【e2m7】ヘッドハンティング
ヒロイン同士の交流が難しいです。
「ブンダバー!」
バカレンが喚きながらやってきた。はぁ……嫌な予感がする。というかコイツに関しては、嫌な予感しかしていない。
「ちょっと聞い――」
「またろくでもない事を?」
「勝手に決めつけんな!」
アップルミルクを飲みながら、軽くあしらっていると、拳で机を叩きつけやがった。コイツは否定するが、十中八九ろくでもないこと請け合いだ。
「女子ソフトと試合することになったから」
「???」
「あーあーあー理解の遅いアンタのために、もっと尾ひれをつけてやんよ。食堂でさ、偶然隣がソフトのキャプテンだったの。そのコが最近試合してないって言うもんだから、我がeスポーツ同好会が、お相手仕ろうって話になったわけ!」
「……わけわからん。野球ゲームで対戦すんのか?」
「違う。アタシらがソフトやんの! リアルで!」
「もっとわけわからん」
「なんで⁉︎」
「俺ら3人、誰1人として経験ないじゃん」
「ボール来たら打ち返せばいーんでしょ? 簡単じゃん」
「それができねーから困るんだが?」
「3回ぐらいバッターボックス立てば、ホームラン打てるっしょ?」
流石ホームラン級のバカは、斜め上の主張を展開しますね。
「そもそも、なんでeスポーツ専門の俺らがリアルスポーツやるんだ? 本末転倒だろ」
「アタシらだって、身近に対戦相手いないからでしょ? いい機会じゃん。相手フィールドでぶち破って、校内に名を轟かせんのっ!」
この自信たっぷりの表情と姿勢、本気で勝つつもりなんだろう。マジで手に負えない。頬杖をついていた俺は、大きなため息を見せつける。
「あのさ、守備はどうすんだ? ソフトは9人必要だろ? そして、俺ら3人しかいないわけだ。流石のお前も、“10までのかず”はわかるよな?」
「どんだけ人をバカにしてんの! 今からめぼしい奴を入部させる」
ちょうどジュースを飲み切ったので、やれやれと言わんばかりに重い腰を上げた。
「なによアンタ、今日はやけに聞きわけがいーじゃない(笑)」
どうせ何言っても無駄だ。話がこじれて、ドカンはごめんだからな。何も考えずハイハイと従った方が楽だよ、全く。
「で? 試合はいつなんだ?」
「今日の放課後!」
誰か銀河級バカを超える称号を考えて下さい。宛先は、more_than_galacticidiot@atmail.comまで。
「なん? ベースボールにかたれって言うとーと?」
早速A組に突入した。交渉しているのは、エンジニアのミーガン・R・メイヤーさん。前回、唐揚げパンウォーフェアの対戦相手として対峙し、またゲット&ランでは味方として勝利に貢献した。博多弁話者だが、容姿はギャルゲーのハーフ枠そのものである。
「そうそう。ついでにさ、eスポーツ同好会に入って」
「ごめん。ウチ、ダッドの手伝いばせないかんとよ。興味あるばってん……」
なんでも小さな自動車ディーラーを営んでおり、彼女は幼少期から整備の手伝いをしているのだ。
「運動部みたいな練習はないよ。名前ばっかりの茶話会だからな。暇な時に来て、くつろぐ感じ」
現状を俺が補足した。やっぱり誤解されるよな。普通eスポーツなんて聞いたら、LEDが光る薄暗い部屋で、ハイエンドPCを並べてひたすら競技に耽っているイメージだ。
「ほんなこつ?」
「ああ。いつ来てもいいし、いつ帰っても問題ない。月500円の会費はあるけど、それ以外面倒はないと思う」
「なら入る! 今日はね……なんも案件入っとらん。やけんベースボールも参加するたい!」
ウインクとともにサムアップ。こんな明るくノリの良い女子だ。
「うしっエンジニア確保。ねえ、ささみは?」
「知らん。その辺おるっちゃなか?」
