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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
32/212

【e2m2】money, money, money!

申し訳ありません。こちらに戻しました。

 次の日、やっと部室の清掃が終わって、差し当たり在住できるレベルにはなった。どうしようもない汚れは、ブランケットで隠すつもりらしい。

 古く粗末ではあるが、自分たちの居場所ができて満足している。今鹿島は、備品の携帯用コンロでお茶を沸かしており、上機嫌に鼻歌をうたっていた。

 廃棄予定だったCDデッキから、教材のクラシックが流れている。お上は、“ここにあるものは不要物なので、適切に処分せよ”と下令した。なので、使えそうなものは使って良いと拡大解釈した。

 カレンが、すぐに私物を持ち込もうとしたので止めた。生徒指導部による、ウチを狙い撃ちにした部室検査が入ると懸念してだ。持ち物検査も行われるかもしれない。『考えすぎ!』と反発されたが、用心に越したことはない。

 頬杖をついて、シューベルトの“野ばら”を聴きながら、会長殿(カレン)を待つ。なんと学校から会用パソコンを支給してくれるらしい。設立が決まると、カレンは事務室から呼び出されて、『どの程度のスペックが必要か、参考までに仕様書かパンフレットを出せ』と言われたそうだ。

 あのバカ、何と言ったと思う?

『アタシは交渉の天才だから、AとB2つの案を提出した。明らかに通らないA案を先にゴリ押しした後、本命のB案を通す!』

 だとよ。ちなみに、前者は水冷クーラー付きグラボ2枚挿し……もうバカすぎてなにも言えん。一方後者は、曰く“慎ましい値打ち仕様”であると。最新型のハイエンドグラボ搭載……これもバカすぎ。

 にわかにドアがガンガンと鳴り出した。天才が見参したな?

「モーッ! なんで開かないのよこれぇ!!!」

 ドアの反対側から、早速甲高い声が響き渡る。

「大宮くん……」

「ああ」

 席を立ち、ドアノブに手を掛――


Shinichi got crushed!


 読者の皆さん、こんにちは。大宮くんがフラグされたので、私、鹿島が語り部を代行しています。えー状況を説明しますと、カレンちゃんがドアを蹴って、凄まじい勢いで開き、大宮くんがドアに強打されました。

「残念……優しくしないと壊れちゃうよ」

「信じらんないっ! マジ信じらんないっ! シンイチ! シンイチはどこ? 帰ったの⁉︎」

「足元をご覧ください」

「ハァ? なんでそんなことで寝てんの⁉︎」

 蘇生用注射を、彼の心臓に突き立てました。これで大宮くんは現場復活となり、リスポーンポイント(自分の机)からやってくる必要がありません。

「はい、じゃあ語り部またお願いね?」(視点が鹿島から大宮へ)

「くっそ……電気といい、ドラム缶といい、ドアといい、環境フラグてんこ盛りだな!」

「そんなことより、これ見てっ!」

 乱暴に箱を机に投げやった。これって……?

「ジャジャーン、事務室仕様のハイエンドゲーミングマシン(笑)で〜す」

 皮肉たっぷりになじった。家庭用ノートパソコン、しかも型落ち未開封品ですか。こりゃまた安く仕上げたな。

「なーにが『参考になる仕様書やパンフレットを出せ』よっ! こんな先カンブリア時代の化石寄越すなら、はなから寄越しとけっての! 嫌がらせかっ!」

 自称交渉の天才も、これじゃ面目ねぇな。詳しく話を聞くと、お金の出所が違うらしい。もし部活動費として、しかも潤沢にあるなら、それこそデーモンウェアでも何でも買えるらしい。しかし、これは通常の授業用品として計上しているので、不自然に高価だと県教委の会計監査に引っかかるとか。それにしても、申請してから来るのが早すぎじゃない?

