【e2m13】チーターズの最期
やっとコンバットソフトボール終わりです。私自身、公民館のソフトボールに短期間入っていただけで全然経験がないので、ルールとかわかりません。
「っしゃ! 今度こそ逆転っしょ! 7点なんて余裕じゃん!」
カレンちゃんは檄を飛ばします。まあ諦めないことは大切だけど……既にそうしている人は、深いため息と共に頭を振ります。
「あさましくいやしきと言はまし。此の期に及びて、かくなる心持ちは何処より萌え出ずりましょう。ひとまど髄を煮て、消毒されたらどうか?」
「黙れお歯黒!」
「すわっ、誰がお歯黒か! 宮どの! 妾鉄漿入れはしておりませぬ」
「お、おう……」
のぞみちゃんは雅な顔をイーッと崩して、大宮くんに見せつけます。
「にしてもよ、前半はフルボッコ、後半はスキルの披露会になってんじゃん。もう全然面白くねーよ。俺が読者だったら、とっくに別のラノベ読み始めているな」
『ダメです。前半は逆転への前振りだし、スキルの披露は、“読者さんがスキルを自然と知る”狙いが込められています』
「まーた訳のわからんことを……」
すこぶる呆れてますが、あなたはそれでいいのです。
「メグ、アンタ1塁にV型ロケット一式設置できる?」
「Huh?」
「シンイチを括り付けて、空から一気にホームインさせるのはどう?」
「ウケる。ばってんベース踏めんし、シンのパンケーキになるやん」
そんな作戦会議の中、まい先輩と大宮くんは既にバッターボックスにいました。あの構え……バント? 大宮くん相手ピッチャーに頭を下げています。
「先輩にも見せ場あって欲しいんで、協力たのむわ」
目を瞑りながら、恐る恐る突き出している先輩のバットに向かって、ピッチャーは上手に当ててくれました。
「⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ やったやった! 当たったー!」
「そこで踊んな! 走れ! チンタラ行くな! スプリントォ!」
「˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚ まいちゃん、おっぱい大きいからあばれちゃうよぉ!」
「ケ ン カ 売 っ て ん の か !」(レイジメーター↑↑↑)
「人前で胸乳如此く滑らかすは、見苦しい限りぞ!」(レイジメーター↑↑↑)
貧乳さんらが、露骨な嫉妬心をむき出しにします。カレンちゃんはMG42を取り出して、のぞみちゃんにニヤリとします。
「ケツに火ぃつけてやらね?」
「諾」
「やめろお前ら! フレンドだろ⁉︎」
『巨乳さんには優しいんだね?(オートミールおじさんの笑顔)』(レイジメーター↑↑↑)
「ち、ちが……!」
塁を踏んだのを確認して、ピッチャーはファーストにゴロを投げました。
「⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ やったー! おーみやくーん!」
「キャーキャーうるせー! インカムしてんだから喚くな! 次ィ! メグ!」
打順忘れてるの? のぞみちゃんに目配せすると、『さはれ』と頭を振りました。
「先輩んごつ手加減いらんばい、ちかっぱ投げてきんしゃい!」
青い瞳を細め、ほくそ笑みます。お望み通り豪速球が投げられます。メグちゃんは、大リーガー並みの豪快なスイング! 早くもツーストライクに追い込まれましたが、焦っている様子は見えません。
最後の一球! メグちゃん打った! 残念……打球はポンポン弾み、セカンドが中腰で構えています。ボールを取――(パァーン:残響音含む)。彼女のヘルメットが吹き飛んで、後ろにバッタリ倒れました。小早川さんのスコープ付きKar98kから硝煙が……。
「大丈夫、フラグはしてない」
セカンドは上半身を起こし、穴の開いたヘルメットをしげしげと見ています。
「先輩何ば突っ立っとっと⁉︎ はよ走らんね!」
「(˚ ˃̣̣̥ω˂̣̣̥ ) えええ⁉︎」
慌てて飛び出すも既に遅し。セカンドからボールを受けたショートが2塁にいて、おっぱいを揺らしながら来た先輩はタッチアウト。チーターズの脳内で、アウトコールが鳴り響きます。残念……。
「(இДஇ`゜) ふえええん!」
「アホじゃねーの! 乳に栄養が全部いって、頭空っぽじゃん!」
「怒鳴ってもアウトは取り消せねーよ」
「(๑ᵒ̴̶̷̥́ ^ ᵒ̴̶̷̣̥̀๑) おーみやくんだけがやさしいよぅ」
そして、期待の選手である小早川さんがスッと立ち上がります。
「先輩。自分は長打狙うので、支援願います」
そう素っ気なく言うと、返事も待たずに出ていきました。
「(๑°⌂°๑) ふぇ? うん。わかった」
さあ、小早川さんがバッターボックスに立ちました。力まず自然体のフォームで、余裕を感じられます。表情もいつもと変わらず、ぼんやりピッチャーを見つめている。
投げた! 打った! 狙い通り伸びていくけど……足りない? 残念、センターはフライを捉えました。ヒューンとコミカルな落下音は、ピンクのスツーカのサイレンにかき消されて……。
あ、安心してください。降ってきたのは250kg爆弾ではなく、大量の硬式ボールでした。センターは一旦逃げ出したものの、すぐに落ち着きを取り戻します。大量のボールの中から、今使っているのを見つけ、送球。セーフ! 2塁と3塁まで進めました!