「了解。じゃ後で!」
発射されたロケットのように、ビューンと飛び出していくカレン。
「クールタイム終わったごたけど、大丈夫と?」
親指で差しながら、苦笑いをした。やはり彼女もカレンを気にしていたようだ。
「まあ、外で遊ぶだけだから……少なくとも今の所は」
「ふーん。そっで放課後どこさん行けばよかと?」
「……俺も知らん」
「Hahaha. キャレンらしか。わかったら教えてね♪」
サンサンと照ような、まじり気ない笑顔にドキッとしてしまった。彼女の元気ではつらつとした性格は、本当にいいよな。
「えーマジー?」
カレンは廊下で小早川氏を見つけたようだ。声色からして拒否されたな? 俺は彼女に軽く会釈をする。前回のゲット&ランで散々やりあったにも関わらず、彼女とは関わりがないので、ここはカレンに任せよう。
相変わらず、ぼーっとした目でカレンを見据えている。何を考えているかわからんが、素晴らしい身体能力と狙撃に必要なスティディハンドを持っているのは確かだ。
「ダメだって」
口をとんがらせて俺に言う。
「アンタのスキルが必要なのよ、お願いっ! 休みの練習もないしデートの邪魔しないし」
「彼氏とは別れた」
初めて彼女の声を聞いた。ハスキーボイスなのな。
「マジで⁉︎ じゃ入ってよ」
「おい、無理やりはよそ――」
「大宮」
いつの間にか、こちらを見ていた。その視線は突き刺さるような深みがある。狙撃兵に狙われているヤバい感覚が、ゾクゾクと背筋に走る。
「貴方も入ってる?」
「俺? まあ……」
しばし沈黙。
「わかった、自分入る。放課後も行く」
「え? え?」
「よろしく」
首まで切り揃えられた毛先は、ウェーブがかかっていて、振り返りざまにふんわりとしたのが印象的だった。派手な青ヘアクリップも、校則に反抗するように目立っていた。
「なんなのアイツ……アンタさ、逆三角形の印を結んだ?」
「魔法剣士じゃねーよ」
「じゃあ、ささみの仲良しポイントが高いとか?」
「なわけねーだろ」
「そうよね。ま、いっか。結果オーライってことでっ!」
「=͟͟͞͞(◍︎ ˃̶ᗜ˂̶))) おーみ――」
F組に入る直前、特有のサウンドが聞こえた。俺とカレンは見合わせて警戒モードになる。案の定、特殊ヒロインが、戸口からチャージを仕掛けてきた! ダッヂで回避。ガラスが派手に割れる音。もろに突っ込んだな?
「(꒪̥̥﹏꒪̥̥ ) ゔゔ。おーみやくんひどい……」
「逃げも隠れもしないから、普通に登場してください。怪我してますか?」
「( ⸝⸝⁼̴́◡︎⁼̴̀⸝⸝) ううん大じょーぶ。えへへ、やさしーんだね」
さすが自称“前向き”だ。俺、全くそういう意味で言ったつもりじゃない。頭をさすりながらも、ニコニコ笑顔を絶やさない先輩を見ていると、ふと考えがよぎった。
「ねぇ先輩、部活とか入ってます?」
「え⁉︎ こんなん入れんの? どう見ても無能そうじゃん!」
「(◍•ᴗ•◍) 何のこと?」
「俺たち最近同好会立ち上げたんです。んで、今日の放課後ソフトボールするんですよ。先輩もどうかなって」
「だぁかぁらぁ、ボットの方がマシ!」
指差しながら先輩を卑下するカレン。はぁ、相変わらず短絡的なことよ。
「あのな、先輩はコマンダー様だぞ? 俺の言ってる意味わかるな?」
ハッと理解したのか、カレンは口をつぐんだ。
「(✿´ ꒳ `) まい、おーみやくんと遊べるの?」
「ええ」
先輩の細目がうっすらと開いた。
「( ✧Д✧) えーどーしようかな〜。まいちゃん、まような〜」
「要求は?」
カレンがずいっと前に出た。
「( ✧Д✧) おーみやくんのなかよしポイント、200」
「に、ににに、にひゃく⁉︎」【桜カレンの不満度:50】
それどれくらい膨大なの?
