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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e1m4】ヒーローではない

どうもです。前回からの続きでやっとドンパチに入れました。コメディと戦争系FPSにありがちな事柄を入れつつ進めます。残虐に感じる描写はやっていないつもりです。

 ムービーが終わると、鹿島を含むクラスの連中が、閘門(こうもん)から解き放たれた流水のように出ていく。それを目で追いながら、今一度作戦を――ととっ⁉︎ 急に二の腕を引っ張られた! カレンの力は余りにも強く、席から転げ落ちそうだった。

「何ボケっとしてんの⁉︎ 主人公(アンタ)が動かないと状況が進まないのっ!」

「ちょ! 目標を整理させ――」

「ついてきて!」

 栗色のボブヘアーの上に、黄色で“FOLLOW”と表示。スプリクトゲーかよ⁉︎ こいつが『これしろ、あれしろ!』と指示を出したら、それに従うのか? 引きずられるまま廊下に出ると、3人のエンジニアが、しゃがんでハンマーを振っていた。すぐに半透明の土嚢(どのう)が現れ、徐々に具現化しつつあった。ああ、RTSリアルタイムストラテジーの建築シーケンスだ。ご丁寧にインジケーターバーまである。やがて(もも)ほどの高さのある土嚢が完成した。

「サンクス! 後は任せて!」

 カレンが礼を言うと、エンジニアたちは去って行った。残ったのは彼女と……俺だけ。だけぇ⁉︎ もしかしてブラボーって2人? しかし、奴はそんなこと露ほども気にせず、カラフルなMG42を取り出し、土嚢の上に二脚を立てた。

「アンタ助手だから、弾ァ持って!」

 彼女はコッキングレバーを一杯に引いて戻す。給弾カバーを開けると、ポケットから弾丸ベルトを抜き出し、ボルトレースの上に置く。1発目の位置をよく確認して、カバーを下ろし、上から力強く叩いた。照準を最短200メートルに調整し、銃床(じゅうしょう)を肩に当て、それを覗き込んだ。流石アサルトクラスだ、武器の取り扱いには卓越している。

「うし……」

 一方、やる気のない俺は、給弾口とベルトが平行になるように持っている。薬莢の先には、尖った弾頭ではなく、色とりどりの球体である。きっと自主規制したんだろうなぁ。てかさ――

「機関銃助手って必要かぁ?」

「うっさい!」

 授業終了のチャイムが鳴った。安全装置を外したカレンは、バースト射撃でそれをかき消す。発射音は、“電気ノコギリ”と評されるが、その通りだな。しっかし、凄まじい音だ。これをジャンジャン撃ちまくる気だろ? 俺共々難聴になりそう。

 ともあれ、今のはオプフォーへの威嚇というわけだ。徐々に連中が騒然とし始めた。カレンは一度機関銃から手を離し、拡声器を取り出した。

 「(ハウリング)ごきげんよう諸君! 今日は何の発売日か知っているかなぁ? 唐揚げパンでーす。今回は、アタシらがぜ〜んぶ買うんで、アンタら引きこもってた方が身のためよん! せいぜいバターロールでも買うことね、ウハハハ!」

 高笑いしていると、とある教室から人の顔がひょっこり出た。カレンはたちどころにエイム、容赦なくトリガーを引く。俺が間髪(かんはつ)()れず銃床を引き寄せたので、吐き出された弾は、廊下や壁にデカールを作ったり、窓を割ったりした。

「バカッ! ありゃ先生だっ!」

 自らシビリアンに気をつけろと喚起(かんき)しておきながら、頭に血が上がるとこれだ。カレンは舌打ちして、拡声器を持ち直す。

「センセーはさっさと帰れっ!」

 なんて言い草……。教師たちは、逃げるように去って行った。その後を追うように、1人の生徒が購買部に向かって駆け出した。『バカ野郎っ!』と心の中で罵る。固定マシンガンの射界で、背を向ける奴がいるか! 爆音と共に、あの生徒は後ろから押される形でパッタリと倒れた。あーあ、とうとう撃ち抜きやがった。ファーストブラッドというわけだ。