「マインスイーパーしかできねーじゃん! 校庭でリアルマインスイーパーやったほうがマシ!」

「セットアップしないの?」

 緑茶を盆に乗せて持ってくる鹿島。カレンは既に興味がないらしく、どかっと座ったまま開けようともしない。

「任せまーす」

 すでにやる気ゼロのカレンを見て、俺たちは苦笑いをした。


 初期設定は簡単に終了。しかし、アップデートはどうしたもんかな。ネットに繋ぐ可能性は低いが、定期セキュリティ強化は看過できん。職員室の有線に繋がせてもらおう。

「どー? ゲーム動きそー?」

 スマホをいじりながら、カレンが尋ねてくる。

「初期のFPSは動くんじゃね? CDからインストールする必要があるけど」

「ハッ、トレロゲー研究会に鞍替えね」

「そっちのが現実的な」

「“学校から支給されたパソコン、ゴミ過ぎて笑える”……っと」

「おい、何やってる?」

「ツイッター」

 俺に視線も寄越さず、高速でタップし続ける彼女。

「今のすぐ消せ」

「なんで?」

「誹謗中傷だろ」

「事実じゃん。それにわかんないって」

「ユーザー名と名前の両方言ってみろ」

 カレンはバツが悪そうに眉間にシワを寄せた。

「本名使ってんだな?」

「誰が調べんのよ」

「生徒指導部だろ」

「んなキモいことするわけないじゃん?」

 問題行動を起こす生徒のSNSを追って、職員室が校外素行調査をしている……と噂がある。どこからか飲酒や喫煙、不純異性交遊がバレて、懲戒を受けたケースがそれだ。

「先生が、“なぜか”自分のことを知っている……てことは?」

「……謹慎の時、なぜか金欠とか徹夜ゲームとか知ってるのか不思議だったけど」

 二の句もつげなかった。

「ってことはーそーなの⁉︎ キモいキモ過ぎ! 不当な監視じゃん!」

「お前が勝手に晒してるのを、見ているだけなんだよなぁ」

「とりあえず、さっきの投稿は消そうね?」

「チッ……こんなんはどう? “学年主任の中村、これを見てたら――”」

「「削除ー!!!」」

 結局、“素敵なパソコンがプレゼントされまちた。嬉しいでちゅ♡ 事務室ありがとー!”と、嫌味と取られるツイートをした。まあ、これならいいだろう。

「これからよく考えないと……」

「お前炎上しそうで恐い。お、設定完了したぞ。今日はこれで終わりか?」

「まさか! 今日は重要な議題があんの!」

「へー」

「部費をどう捻出するかよ!」

 なるほどね。前も言ったが、このeスポーツ同好会は、非公式ゆえ公費の支給はない。金を締め上げれば、組織として有名無実である。学校はそれが狙いなのだ。しかし、それに屈しないのが桜カレン。つくづくたくましい女子だよな。俺なんか、仲良し茶話会でいいのに。

「まず、各員から少額を徴収する」

「少額(高額)は勘弁な?」

「何言ってんの。月500!」

「ご、ご、ご、500万⁉︎」

「バカ! 500円だって!」

「あ、そう……」

 びっくりした。こいつがそんな常識的な額を言うとは思わなんだ。

「毎月“給料日”するのかと……」

「ええ。本当なら、給与支給班に仕掛けるべきだけどぉ!」

「鹿島、お前大丈夫か?」

「うん大丈夫」

 ちょっと気がかりだった鹿島も承諾した。カレンの奴、多分鹿島に配慮したんだろうな。

「月に1500あればさ、これでも動かせるゲーム買えるでしょ? 当然セール狙うけど」

 ダウンロードはどうするつもりだ? 持ち出して家でか?

「けど、とてもそれじゃ足りないっしょ? 他に稼ぐ案がありますっ! 授業中に考えたんよ。案その1! アタシの英雄的偉業で売店ができたよね? あの店と利用客からみかじめ料を徴収するっ!」

「マフィアかな?(オートミールおじさんの笑顔)」

 鹿島が婉曲的に反対した。トレンチコートを着て、ドラムマガジン付トンプソンをぶっ放すカレンが想像できますねぇ。

「eスポーツ同好会(a.k.a. 桜ファミリー)即時解体なので却下」

「じゃ案その2! 我が同好会のトレーディングカードを流布させる。シンイチはコモン、梢ちんアンコモン、アタシはレア!」

「どこに価値があるんだよ。強制的に買わせるなら、これも即解体だぞ!」

「じゃその3! ゲーミングデバイス製作!」

 こいつバカなのか? ああ、銀河級バカでしたね。

「カレェン……ちょっと考えただけでも工g――」

「違う違う、工業製品じゃなくて、アタシたちでも作れるもの!」

「作れるものだぁ?」

「ゲーミングクッキーとか! 売店で売って大儲けじゃん!」

「頭にゲーミングってつければ、値段を釣り上げれると思ってない?」

 呆れた鹿島がチクリと刺した。

「うっ……じゃさ、ゲーミングさおり織りは?」

「どこにもゲームと関係ない件」

「ゲーミングハンカチは? これは手汗かく人には必須じゃん? 汗を吸収しやすい布地とか、ニオイも吸収とかホラ吹いておけばオッケー! そうだっ! 文化祭で売ったらいーんじゃ?」

「今年から販売なくなったぞ」

「マァジ⁉︎」

「お前寝てたろ? 年始のホームルームで言ってたからな」

「なんで?」

 県教委の高官から管理職への通達で、学校は営利活動に関与してはいけない云々の文書が来たらしい。所得税を納める義務が発生するとか何とか理屈をこね回していた。どうもある学校とその保護者が、金銭的トラブルで県まで届く由々しき問題に発展したとか。

「ほんっとつまらない事ばっかすんのね」

「けどゲーミングはともかく、さおり織りとかハンカチとかはいいかな」

「金銭が発生した時点でアウトだろ?」

「じゃ特殊な景――」

「そういう話題はやめようね?」

 結局、有力な金策は見つからず今日の活動は終了。カレンはイラついていたが、まあ怪しいお金の流れがあると職員室が察知したら、それこそ大ごとだからな。

 “この部室でまったりしながら、あのパソコンで動くゲームでもやってればよい”、俺と鹿島はそう思っていた。

今後ともよろしくお願いします。

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