「100!」
「(๑˃̵ᴗ˂̵)و じゃ150」【桜カレンの不満度:83】
「125!」
「(๑˃̵^˂̵)و じゃ135」
「……チッ、くれてやんな」
常田まい +135【30%ブーストボーナス】 +175
いやいや、ミッション報酬額の押し問答じゃねーんだからさぁ。しかも、そんなポンポン値を変えて、しかも別ヒロインが俺に、“くれてやんな”とか言うか普通……。ツッコミが追いつかねーよ。
ともかく、俺の頭上のハートマークがニュニュニュと満たされ、常田先輩とのなかよしレベルは12まで跳ね上がった。だからと言って、ときめいたりしないけどな。
「(人-ω・) あとね! あとね! まいちゃんのおねがい、その2!」
「まだあんの⁉︎ オメー貪欲すぎだろ!」
「( ु ›ω‹ ) ु おーみやくん、まいとデートしてください!」
「あ、そんなこと。どーぞご勝手に」
カレンさん、なんでお前が仕切ってるんですかねぇ……。
「⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ やったあ! やった! やった! やった! まい幸せ!」
子犬みたいに踊って喜ばないで。そして当然のように抱きつかないで! ああ^〜スッゲー甘い匂い……。
「すわ、なでふこの嗚呼御前は、復来ておるか?」
あー最悪。メンドーなのがもう1人顕れたぞ。
「Σ(๑°꒵°๑) あ! のんたんだー!」
「誰かのんたんかッ!」
「てか、なんなのよコイツら。ウチのクラスにたむろして……遊び場と思ってんの?」
と学校全体を遊び場にした奴が申しております。
「(*'∀'人) おーみやくん、のんたんもさそおうよ!」
「ですね。ねぇ辻さん。あのパソコンくれてやるからさ、今日の放課後ソフトボールに参加してよ」
「辞退謹んで申し上げまする」
冷たい目で即時却下ですか。ですよね。
「こっちから願い下げよ!」
「おいよく考えろ。応用がきかないボットより、こいつの方が戦力になるだろ? 情報科だぞ。意地張って試合に負けるか、頭を下げて勝率上げるか、どっちがマシだ?」
ボットは数を埋める程度で、人間のような立ち振る舞いができないのは、ゲーマーの常識だ。加えて、こいつはカレンとの接近戦で、競り勝ったヒロインだからな。戦力にならないわけがない。本人もどちらが良いのかはわかっているはず。あとはその変な意地を取り下げるだけだ。
「……チッ。おいミジェット、あのガラクタが欲しいならくれてやる。ただし――」
一拍置く。カレンと辻さんの間でピリッとした緊迫感が漂った。
「ソフトの連中に勝ったらね!」
俺と先輩は、能面のような顔を崩さなかった辻さんを固唾を飲んで見守った。あとは、彼女の答え如何だ。
「(´•ω•) あ、チャイム……」
「長居しせり。垂乳女どの、いざ歸らん」
「( ੭˙꒳ ˙)੭ 待って〜」
と辻さんは、カレンを無視するようにスタスタと去って行った。
「……なんなのあのちんちくりん、お高く止まっちゃって。ちょームカつく! 来ないならそうはっきり言え!」
先に折れたことを後悔したようだ。けど大丈夫だろう。辻さんは、『来ない』とは言わなかったからな。彼女らが去ると同時に、鹿島が入れ違いで帰ってきた。
「ねぇ、今まい先輩とのぞみちゃんとすれ違ったけど、また揉めた?」
「どの程度をもって揉めると言うのか知らんが、戦闘はなかったぞ」
「すごいねそれ。実績解除、おめでとう!」
!実績解除!【みんななかよし(さしあたり)】
:条件:1イベント中に全ヒロインが登場し、誰もフラグしなかったしされなかった。
今回も読んでいただきありがとうございました。