 ニヤついているカレンを見て、俺は自分に言い聞かせる。今やっているのは、マジの殺し合いじゃないからな。これは馬鹿イベントで、フラグしたとしても、次の授業前に、全員無傷無痛でリスポーンする。

「レクリエーションだぞ、レクリエーション……」

 教室から無謀に飛び出してくるオプフォーを、的確にない(・・)でいるが、誰1人として出血している者はいない。いわんや、銃創(じゅうそう)肢体欠損(したいけっそん)はもってのほかだ。レートの低いFPSだから、PTAも安心だ。

 しかし、ノックバックアニメーションは非常に良くできている。当てている触感が、俺にも十分伝わってくる。MG42の1発毎の発射音を聞き分けることはできず、弾薬ベルトは波打ちながら給弾口に吸い込まれていく。大音量と共に銃口から硝煙がひっきりなしに出る。カレンは小刻みに前後振動しているが、姿勢を崩すことはない。

「ハハハハァァ〜! ピーチヘッドォォ!」

 どんどんフラグ数を稼いでいくカレン。今まさにあのパッケージの顔ですわ貴女。対戦チームながら、無謀にも機関銃に挑んでくるオプフォーが哀れで仕方なかった。当然、太刀打ちできるわけなく、バタバタと気絶していく。FPSの常識も知らんのか……。

 ちなみに被弾は痛い。俺が『攻撃しない』と言った理由はこのためだ。たとえ無傷でリスポーンするとしても、痛みを与えるなんて考えられない。

「シンイチ、弾ァ!」

 突然頭を叩かれて、我に返った。

「弾って……オーバーヒートの間違いじゃね?」

「さっさとアレ取って!」

 カレンは、荒ぶる声と共に指差す。

 MG42の弾薬箱が、“インタラクトしろ”とばかりに金色に光り輝いていた。そして、カレンの射撃が止まったため、オプフォーが反撃に出た。そりゃそうだ、一方的にやられて、黙っているわけがない。唐揚げパンを楽しみにしていた人もいるだろう。窓や扉から乗り出して撃つ奴もいれば、大胆に廊下に出ている奴もいる。俺らは土嚢の中に身を潜めざる得なかった。

 あっという間に、威圧されてしまった。もう“大量発生する敵に、固定銃座で応戦するイベント”は失敗しそうじゃん。

「クッソォ!」

 悪態をついたカレンは、MG42を引っ張り寄せた。俺から弾薬箱をひったくると、そこから弾丸ベルトを引っ張って、カバーを閉じたままリロードした。その離れ業といったら、女子高生らしからぬアニメーションだ。

 再び相手に向かって火を吹いた。しかし、先の優勢はどこへやらだ。撃ち合う口の数が違う。もはや照準を覗いて撃つことはできず、ただブラインドファイヤに任せるのみだった。

 パチンパチンと、銃弾が音速で(かす)めていく。このままやられるのか……? ゲーマーならわかるだろう。“つけ狙われている時”、“手に負えない時”に起こる、気持ち悪いプレッシャーが心臓から湧き上がってくる感覚を。首筋もピクピクしていた。

 ふとカレンが射撃を止めた時、着信音が聞こえた。奴のスマホからだ。

「出て!」

 視線をそらさずにポケットから取り出し、俺の胸元に押し付けた。唐突だったので、手の平で数回バウンドさせたが、落下させずに受け取った。

「もしもーし」

「●△!@※%★¥*!」

 はい、聞こえません。隣で機関銃ぶっ放している人がいるからな。耳に強く押し当て、反対側を塞いでも無駄だ。

「お静かにしてもらえませんかねぇ⁉︎」

 カレンに願い出たが、それすらかき消されてしまった。相手はゴルフリーダーの(すが)だ。状況の報告に違いない。カレンの奴、俺がモタついたのにイラついたのだろう。

「あーじれった! 代わって!」

 カレンは強引にスマホを奪い取ると、怒鳴るように話はじめた。それはいいのだが、これ(MG42)、どーすんだ?

