場合は欠席して構いません』って鹿島言ってたし、事情を話せば許してくれるだろう。
頬杖をついて雨天を見ていると、ますます気分が落ち込んでしまう。しかし俺は能面で寡黙なので、鹿島以外に気づかれることはない。いつの間にか手元のコーラも無くなっていた。
幸せそうに食べている先輩を見ると、この憂いも消えそうだった。次はナゲットとシェイクですか、よく食べますね。
「ついてますよ」
紙ナプキンで、先輩の口周りをしっかり拭いてあげた。
「(❁´ᗜ`❁) えへへありがと〜」
しかし、視線を窓に移すと、情けないやら申し訳ないやらの気持ちがじわじわ湧いてくる。家に帰ったら、カレン経由で鹿島に謝ろうぜ? ガラスに反射する自分に言い聞かせた。
雨は全く止みそうになかった。
次からはまたシリアスな場面になりますが、ぼんやりとしか考えてないので、手こずるでしょう。お待ちください。