「よしチビ。わかってんな?」
「何をか」
悪いそそのかしをプイと断ると、のぞみちゃんはさっさと出向きます。
「ちょっ! せっかくのチャン――」
「待て待て。あいつちゃんと空気を読むから安心しろ」
身を乗り出すカレンちゃんの肩を掴んで抑えました。さすが大宮くん。従姉妹のことわかってるね。そういえばこの2人、性別の違いはあれど、顔の作りが似ていますね。
「メグ、ささみ。あのミジェット仕掛けるぞ。パンティ動かす準備!」
あっと言う間にツーストライク。のぞみちゃん全く意に介しません。すると、ふとメグちゃんに流し目を送りました。ピッチャーがセットポジションに入ると、ポケットから何かを落とした⁉︎ ポンと爆発すると、あたりが噴煙に包まれます。スモークグレネードですか……。
多分キャッチャーは、ボールから目を逸らしてしまったのでしょう。捕逸しました。その間、メグちゃんと小早川さんはホームイン。のぞみちゃん振り逃げで1塁へ。
【桜チーターズ:2 - 7:東ライオンズ】
生還した2人とハイタッチ、カレンちゃんは小躍りして喜びを爆発させました。
「ブンダバー!」
「あんまり喜べねぇ」
大宮くんがボソリと呟きますが、楽しければそれでいいのです。さて、私の番ですが……。
メニュー画面>交渉>東ライオンズ>提案>フォアボール>交渉成立
お知らせ【次のヒロインは出塁します:鹿島梢】
「2回もやると卑怯じゃね?」
『大丈夫、交渉だから問題ないよ』
さてさて、1塁から実況ですね。打順は一周してまたカレンちゃんへ。
「っしゃ! 今度こそスタンドに叩き込んd――」
「猶予願わん」
おっと、のぞみちゃん挙手?
「なんなのよっ! 人がせっかくぁwせdrftgyふじこlp」
喚き散らす人を無視し、ベンチにてくてく歩いて来ます。
「恵どの、走者交代をば請い候」
「What? なして?」
「……一寸御耳を拝借」
のんちゃんはメグちゃんに耳語囁きます。訝しげな表情は、徐々にニヤケ顔になってゆっくりと頷きます。
「Got it. Got it. よかよ」
メグちゃんはそのまま2塁へ行きました。
「あのーソフトのテンポラ――」
「宮どの。此れ則ち、いかいか訇る稚児の遊戯に他成りませぬ。具に理に、な拘泥わりそ」
姿勢正しく、ぴんと背筋を伸ばして座っていますが、言ってることは酷い……。
「チビッ! メグに何そs――」
「嗚呼者は黙せ。唯球見て弾くのみ注力せよ」
と残してインカムを切りました。2塁メグちゃんは、Sd.Kfz.251輸送車を出現させ、兵員室(移動スポーンポイント)にバッター以外(私も)を強制スポーンさせます!