「撃てっ!」

 と言われてもなぁ。誰かに当てたら嫌だし。かと言って、撃たないとやられるし……。しょうがない。ここは射線を高くして、銃身はあまり振らないでおこう。誰にも当たりませんように……と願いつつ引き金を絞った。

「うっさい!」

 と、同時に叩かれた。じゃあどうするんだよ⁉︎ サイレンサー付けろとでも言うのか! カレンは通話をスピーカーモードにして、俺も射撃を極力短めにしたせいか、何となく会話を聞けた。

「全然……釘付けで……そっちは?」

「こっちも……ねぇなぁ。……武道らしく、予定…………接触してしまってよ、十分な準……小競り合いが……俺らが占拠……」

「VIPは?」

ETA(予想到達時間)……まだ見かけ……。エスコート……編成中」

 その時、金属の塊がこちら側に転がり落ちた! それをきちんと確認する間でもない。グレネードインジケーターが表示されていたからな。

「グレネェェード! テイクカバァー!」

 と、お決まりの台詞を叫びつつ、それをもぎ取った。振りかぶって、投擲(とうてき)し返す寸前に思った。誰かフラグするかも……と。なので、ダストシュートに押し込んで伏せた。下から鈍い破裂音。校舎のコンクリートを通じて、衝撃が伝わった。ブラインドファイアをしていたカレンが、射撃を止める。

「シンイチィ! バレル換えるから援護ぉ!」

「やけにリアルな仕様じゃねーか! 本当に必要かそれぇ⁉︎」

「はやくっ!」

 はいはい、速やかに達成しないと、“時間内に交換バレルを渡せなかったので、カレンはやられました”と、ミッション失敗になりそうだ。伏せていた目の前に、交換バレルケースが“偶然”あった。それを握りしめ、しゃがみダッシュで、土嚢にそのまま体当たり。

 カレンは、ひよこ柄のミトンを手にして待っていた。機関銃のクランプを開けると、熱々のバレルを取り出した。そして、俺が開けて持っていたケースに入れると、交換バレルをジャケット内に挿入しクランプを閉じる。その間6秒。さすが手練れのアサルトクラスだな。

 彼女の鼻の頭には、小さな粒状の汗が乗っていた。ボブヘアーは汗で顔にへばりついている。

「……?」

 こちらに向けられる銃撃が少なくなっていることに気づいた。先ほどまでの圧迫を感じない。これは……? 一瞬だけ土嚢から顔を上げる。すぐオプフォーが反応したので、コンマ数秒しか確認できなかったけど、どうやら連中は、E組の廊下の真ん中に、掃除用具入れや机などを倒して防盾(ぼうじゅん)としていた。俺らが威圧されていた時に、相手エンジニアが建てたのだろう。

「おい……」

「何⁉︎」

 彼女は一瞥(いちべつ)もくれず、機関銃のジャムを取り除こうとレバーを引っ張っていた。

「向こうの本隊は、購買部に行ったんじゃね?」

「マジっ⁉︎」

 カレンは目を丸くし、思わず手を止めて立ち上がろうとした。

「危ねぇ!」

 とっさに彼女の手首を引っ張って、土嚢に引き戻す。腕も汗でしっとりしていた。

「何アレ⁉︎」

「それを防ぐ盾だろ?」

 もちろん現実だったら、銃弾は薄っぺらい金属や木材なんか簡単に貫通してしまう。しかしこれはゲーム仕様のイベントだからな。エンジニアが建てたものは、爆破物でしか破壊できないのが通例だ。

