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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e2m4】特殊ヒロイン

最後のキャラの登場です。彼女は、基本的に小学3年までに学習する漢字しか使わないので面倒です。あと女の子っぽさを出すために顔文字を多用していますが、今後消すかもしれません。

 次の日から、カレンは同好会のパソコンを常に持ち歩いていた。持ち出し厳禁だが、そんなこと奴の知ったことじゃない。正直、そんな低スペックくれてやれと思う。しかし奴としては、小しゃくな下級生に負けた気になるのだろう。最悪、消防斧を植えて送りつけるかもな。

「――やくん? 大宮くん? おーい」

「はっ⁉︎ すまん……またお前との会話をぶつ切りにしていた。俺もう主人公失格だろ? お前やれ」

「さらっとすごいこと言わないでね? それに私はヒロインです」

 隣の鹿島がキッパリと断る。俺らは今移動教室から帰っている途中だ。

「で、なんだよ?」

「私、ちょっと同好会に来れなくなるけど……いいかな?」

「家の用事だろ? 気にすんな。何かやっているわけじゃないし」

「そうじゃないんだけど。えっとね、放課後に交流学習へ行くことになったの」

 俺の頭上に、?が生じたのを見たのだろう。鹿島は丁寧に説明してくれた。なんでも学校行事の1つで、正式には“学校間交流及び共同学習”という。近隣の特別支援学校の児童生徒と交流するのだ。

「近くにそんな学校あったか?」

とくし(・・・)ほんこう(・・・・)はないけど、ぶんきょうしつ(・・・・・・・)があるんだよ」

 特使? 香港? なんだそれ? 鹿島は、えっとねと前置きを入れて、更に教えてくれた。

「特別支援学校の略称が特支、分教室は病院内学級と言えばわかるかな? 本校とは、分教室が属している学校のことだよ」

 つまり、病院内に設置してある分教室……に所属する生徒さんと交流するのか。

「なんでまた?」

「指導要領で決まっているから……って言うとアレだけど、ウチの場合、看護科2年が担当なんだよ。友だちは盲学校とか聴覚特支に行くみたいだけど、私は病弱身体虚弱の人たちがいる所になったんだ」

「ふーん、まあがんばれや」

「うん。楽しみだよ」

 俺にとっちゃ、学校行事なんてかったるいが、コイツは本当に楽しみなんだろうな。ニッコリと顔が綻んでるよ。

「こずえちゃーん!」

 すると後ろから、アニメ声が飛んできた。

「まい先輩?」

 鹿島と共に振り返った。初めて見る人だ。看護科の先輩だろうか? 目を細めてニコニコしながら、やけにまろい声で話している。しっかしすごいな。ギャルゲーの登場人物みたいなピンク髪だぞ……。俺はこの人と関わりないので、黙ってしげしげ見ていると――

「(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈) あなたがおーみやくん?」

「え? そうですけど……」

 急にその微笑みを俺に向けたので、ドキッとした。

「(୨୧ ❛ᴗ❛)✧ じゃあ、まいを助けてくれた人ですね?」

「助けた?」

「ほら、あの時の!」

 すっかり忘れていたが、鹿島のその一言で思い出した。

「ああ、売店で倒れていた人ですか?」

 今もウイッグつけてんのか。セミロングヘアと同じ色のコンタクトもつけてらぁ。生徒指導部に喧嘩売っているのか?

「ヾ(´3`)ノ そうです。まいを助けてくれてありがとう! メダルはないので、これでがまんしてください」

 両肩にスッと手を添えられ、そのまま瞳を閉じた顔が近づいてきて――!

「ちょちょちょちょ――!」

「(*/∇\*) えへ。ちゅーしちゃった。まいちゃん大たん」

「あの、出会って即キスは、飛ばしすぎじゃないです? 大宮くん? 大宮くん? あ、心臓がけいれんしている……」

「それなぁに?」

「除細動器です……離れてくださいっ!」

「うがっ……!」

 この体がビクンっと跳ねる感覚、覚えがある。ああ、小早川氏のライトニングボルターだ……と、思いつつ蘇った。つか――!