「Comeoooooon!」
「こっわ! 車ゲドンみたいな顔してる……」
助手席の大宮くんが、ドライバーを見てポツリ。ピッチャーが投球した途端、全速発車。輸送車が気になったのか失投です! カレンちゃん打った!
『どうかロードフラグしませんように』
車は全速力で3塁を踏み、砂塵を巻き上げながらクイックターン、ホームへ! ロードフラグされたくないキャッチャーは逃げ出します。ボールを受けたセカンドは、1塁カレンちゃんを抑止しようとしましたが、ダメでした。
「All, disembark!」
メグちゃんの指示に従って、後部ハッチからゲーム的に降車すると、ちょうどベースを踏むようになっていて、次々と得点が加算されていきます。
【桜チーターズ:8 - 7:東ライオンズ】
「‧˚₊*̥(* ⁰̷̴͈ᗜ⁰̷̴͈ )‧˚₊*̥ のんたんすごーい!」
「吾が誉にあらじ。恵どのこそ浴すべけれ」
「うんにゃ、ゾミーん策略とキャレンのおかげたい。グッジョブ!」
「真面目な顔して、貴女やるのね」
『よかったねー。逆転だよー!』
のぞみちゃんを囲んで、キャーキャー祝福しました。本人は大したことをやったと思っておらず、もみくちゃにされて驚いています。
「……ちっとはやるじゃん」
ボソッとイアホンから聞こえますが、顔がにやけてるよ? 本当は『ブンダバー!』って叫びたいのにね。
さあ、バッターには我らが主人公の大宮くんが立っています。もうね、1塁走者がヒロインにあるまじき形相で睨めつけています。
「殺気を送るの止めないか?」
「そんなん送ってない」
主人公なのに、運動能力も知力も並、特有スキルもないキャラですが、ここは一発欲しい所。ストライクが入ると、相手ベンチから拍手と声援が湧きます。
実は先輩が、『内野に煙幕砲撃を要請しようか』と提案していました。目を潰せばゴロでも進塁できるからです。けど、大宮くんはあっさり断りました。私、こんな真面目な所が好きなんですけど、時々頑固さんになっちゃうんですよねぇ。
ツーストライク。やはりゲームのようにはいきませんね……。最後、ピッチャー投げた! 打った!
「Oh my!」
メグちゃんが、大げさなジェスチャーで頭を抱えた通り、ピッチャーゴロ。送球されアウト……。
それだけでは終わりません! 守備はカレンちゃんにも襲い掛かります! 既にショートが2塁にいて、ボールが渡されます。挟殺するつもりです!
「終わりね」
小早川さんが、ポツリ呟きました。
>Karen fly⏎
うええええ! コンソール画面から“浮く”コマンドを使ったぁ⁉︎
「うははははぁ〜! ゲーマー舐めんな!」
チーターズの誰もが絶句しています。流石にそれは反則なんじゃない? ライオンズのベンチからは、『チーター! チーターだ!』と非難が上がっています。
するとカレンちゃんのすぐ横を、信じられない速度のボールが通過!
「うわっ! なんなのっ⁉︎」
のぞみちゃんが、ピッチングマシーンを引っ張り出していたのです。
「おい何を……?」
「チーターの処罰でございます」
「味方だろ?」
「しからば彼れに寛容になれと謂うか?」
「いや……」
のぞみちゃんは、目を細めて妖しい微笑みを浮かべました。
「抑盍良き機会と思わず」
「同感だ。撃ちまくれ」
ええー! 大宮くんが給弾し始めました!
「い゙っでぇ!!!」
Karen was fragged by Nozomi's pitching machine with Shinichi's assist.
「各々方、ひとところ不調法いたしました」
カレンちゃんを撃墜してから、チームキラーはライオンズに向かって丁寧に頭を下げました。結局スリーアウトでチェンジ。
「なんなのよアンタァ!」
蘇生した途端、のぞみちゃんに喰らいつきます。
「囂々とかまびすしい様限りなし。其れチートを起こし、故に妾誅翦しせり。さこそ覚えずは――」
「うっさい! 正式な試合じゃないからいいでしょ⁉︎」
ちょっとのぞみちゃんを評価したかなと思ったら、また喧嘩です。栗色のボブヘアーが逆立つほど怒りに満ちて、このままではデスマッチ始まりそう……。
「落ち着け」
「アンタもアンタよ! 無様にアウトなって、アタシまで巻き添えにするしっ! てか、アンタのせいでチート使うハメになったじゃん! 責任取りなさいよ! もうアンタ戦力外通告! 退場よ退場!」
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
Kick Shinichi OMIYA?