「無駄撃ちしてたわけ⁉︎」

 さあ。少なくとも、あのバリケードがあれば、オプフォーは安全にA組隣の階段から購買部に直行できる。我らブラボーの狙いは早くも潰えた。そして、購買部前を確保する菅たちは、今頃てんてこ舞いになっているはず。

「どうすっかな」

 ホテルのエンジニアに除去してもらうか、ここを放棄してアルファに合流するか……? カレンも次の手を考えているようだった。しゃがみこんで、渋い顔をしていた。大きな瞳を細くし、一筋の汗が頬を伝った。

 相手の攻撃は完全に止んだ。弾を防げれば、大方あちらのバリケード隊の目標は、達成したようなものだろう。一応こっちにも機関銃があるので、あえて突っ込んで来ることもなさそうだ。

 このままにらみ合いが続くか、と思ったが違った。声が上がったので、俺はもう一度頭を出した。とある男子生徒が身を乗り出し、槍状のものを俺らに向けていた!

RPG(アーピージー)! RPG(アーピージー)!」

 しゃがんでいたカレンを抱きかかえたと同時に、くぐもった爆音が轟き、酷い耳鳴りに変わった。砂塵(さじん)で周囲が見えなくり、衝撃で床に叩きつけられ、意識が朦朧(もうろう)とした。土嚢は砕け散ったせんべいのようになった。

「クッソぉ……ゲームの演出まんまじゃねーか……パンごときになぜこんな目に……」

 徐々にシェルショックが和らいできた。

「おい、カレン……」

 バカだよな。出血表現も肢体欠損表現もないとわかっているはずなのに、いざパニクると出血や外傷を確認しているんだぜ? 俺らは添い寝をしているようだったが、ロマンスもへったくれもない。硝煙と粉塵が舞い、火薬の残り香が漂う中、砂を被っていた。

 カレンはぎゅっと目をつむり、歯を食いしばっていた。軽く頬を叩くと、小さな女の子が恐る恐る目開けるような仕草をした。何が起こったのか理解できていないようだった。ほんの数秒、俺とカレンは近い距離で見つめ合っていた。

「シンイチ……」

 ポツリと漏らす。正直、『やられてなかったか』という気持ちにもなった。こいつがそうなれば、“味方が倒れた”とゲームオーバーになり、この馬鹿げた騒動は終了だからな。

 状況を理解すると、カレンの怒りが、かんけつ泉のように噴出した。女の子から狂犬の顔の切り替わる! 憤怒に満ちた目で俺を睨み、犬歯をむき出しにした。

「アタシとプレゼント交換したいのねぇ!」(レイジメーター↑↑↑↑)

「え⁉︎www」

 突如、カレンから腹にボディーブローを食らった。


 You are Hurt. Get to Cover to Recover!(心拍音)


 ぐおぉぉぉぉ……。こんな仕打ちをされるとは! のたうちまわっていると、彼女はフラフラと起き上がり、舌についた砂を手の甲で拭い、パンツァーファウストを取り出した。折りたたみ照準器を起こすと、いまだ砂塵が濃く舞う中、相手のバリケードを狙い発射!

 発射筒から物凄い量の煙が吹き出す。同時に爆音。バリケードは粉砕し、そこにいたオプフォー数人はもんどり(・・・・)を打った。もう俺らを倒したと勘違いしたらしい。きちんと敵のダウンは確認しないと、こんな風に足元をすくわれるぞ。 

「ブンダバー!」

 桜“ロケッティア”カレンは、たくましい声で叫んでガッツポーズをした。

「どうよ?」

 そして、したり顔で俺を見下ろす。この位置からタイツが丸見えなんだけどな。あまり見続けると顔をストンプされそう。

「てか、いつまで寝てんの!」

 差し伸べられた手を握って起き上がった。あーあ、砂まみれだよ。軽く叩いても、細かい砂粒が落ちない。

「汚れはすぐ消えるから後よ、あとあと!」

 ホントかよ? 下水道から上がったキャラのように、すぐに小綺麗になるんだろうな?