「ハァハァハァ……あ、あなた一体何をっ⁉︎」

「(๑°꒵°๑) ちゅーだよ」

「意味がわかりません!」

「(*´︶`*) だってまい、おーみやくんのカノジョになるんだもんっ!」

 邂逅(かいこう)一番、なんてことをっ⁉︎ 俺と鹿島は顔を見合わせた。

「まい先輩……ちょっと自重してもらえませんか? 登場早々にラッシュされると困ります」

「(੭*ˊᵕˋ)੭ えへへ。バトロワで勝ちぬくには、さいしょからもーアタックするのが大切って、まい知ってるよ。ねーおーみやくん?」

 と、豊満なボディを、わざと密着するように抱きついてくる。鹿島が過去最高に呆れとるわ……。いや、侮蔑の情も少なからず入っているな、あの顔には。

「すっごく残念……けどまあ、大宮くんは昔気質のコアゲーマーですから」

 と俺の属性を思い出し、一転して落ち着きを取り戻す。

「(*´・д・) こあげーまー?」

「この人は2次元美少女を含む、HENTAIコンテンツにはなびきません。だよね?(オートミールおじさんの笑顔)」

 物凄い威圧感を感じるのは気のせいだろうか?

「(இдஇ ) ほんとー? まいちゃんのことキラい?」

 ドアップの涙目で訴えられても、その……甚だ困る。

「(゜Д゜;) ハッ! まい重い女って思われてる?」

「むしろ軽いと思います……」

「₍ ⸝⸝› ̫‹⸝⸝ ₎ でもいーんだもん! まい、前向きなしせいだけが取りえだもんっ!」

「はぁ……」

「( ֦ơωơ֦) あ、そーだ! おーみやくんって呼ぶのもた人ぎょーぎなので、もっとカノジョっぽいよび方にする〜」

 今更言うのも(はばか)れるが、敢えて言わせて。この“自称”彼女のまいさん、一体何者……? しかもさ、俺ら教室に帰っているのに、何の疑問もなくついてきている。

「(❍ʻ◡ʻ❍) まいちゃん、“しん”って呼ぶ♡」


警告【その名前は既に使われています】


先輩(しぇんぱい)。それウチん独占呼称やけん、使ったらいかんばい」

 と偶然通りすがりのメグが、釘を刺して去っていった。

「( °ㅁ° ) あの子だぁれ?」

「フレンドです」

「(*´ヮ`)ノ じゃあ、“しんいち”にするぅ」


警告【その名前は既に使われています】


「( ¯꒳¯ ) これさくらちゃん?」

「ええ。てか、カレンをご存知で?」

「(*•̀ᴗ•́*)و ううん、まだ会ってないよ。じゃあじゃあ……“しんちゃん”は?」


警告【その名前は既に使われています】


「( •̅_•̅ )」

「わ、私じゃないですよ? “大宮くん”で登録してますから。誰?」

「知らん」

「( )`ε´( )੭ꠥ⁾⁾ もー! だれなの‼︎ このホルダーさんわっ! まいが“しんちゃん”使いたいっ!」

 ぷくーっと風船のように頬を膨らませて怒る先輩。ホルダーって……。 

「(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ じゃあ“zZzSHIN420mydarling”にするっ!」


確認【呼称を zZzSHIN420mydarling にします。よろしいですか?】

rア はい

  いいえ


「どれも使われているからと言って、自動生成っぽい名前で呼ばないでくださいっ!」

「らちがあかないから、そのまま“おーみやくん”にしますね、まい先輩」

 と呼称を勝手に決定する鹿島。薄々感じるが、鹿島よ。お前って1ヒロインの権限を超えたことしてるよね?

「あと、いい加減に大宮くんから離れましょうね?」

 ですよね。どうして学校という公共の場で、しかも知り合って数分で、ナチュラルに腕組みしてくるんだろうか?

