【e2m6】Vital signs are dropping.
のぞみの古めかしい言葉は、解説するのは大変なので、どうしても必要な部分だけ注で書きます。なお、ほとんど古典から引っ張ってきたものですが、ごく一部私が作ったのもあります。ご了承ください。
教室に帰るなり、カレンがやってきた。
「ねー、さっきまたピンクが湧いたんだけど?」
「マジ⁉︎ で、どうした?」
「追っ払った」
珍しく役に立つ事をしましたか……。
「話変わるけど、俺と鹿島で放課後に特別支援学校に行くからな。同好会として」
「は?」
同好会の会長に報告しないのも変なので、先ほどの内容を簡単に説明した。
「了解了解。がんばって」
と軽く了承。よかった、変に『アタシも行く』とかシャシャリ出なくて。
「あのさ、ゲームで組む人見つかったんで、集まって練習することになったんよ」
「そうなんだ、がんばって勝てるといいね」
「まーぶっちゃけ優勝は無理だろうけど、できるだけいい成績残してくるわー」
現実が見え始めたか。こいつはゲームに関しては、バカじゃねーからな。まあ、がんばって足掻くがよい。
「あ……」
ふと鹿島が声を漏らした。その視線は教室後方、カレンのロッカーに向けられていた。そこにしゃがんでいたのは、小柄な垂髪女子。鹿島は騒動を起こしたくないのだろう、カレンに悟られなように、わずかに俺と目配せした。
「マウスとキーボードに対応してたら、アタシの無双なのに……」
不平をつぶやくカレンは、辻さんに背を向けているので、気づきもしない。やがて辻さんは、カレンが四六時中守っているパソコンを取り出して、俺らに向かって掲げた。尋常の表情だが、『妾将に之を引きて取らんとす』と言わんばかりだった。
俺と鹿島は、無言でサムアップする。
「????」
バカめ。状況を理解していないカレンは、俺らにサムアップしやがった。しかし辻さんも、律儀だな。盛大に咳して、一応カレンにも知らせた。
「あぁん? ああああ!!!」
80デシベル超のボリュームを出すな! パソコンを抱きかかえて、そそくさと出て行こうとする辻さんを、やすやす見逃すわけがない。
「ブキ! ブキ⁉︎」
カレンから出てくるのは、巨大なハケやエアブラシなど。なんだよ、不満を言っている割にはすっかりハマっているじゃねーか。
辻さんが教室後方のドアに差し掛かった時――
「(இдஇ ) おーみやく――――――ん!!!」
ピンクの髪の上級生が、猛突進しながら入ってきた。常田まい先輩だ。彼女は机や椅子、そして人をぶっとばしn――
「キャッ!」
「い゙っで!!!」
「(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ まいさけられたのかと思った! さみしかった! もーはなれないで!」
O2:■■■■■■■■■□
「あいたた……何? 何なの?」
「くっ……いづくにか妾がパソコン有るか?」
「残念、急な語り部交代は困るなぁ。あ、読者の皆さん、視点は鹿島になりました」
今大宮くんの頭部は、まい先輩の豊満な胸にぎゅうぎゅう抱き籠められて、けしからん状態になっております。
カレンちゃんは、流石アサルトだね。すぐ跳ね起きて、パソコンに飛びかかりました。のぞみちゃんも負けじと手を伸ばし、2人は綱引きのようにパソコンを引っ張っています。QTEのボタン連打シーンかな? あんな張力加えられると、パソコン割れそう……。
O2:■■■■■■□□□□
「あの〜いい加減にしませんか?」
「(˶‾᷄ ⁻̫ ‾᷅˵)」
呼吸ができずに手足をバタつかせる大宮くん。けどまい先輩は、聞いちゃいません。
あちらでは、のぞみちゃんがQTEに勝ったらしく、奪い取りました。
「くっそ! アタシを倒してからそいつを持っていけ!!!」
折り畳みシャベルを取り出し、挑発するカレンちゃん。もはや目的が変わっている気がします。
「ほ。何の料に尋ねるぞ。速かに闘諍畢り給え」
のぞみちゃんは簡単に乗りません。パソコンが壊れていないか確認しています。その冷静さに落胆したのか、カレンちゃんは構えを崩しました。
「ちょっとちょっとぉノッてこないの? 興ざめなんだけど⁉︎」
O2:■■□□□□□□□□
一方、相変わらず大宮くんはムネに埋もれたまま、パニック状態になっています。まい先輩は、すごく嬉しそうな表情。あそこだけラブラブ空間が醸し出されています。
Shinichi was smothered by Mai’s masterpieces.