「なあカレン……」

 もう疲れたから唐揚げパン諦めようぜ、と言おうとすると、不意にバタバタと大人数の足音が聞こえた。H(ホテル)組だった。

「援軍キター!」

 大きな目を輝かせるカレン。事前に打ち合わせをしていたのか、連中は彼女の指示を請うことなく、俺らの横を通り過ぎて行った。タイムスケジュールが押してるが、作戦通りに進んでいるらしい。戦術のことは全くわからんが、購買部の方に向かったオプフォー本隊も、このままホールでホテルとゴルフに挟撃されたら、逃げ場なく潰走(かいそう)するのではないか?

 安堵の息を漏らし、カレンの方を見た。菅と連絡を取ろうとしている。俺もスマホを覗き込んでいたので、A組の前でスモークグレネードが弾ける音にハッとした。するとどうしたことか。ホテルの連中が(きびす)を返して戻ってきている。両手を空にして逃げる奴もいた。カレンは、その1人の腕を捉えた。

「何⁉︎ どうしたの⁉︎」

「知るか! 突然前がバタバタ倒れたんだ!」

 そう吐き捨てると、カレンの掴む手を無理やり解いて逃げ出した。やがて俺ら2人が残される。もうもうと上がる煙の向こうで、一体何が……?

 ドーンと心臓に悪い効果音が鳴った。幻聴……? 違う。なぜなら、カレンも凍りついた顔をしていたからだ。煙の中に、厳ついシルエットが浮かんだ。

「ローリー! インカミーーン!」

 彼女は悲鳴にも似た叫びを上げた。タンクローリーだ! 派手な剣道防具で全身を包み、ライトマシンガンを引っさげて突撃してくる強敵だ。奴も俺らを目視すると、挨拶代わりの弾を寄越してくる。突発イベントにしてはキツすぎじゃね⁉︎

「アッチッチ!」

 ビューンと音を立てながら、弾が次々と通り過ぎていく。土嚢やバリケードは破壊されて、綺麗さっぱり消えていたので、遮蔽物(しゃへいぶつ)は何もない。

 俺はカレンの腕を引っ張って、F組に退避した。射界からは外れたが、時間の問題だ。絶対に奴はここに踏み込んでくるので、策を講じないとミッション失敗だ。

「どーすんのアレ⁉︎」

 さっきのRPGで、MG42はバレルがひん曲がるほど壊された。

「もう1発ロケット撃てるか?」

「無理……」

 カレンのレイジメーターが溜まってないので当然だ。そして俺は、一切合切武器の類を持っていない。

 撤退はどうだ? 近くに階段があるので、そこから降って、退路を確保しているアルファになんとかしてもらうしかない。問題は、廊下に出る必要があり、これは背中を晒すことになる。普通の相手だったら、逃げ切れるだろう。しかし他ならぬローリーだ。弾丸の雨あられを避ける自信はない……。そんなことを考えている間も、どんどん距離を詰められている。

「スモークとかフラッシュバンは?」

「持ってるわけないじゃん……」

 バツが悪そうに答える。だよなぁ。カレンはそういうのを持たない。代わり、銃口がオレンジ色のルガーを取り出した。オモチャじゃないか、絶望的だな……。

「アンタさぁ、これで突撃しなさいよ。主人公でしょ?」

「バカ言うな! お前がやれ! 俺が主人公なら、お前は“(イベント以外ではやられない)不死身の味方キャラ”だろ? 試しに外出てみろ。何百発撃たれようが、やられはしないだろうよ」

「馬鹿じゃないの⁉︎ めっちゃ痛いじゃん」

 腹立つわ! 平気で人をフラグするのに、自分はこうなんだぜ?