 

 いよいよ俺らの教室に帰ってきたが、それでも彼女は気づかないらしい。

「( ⸝⸝⸝⁼̴́◡︎⁼̴̀⸝⸝⸝) ねーおーみやくん?」

「はぁ?」

「( ⸝⸝⸝⁼̴́◡︎⁼̴̀⸝⸝⸝) まいを、まいちゃんってよんでね?」

「ご遠慮申し上げます」

「(๑¯Δ¯๑) なんでぇ⁉︎」

 いや、知り合ったばっかの人を軽々しく呼べるかよ。

「₍ ⸝⸝› ̫‹⸝⸝ ₎ はずかしいの?」

「違います」

「だからですね、まい先輩。大宮くんは硬派なゲーマーなんです。仲良くなるまで時間がかかるんです」

 俺の代わりに、返事をする。さすが鹿島だ、よくわかっていらっしゃる。

「(๑>ᴗ<๑) つまり、おーみやくんとの“なかよしポイント”を上げれば、よんでくれる?」

「それなんてギャルゲー?」

「( ˶˙ᵕ˙˶ ) ねぇ、梢ちゃんのなかよしポイントはいくつ?」

「わ、私ですか? えっと……いくつ?」

「今日俺は、そんなメーターがあることを初めて知った」

「ちょっと確認してくれる? “メニュー>ヒロインリスト>なかよしポイント”で、確認できるよ?」

 なんでそんな事知っているんですかねぇ……?


・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜

✽.。.:*大宮伸一のなかよしポイント.。.:*✽ 

.。.:*・゜♡★♡゜・*:.。 。.:*・゜♡★♡゜


常田まい:レベル 1 【  3ポイント】

鹿島梢 :レベル20 【408ポイント】 ☺︎☀☤♥


「\\٩(◦`꒳´◦)۶// こずえちゃんずるいっ!!!」

 教室中に轟く声で不満を上げた。いやいや、こいつは中学からの知り合いで、しかも何度も蘇生回復するから当然でしょ。鹿島は、嬉し恥ずかしそうに顔を赤めた。

「٩(ꐦ`ω´) ずるいっ! まいも楽してはね上げたいっ! ハッ! いーこと思いついたっ!」

 先輩は、綺羅星のようにラメを散りばめたスマホを取り出して、ポンポンと軽やかにタップした。そして、したり顔で俺らに見せつけた。


❦彡Maiちゃん✮彡

大宮伸一は桜カレンにフラグされた。大宮伸一なかよしポイントブーストDLC を入手しました。

【なかよしポイントブーストDLCを購入して、ヒロインバトロワモードとビューティヒロインモードの進行を加速させよう。大宮伸一から得るなかよしポイントが、約30%増しのブーストされます】

レート 1人が良い評価を与えており、その中には❦彡Maiちゃん✮彡が含まれます

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「「……」」

「(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) これでおーみやくんは、すぐにときめきじょーたいになって、まいのカレシになりまーす。いぇい!」

「ちょっと、なんなのよコイツ⁉︎」

 あー最悪……今まで静観していたバカが、ついに凸してきやがった。

「( ´͈ ᵕ `͈ ) あなたがさくらちゃんね?」

 先輩の今の一言に違和感があった。今までずっと幼い口調だったが、年相応と言ったら変だけど、カレンに対抗するように聞こえたからだ。おまけに、ずっとニコニコしていた目がうっすらと開いているではないか。

「アンタ誰?」

 ヒエラルキーを知らなければ、理解もしない女子が不愉快に応えた。

「٩(๑ᵒ̴̶̷͈̀ ᗜ ᵒ̴̶̷͈́)و 常田まいちゃん。メインヒロインでおーみやくんのカノジョでーす」

「メインヒロインだぁあ?」(レイジメーター↑↑↑)

「残念、突っ込むとこそっち?」

 鹿島のツッコミを無視して、カレンは髪を逆立てた。“我こそ”と思っているメインヒロインに、喧嘩を売っているようなものだが、まあこんなのは自称アイドルみたいに、言ったもん勝ちだろ。