「残念、やりすぎましたね……チアノーゼ出てる」
「Σ( °o°) あれぇ? どーしたの? おーみやくーん?」
「すわッ!!! 其の女房は、誰人でおわしますぞッ⁉︎」
カレンちゃんが引くぐらい、のぞみちゃんは怒声を発しました。ずんずか歩いて来て、まい先輩と対峙します。
「汝は誰そ。名乗り給えッ!!!」
「(; ᵒ̴̶̷᷄дᵒ̴̶̷᷅ ) こわい……」
強面に誰何されるまい先輩は、さっと私の後ろに隠れます。とりあえず大宮くんを蘇生しましょうか。
「プッファアアァ!」
「はい、酸素缶だよ。ゆっくり深呼吸してね? 語り部大丈夫? 私がやろうか?」
「いや、俺やるから」【視点が鹿島から大宮へ移動】
読者諸氏に言っておく。さっきのは羨ましい状況から程遠いぞ。窒息がいかに恐ろしいか、身を持って体験したからな。ただ、素晴らしい女の子の香りが脳を満たして、マシュマロのような――
「宮どの、この女房は何ぞ⁉︎」
「マシュマロ? いや、そんないいものではなかったな。布切れが口と鼻に――あいでっ!」
「由無し事を、なのたまいそ!」
「……単なる知り合いだよ」
「(*ฅ́˘ฅ̀*) ちがいまーす。まいちゃんは、おーみやくんのカノジョでーす!」
さっと俺の後ろに張り付き、顔を肩にのせる先輩。辻さんが更にイライラを募らせるから、止めてくれませんかね?
「此れは如何なる人ぞ?」
「アタシに聞くなwww」
「(;-`д-´) あなたこそ、だぁれ?」
「辻のぞみ。情報科壱年F組に居りまする。宮どのが従父姉妹なり」
「( •̆ ·̭ •̆) 常田まいちゃん。3年J組……」
これほど気まずい自己紹介は、見たことがない。
「宮どのも宮どのでありましょう。丈夫たる汝が、ねじ伏せらるると思わじ」
「アタシも思った。さっさ突き放せよ。できるだけ長く乳を楽しもうとしてたんだろ? やらしくてキモいんだけど……」
なんでカレンと辻さんとが一緒くたになって、非難するんですかねぇ⁉︎
「違う! 特殊感染者に捕まったみたいに、3人称視点になって、誰かの助けを待たないといけないんだ。マジで自力救済できないんだって! わかるか俺の言ってること?」
「ウソこけ。そこまで乳に執着すんの? つかさぁ……」
「それよ! 早や早や、宮どのより離れ! いまいましきこと甚だし」
「٩(๑`^´๑)۶ イヤ!」
「いしう申させ給ふ御前かな。さあらば妾も手加減すべきか」
辻さんは薙刀(先竹革付)を取り出すと、水車のようにぐるぐると振り回す。なぜウチのクラスに関係ない人同士が、ケンカしているんだろう?
「アハハハハ! おっもしれーこと言うじゃんチビ。やっちまえ!」
頭に血が上った辻さんの姿は、カレンにウケたようだ。ハッとした辻さんは、カレンと同類と思われたくないらしく、赤面して彼女を睨めつけた。
「いとう興醒めり。亦参らん」
パソコンをカレンに押し付けると、帰って行く。
「あ、ちょっと! アンタ勝ち取ったんでしょコレェ?」
「かしがまし!」
「なんなのアイツ?」
お前を完膚なきままに打ち破って、屈辱を与えて奪わないといけないらしい。先輩の茶々に助けられたなカレン。
「気分はどう?」
さっきからずっと黙って、俺を気遣ってくれた鹿島。ふざけたフラグだったが、真剣な顔で顔色を診てくれている。俺は酸素缶を返した。
「ああ、ありがとう」
「( *¯ ³¯*) まいちゃんも〜。かんせつちゅーするー」
「無駄遣いはダメです」
酸素缶に伸びた先輩の手を、ひょいといなす。
「٩(๑`^´๑)۶ けちぃ……」
「あのー先輩、マジで離れてくれませんか? 辻さんもいなくなったし」
「(• ̀∀•́ ) ねーおーみやくん」
「話聞いちゃいませんね、なんでしょう?」
「(• ̀∀•́ ) のんたんって、どんなコ?」
「のんたんて……ご覧の通り、ちょっと変わった奴でして。悪くない奴なんですけど」
「( ⁼̴̀꒳⁼̴́ )」
あいも変わらずぴったり寄り添っているが、どうやら辻さんのことを考えていた。
「いい加減コイツ“殴る”で引っ剥がしていい?」
「んーフラグの危険性がないなら、攻撃はダメだよ」
今回も読んでくださってありがとうございます。