「じゃどーすんだ? 怒りにまかせてロケット使うから、もうお手上げだ。退くこともできねぇ。詰みだ、詰み!」

「何よ諦めちゃってぇ! アンタが丸腰なのが悪いんでしょ? マジでバカじゃないの⁉︎ どこの世界に、手ぶらでドンパチする奴がいるのよう!」

「うっせぇ! お前の私欲丸出しのイベントに、道理はないっつっただろ!」

 強敵が近づくにつれ、俺らの焦りはヒートアップした口論となっていた。

「そんな声出さないでっ! どーでもいーから、はやくなんとかしてよ!」

「カレェン……」

「なによぅ! アタシだってこーなるのわかってたなら撃たなかったし! けど、しょーがないでしょ⁉︎」

 感情が高ぶってやがる。このままだと、泣くこと請け合いだ。そして、俺は女の子を泣かせている悪い男になるという……案の定、うっすら涙目になってきた。

 で? 今ローリーはどこだ? D組辺りか? Eか? こいつのほとばしった感情を“消す”よりも、奴さんの対処が急だ。

「ん? 消す……消す!」

 カレンをどけ、教室のスライドドアにしゃがんで張り付いた! ちらりと廊下を覗く。D組辺りを悠然と歩いていたローリーは、弾をスパムギフトしてきた。ついでにそれ(・・)も確認した。

「おい!」

 予期せぬ声色に、カレンはたじろいだ。

「そいつを持って、カバーに付け! 早くしろっ!」

 ぴったりと寄り添ったカレンから、シトラスの香りがした。香水なのか、デオドラントなのかは知らん。今そんなことはどうでもよい。ライトマシンガンの弾が、ドアにガンガンぶち当たっているが、非破壊オブジェクトなので、撃ち抜かれることは絶対ない。

 カレンの掌にあるルガーを奪うと、弾を確認し……なくてよかったな。どうせピストルは無限なんだ。安全装置を解除、“尺取虫”を引っ張って1発目を装填した。

「マジやりあうわけ?」

 えっと……約2、3メーター離れていたから、大体20度から35度腕を下げ――

「ねえシン――」

「ちょっと黙って!」

 切羽詰まっている時の思考を遮られえると、腹が立つんだ。徐々に奴の威嚇射撃音が大きくなってくる。リロードはもう済ませてあるらしい。奴が息継ぎしたら、何発撃てるか? 1発だな。それ以上は俺が蜂の巣だ。そして、奴の歩みからして、あと8秒、7、6……。奴の射撃が止まるのを祈った。

「今だ!」

 何も聞こえなくなる程呼吸を止めると、片足を軸に身体を回転させ、ルガーを突きつけた! タンクローリーに? いや、消火器に。幸運にもエイムがドンピシャで、1発で爆発した。

 不運なあいつは、その脇を歩いていて、もろに爆風を浴びた。ピンクの消火剤が一面に舞う。巨大なフラググレネードと、スモークグレネードと同等の効果だ。破片をもろに食らって、いわゆるスタン状態。そのアニメーションは、ゲームのように大袈裟だった。『緊急回避だ、正当防衛だ』と自身を納得させるが、やはり良心がチクリとした。

 俺はカレンの手首を引いて廊下に駆け出した。

「ちょシンイ――」

 振り返らず、ただ階段を目指した。奴がスタンから回復する前に。

「ハハハハァァァ〜!」

 侮蔑が多分に混じった嘲笑が、カレンから沸き起こった。

「鳴り物入りで登場して、消火器にやられちゃあザマァないわ!」

 俺の腕を振り解くと、煙の中のローリーに向かって喚いた。自分も一言を食らわさないと気が済まないらしい。なんて調子のいい奴だ。まるで最初から危機がなかったような口調である。俺は改めてカレンの手首を掴むと、改めて階段向かって駆け出した。

今回も読んでくれてありがとうございます。感想やミスの指摘などいただけたら嬉しいです。

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