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
Karen SAKURA : ☑︎YES ☐NO
Kozue KASHIMA : ☐YES ☑︎NO
Meagan R MAYER : ☑︎YES ☐NO
Nozomi TSUJI : ☐YES ☑︎NO
Sasami KOBAYAKAWA : ☑︎YES ☐NO
Mai TOKITA : ☑︎YES ☐NO
The vote has been passed!
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
KICKED Shinchi OMIYA.
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
「フハハハハー! 語り部すらやらねー無能は消えろっ!」
気づくとメニュー画m……いや運動場の入り口に立っていた。語り部も鹿島から強制的に戻っている。酷すぎじゃね? 確かに俺の成績は無残だったが、キックまでしなくていいだろ? さて、どうする? このまま帰ると、今度は『勝手に帰った』と難癖つけられそうだ。
「(。☌ᴗ☌。) おーみやくん♥」
振り返ると、先輩がニコニコしながら立っていた。
「あれ? 守備は?」
「(♡ơ ₃ơ) まい、野球もーいい」
「それまずいんじゃ?」
「(*´ヮ`)ノ のどかわいたー。ジュース買って待っていよーよ」
聞いちゃいねー。けど、もう蚊帳の外だからな。自販機で7本買って待っていると、それほど間をおかず、罵り声が聞こえてきた。
「大体どっからあんなの持って来たの⁉︎ スッゲー痛かったんだからぁ!」
「櫻こそ物狂いとは言わめ。知性の片すら見当たず。やかましゅうて耳の毀ち落つるが如し」
「うっさいうっさい! “ちっとはやる”とか考えたのがバカだった! 全部、ぜ〜んぶアンタ――」
「あいや、ご覧あれ桜どの。垂乳女どのが、宮どのとちちくりおうて居りますぞ」
「あー!」
カレンが目を三角にして、砂煙をあげてこちらに走って来た。そのまま有無を言わさずタコ殴りにされそう……。
「偽チチ! 勝手に抜けんなっ!」
「(♡ơ ₃ơ) だってあきたもーん。それにまいちゃん、天ねんでーす」
いつの間にか組んでいた俺の腕をぐいっと、その“天然物”に押し付けた。
「〜〜〜〜〜〜〜」(レイジメーター↑↑↑↑↑)
俺はこの話題に未だかつて触れた事がないし、また今後も触れるつもりもないが、カレンは相当コンプレックスを持っているな……。
「レイジメーター貯めすぎると頭やられるぞ、ホレ。これ飲んで落ち着け」
ボトルを渡すと、ゲームアイテムのように一気飲みして消費しやがった。そして手の甲で口周りを拭う。
「……うま」
残りのメンツもやって来た。労いの言葉と共にボトルを渡す。
「で? 結果は?」
「反則負けだって」
鹿島が苦笑いしながら答えた。だろうな。
「あれは流石にいかんばい」
「身から出た錆ね」
誰もカレンを擁護する奴はいなかった。そりゃそーだ。ゲーマーのみんなは、“正式な試合”だろうが“野良の試合”だろうが、絶対にマルチプレイヤーモードでチートやんなよ!
「だって――!」
雌チーターがまた牙を剥き出しそうになったので、
「はいはい、これも飲んで落ち着け。2度とあんなことやんなよ?」
と俺のボトルで、無理やり奴の口を塞いでしまった。
後日談だが、俺らに“桜バッドカンパニー”とか“桜チーターズ”とかいう悪名が定着した。ひっそりと設立したので、正式な“eスポーツ同好会”という名称は誰も知らないからな。まあ、原因を作ったのは部長本人だ。俺は知らんよ。
次からはまた梢にフォーカスした話になります。大まかな方針しか考えていないので、ちょっと時間をもらいます。