「(• ̀∀•́ ) おーみやくん、さくらちゃんとどーゆーかんけい?」

「こいつは敵っすね。なかよしポイントをご覧ください」


・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜・*:..。o♬*゜

✽.。.:*大宮伸一のなかよしポイント.。.:*✽

.。.:*・゜♡★♡゜・*:.。 。.:*・゜♡★♡゜


桜 カレン:レベル 0 【ー996ポイント】☺︎⚠☠☢☣⚡


「ファーwww なんなのこれぇえええ⁉︎」

 カレンに首根っこを掴まれガクガクされるが、どう考えても因果応報だろ。

「( ´͈ ᗨ `͈ ) '`,、 お笑いヒロインなんだぁ!」

「ちょームカつく! なんでエピソード2になると、ウザい奴ばっか出てくんの⁉︎」

「全ヒロインの中で、最もウザい奴に言われる筋合いはねーな」


Shinichi was fragged by Karen's Panzerfaust!(−999ポイント)


「残念、カンスト……。そんなことばっかりするから進展しないし、お笑いヒロインとか言われるんだよ」

「(ง `ω´)۶ さくらちゃんひどすぎる」

「勝手に“ちゃん”付けで呼ぶな!」

「(*'∀'人) だってさくらちゃんも、まいのフレンドだもーん」

「無視! すべての連絡をブロック! ユーザーの報告!」

 フラグされると、くぐもった音になるのだが、まあ大したことは言ってないので問題ない。すぐに鹿島が蘇らせてくれた。

 その時、チャイムが鳴った。次の授業開始だ。先輩が仰々しく驚く。

「Σ(๑°⌓°๑) はっ! ここ、どこ?」

「いやいや、ウチの教室ですけど?」

「(๑°⌓°๑) まい、いつの間に……」

 何も考えずについてきている……という予測通りだった。そして、先輩は泣きそうな顔になっていた。

「( ᵒ̴̶̷᷄дᵒ̴̶̷᷅ ) どうしよう、教室戻れなくなっちゃった……」

「いやいやいや、3年は階段降りたらすぐでしょ?」

「( ・᷄ὢ・᷅ ) まいちゃんJ組ぃ」

 下級生一同は驚いた。第3学年にのみ設置される通称優クラ(コマンダー)で、学業が優秀な生徒、もしくは家柄が良い生徒が所属する。そして、そのクラスは北校舎にあるのだ。

「( ;ᯅ; `) えーん。まいちゃん帰れないよぉう……はっ!」

 と、急にパッと表情が明るくなった。演技なのか知らんが、泣いたり驚いたり忙しい人だ。

「(⌯¤̴̶̷̀ω¤̴̶̷́)✧ まいちゃんチャンス!」

「マジでなんなのコイツ……?」

 カレンですら引いているが、先輩の知ったこっちゃない。

「(˶‾᷄ ⁻̫ ‾᷅˵) おーみやくん! まいをつれて帰って? そうだ、ぐるーっとおさん歩しながら行こうよっ!」

 さっと腕に絡みついていた。もう勘弁して……鹿島にヘルプを求める。

「勝手にすれば?(オートミールおじさんの笑顔)」

 既に先生が戸口で呆れており、周りの生徒もさぞ迷惑そうな顔をしていた。“さっさとそのピンクを片付けろ”と言わんばかりだ。

「⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ 行こ行こ? みなさんごきげんよー!」

「うわわわわちょっと先輩! えっ⁉︎ めちゃ力強い⁉︎」

 特殊感染者に引っ張られるようにズルズルと引っ張られる。結局、自販機でジュースを買い、学校の花壇で密着しながら、俺に関することをアレコレ聞かれた。彼女を送り届けたのはもう授業が半分すぎた頃だったが、先生は何も言わなかった。カレン同様に問題児ではなかろうかとふと頭によぎったが、考えすぎだろうか?

今回も読んでくれてありがとうございました。

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