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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e2m5】まともな実績

珍しく何も事が起こらないパートです。

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 休み時間に、鹿島が俺の席にやってきた。

「今はパソコンじゃなくて、タブレットが主流なんだよね?」

「そうだよ」

「難しい?」

「まあ指で操作するだけで、中身はパソコンと変わらんぞ」

「マウスもキーボードもないと、困っちゃいそうで……」

「触ってたらじきに慣れるよ」

「うーん……できれば、すぐ慣れたいんだよね」

 目を逸らして、人差し指を唇の上に置く。ちょっと困った表情から、何か問題が起こったのかと察した。

「さっき学校間交流に行くって言ったじゃない? 今ガイダンスを読んでいたんだけど、相手先校ではタブレットを使った授業が始まってて」

「へぇ意外。そりゃ先進的だな」

「だから、“タブレット型コンピュータの操作に慣れておくのが好ましい”って書いてあったんだよ」

 なるほどね。鹿島はガラケーを使っているからな。電話とメールさえあればいいらしい。

「お前も真面目な。“好ましい”ぐらいなら、深刻にならなくてもいいんじゃね?」

「うーん、でもせっかくなら、きちんとしておき……あっ」

 その時、授業のチャイムが鳴った。彼女は慌てて、自分の席に戻ろうとする。

「聞いてくれてありがと。後はなんとかするから」


「ブンダバー!」

 ガターンと音を立てて突如イスから立ち上がった…………俺が。

「おい鹿島! コレだ!」

 机間(きかん)を縫いながら、彼女の前面にやってきた俺。やってきたというよりシリアン・ウェアブルのように“突っ込んでいった”と表現したほうが正しい。

「今さマジでいいこと思いついたんだだけどほらさっきタブレットがどうのとか言――」

「私も今本当にいいこと思いついたよ。“とりあえず席に戻ろうね?”」

「最後まで聞けっ!」

「大宮くぅん……」

 彼女は極上の呆れ顔をしていた。そして、チョイチョイと教卓の方を指差しした。

「あん?」

 唸りながら後ろを振り向いた。梅本先生が石像になっていて、俺を凝視していたのだ。

「今授業中なんだけど……」

「あ〜先生! ちょっと待ってくれませんか?(鹿島の方を向き直り)あのささっきの――」

「はいはい、とりあえず着席しようね? その“思いつき”は、紙にまとめてくれないかな?」

 やむを得ず鹿島も離席し、俺の肩に手を添えて誘導した。

「何だよ、話の腰を折って……」

「授業を妨害しないでくださーい」

 最後に、一番授業を聞いていないバカから冷やかしを食らった。


「……大宮くんも交流に参加するの?」

「まずい?」

「うーん」

 思いつきを紙にまとめこそしなかったが、なぜこんなことを閃いたか。俺が随伴すれば、“タブレットの操作に慣れておくのが好ましい”という鹿島の問題は解決するからだ。

「私は助かるけど、どうしてまた?」

「同好会だよ同好会」

「eスポーツと何の関係があるの?」

「ぶっちゃけ無関係だ。しかし、こういうのに参加して、先生たちの得点を稼ぎたい。打算的と思うかもしれんが」

「なるほど……じゃカレンちゃんも?」

「あいつはゲーム大会があるだろ? それに万が一相手先で下手()った場合、得点減になってしまうからな」

「ヘックチュゥン!(かわいい声)」

 クラスメイトと雑談している奴をチラ見した。どう考えたって、猛獣は連れて行けない。鹿島は人差し指を唇に当て、うーんと考えた後、ガイダンスのプリントを改めて見た。

「看護科じゃなきゃダメとも書いてないし、放課後だから授業に支障ないはずだけど、わからないなぁ。電車賃とかは出ないかもしれないよ?」

「構わんよ。俺、担当と話つけたいから、お前も来てくれない?」

「今から? いいけど……珍しく自分からヒロインの問題を解決する気になってるね? それとも、マップに落ちてるアイテムでも食べた?」

「うるさいな」

 クスクスと嬉しそうに、俺を茶化す鹿島であった。


 さっそく職員室に向かった。

「担当って怖い?」

「松本先生? 全然」

 よかった。規則やルールに拘る人じゃなくて。

「2年F組、大宮伸一と鹿島梢。松本先生に用があります。入ってもよろしいでしょうか?」

 許可を頂いて、その先生の机までやって来た。

「あら? 鹿島さんと――」

「大宮伸一です」

「ああ。彼女のスキルファーミング被験体で……桜さんの下僕の?」

 今日俺は、そんな二つ名で呼ばれていた事を初めて知った。隣で鹿島が苦笑いしていた。『こんな人なんだよ』と。

「ちょっと聞きたいことがあるんですが――」

 俺はeスポーツ同好会のことも出しつつ、鹿島がタブレットで困っているから随伴したいと申し出た。

「いいんじゃない?」

 先生は一考する間もなく、あっけらかんと了承。

「病弱と交流経験はなくて、しかも鹿島さん1人に行かせるから、私も不安だったのよ。貴女も一緒がいいんでしょ?」

「はい。大宮くんがいると助かります、とっても」

「あのー言い出しっぺが言うのもなんですが、大丈夫ですか?」

「何が?」

「飛び入りで行って……問題になるとか」

 申し訳なさそうに言うと、先生は遠慮なく笑った。

「そんなこと心配してんの? 医療行為をするわけじゃないから大丈夫。教務には適当に文書出し……あなたたち梅本さんの子だっけ? なら口頭でいっか!」

 そんな適当でいいのか、まあ都合は良いが。

「ただし――」

 先生は、急に念を押す表情に切り変わる。

「向こうは病弱なので、体調には注意してね。風邪気味だったり、平熱じゃなかったら遠慮すること」

 そんなシビアなのか? 鹿島の方を無言で見る。

「向こうの先生や病院スタッフが気にするの。生徒さんの抵抗力が弱いから、私たち外部が感染源にならないかって」

 俺が口に出さずとも、ピピッと察知した鹿島が補足してくれた。

「あとはそうね、特支じゃ個人情報が特にシビアなので、写真などは扱いに注意してね」

「わかりました。とりあえずガイダンスの紙もらえますか? よく読んで鹿島さんの指示に従います」

 こんな感じで、トントンと話は進んだ。後先考えず行動を起こしたが、まあ同好会の貢献としてがんばってやるか。

今回も読んでくれてありがとうございました。

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