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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e1m28】決してラブではない

最終パートに入りました。このくだりは自分でも強引と思います(汗)。

「桜 “❀R0cketeeR(ロケッティア)”✿カレン……」

 “名は体を表す”とはよく言ったもんだ。お前ロケットだよ。一度火がついたら、周りなんか気にせず猛スピードですっ飛んでいく。そして爆発だ。お前の場合は自爆だけど。ホワイトモンブランを食べながら、彼女のスチールアバターをじっと見ていた。

 カレンの家出は終わり、事態は一歩前進した。

「しかし釈然としねぇ。なんでだろ?」

 ゲーミングチェアにどっかり体を預けた。再確認しよう。カレンがまだeスポーツ部設立に固執するなら、もう一度丁寧に、且いかに無謀であるか説得する。それで諦めたら、この問題は解決だ。

「しかしな、アイツを諦めさせようとしても、なぜかモヤモヤする」

 むしろ俺は考えたくなかったのかもしれない。そして、気を紛らわさないと“別の選択肢”に行き着いてしまう。なので、風呂でも入って寝ることにした。

 

 月曜の朝。インターホンが鳴ると、無表情のカレンが玄関にいた。やはり元気はない。

「よう」

「オハヨー」

「今日はどこにダイナマイトを?」

「……バカじゃない?」

 冗談を無下にあしらって、さっさと外に出る彼女。すごく違和感があった。普段だったらさ、罵り合いながら、もしくは寝歩くカレンを護衛しながら、もしくは遅刻寸前でスプリントしながら登校するのに。俺の顔を見ず、ずんずん歩きながら不満を言う。

「何か喋りなさいよ」

「俺が黙ってんのは、いつものことだろ?」

「そーね」

 しばしの沈黙。

「昨日さぁ、校長と梅っぴが来て、謹慎の解除を受けた」

 休日に先生動かしたのか。学校も家庭もさぞ迷惑だったろ。

「そりゃよかった」

「アタシさ、よく考えたよ。足りねー頭で。アンタの言う通りですわ。どこにeスポーツやる金があんのよ。県の前例がないから、堅物に何言っても無駄でしょ? 家でゲームしてりゃそれで満足じゃん。なんてバカなこと言ったのかしら?」

 昨日のモヤモヤが急速に形成されていく。

「マジ言ってんの?」

「あったりまえじゃん。アタシは理性と良識の塊でしょ?」

 冗談かマジか知らんが、とにかく“アタシ大丈夫です”と言う表情が痛々しい。いや腹が立つ。

「ええーアタシが悪うござんした。もう諦めたんで大団円ね。トラブルも起きないし、アンタも頭を抱えることもない。人生で最も簡単な諦めでした」

「カレェン……この1年で最も軟弱なたわ言だぞ」

「はぁ?」

「テメーのゲーム愛はそれっぽっちかよ。いかにゲーム好きか喚き散らしたじゃねーか。俺もうウンザリして10分ぐらいに感じたぞ! おいそれと簡単に諦めんなよ!」

 知らずに声を荒げていた。

「アンタ、この1年で最も強烈なたわ言じゃん。学校でeスポーツとかどう考えても無理でしょ?」

「ああ無理だ。けどな、お前のふぬけた態度がイラつくんだよ! お前は無謀な思いつきを、全世界に大バカ者の存在を告げるかの如くやっちまうだろ? 何聞き分けよくなってんだよ! 何が理性と良識だ! 生まれてこの方、そんなもん備わったことねーだろバカ!」

「言ってくれますねぇ……」

「勘違いすんなよバカ。俺はeスポーツ部を設立したいとも思わんし、できるとも思わん。そしてテメーにラブでもねぇ!」

「アンタさぁ、自分の言ってること破綻してるってわかる?」

 地球上で絶対に指摘されないと確信していたバカにされました。本当にありがとうございます。

「いつもの前例だ前例。テメーが無謀なことを提案して、致し方なく俺が従う、その前例だバカ!」

「バカはどっちよ」

「うるせー!」

「やれるならとっくにやってますぅ! 方法はどーすんの? アンタ散々無理って言ってたじゃん」

「さぁて、それが問題だ……」

 勢いでカレンをたきつけたが、実際の行動となると俺もお手上げだった。しかし、この打開策は教室にあった。


「私、生徒指導の先生にお願いして、eスポーツ部の設立のお願いをしたの」

 なんと、鹿島が本当に“桜カレン慰めイベント”後を用意してくれていたのだ。ゲーム的なご都合主義だな。

「取りつく島もなかったんだけど、根気強く粘ったら、話は聞いてくれるって」

「どーせポーズっしょ。聞き終わった瞬間『ハイ却下、さようなら』に決まってんじゃん」

 カレンですら懐疑的だった。

「ディベートみたいに独立した審判がいるならともかく、eスポーツ否定側の教師だからな」

「じゃあやめる? ナイトメア難易度だけど、チャンスはチャンスだよ?」

 顔を傾けて、笑顔を俺らに向ける鹿島。

「……これを逃したらもう機会はないねぇ」

 渋いおっさんのような顔をして考え込むカレン。

「負けたらそれまで。万が一勝ったら設立。つまりプラスはあっても、マイナスにはならないか」

「鹿島やい、その顔からすると策があるのか?」

「策っていうほど大袈裟じゃないけど……」

 彼女は、カバンから厚い本を取り出した。高等学校学習指導要領?

「えっとぉ、先生たちの指導指針である指導要領には、“生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること”って、記述があって……ほらここ」

 さらっと空で言いながら、しおりのページを開いた。

「それが一体何だ? eスポーツと無縁ではないか」

「まあまあ。2人ともゲームは好きだよね?」

「もちろん!」

「もし部活ができたら、積極的に参加する?」

「そりゃ日暮れまでやるし!」

 鹿島は人差し指を唇に添え、上を向きながらうーんと考える。

「だったら、“生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動云々”の部分はオッケーだね。“スポーツや文化及び科学等”の部分もオッケー。だってeスポーツは競技だから。ゲームは我が国の文化の1つでもあるでしょう?」

「そしてゲームは科学抜きには語れないよね⁉︎」

「そうそう。“学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資する”は言わずもがな」

 eスポーツを指導要領に無理やりこじつけるのか? ゲームを遊びだと根っから信じていた俺には考えもつかない屁理屈だ。

「強引じゃね? “教育課程との関連が図られるよう留意すること”の部分は完全にアウトだろ?」

「教育課程って何?」

 実は小中高でも大学のような単位が決められていて、それを満たさないと進級会議や卒業認定会議にかけられる……なんでこんなこと知ってんだろうな。

「確かに私は看護科で、2人は普通科だけど、今年から情報科が新設されたよね?」

「つまり、その情報科のそれと関連を図るような活動を行うと?」

「えええ! 勉強とかヤ!」

 カレンが仰け反ってぶちまけた。

「あのね、単にゲームだけだったら、単なる遊びとしか認識されないよ? いきなり欧米並みの認識は無理だと思う」

 本業としてはeスポーツだが、表立っては教育的な活動をアピールするのか。先生たちはeスポーツのなんたるかも知らんだろうし。

「でもさ、アタシたち情報科じゃないじゃん。大丈夫なの?」

「確かに気になる。指摘されるかもしれんな」

「大丈夫じゃない?」

「なぜ?」

「先生たちが気を揉むのは、県教委や教育事務所の指摘だからね。その人たちが気にするのって、主に法規制度上や紙面上の文言で、実際部員がどこの学科にいようが気にしないと思うよ」

「つまり1教育機関として、情報科の教育課程とeスポーツとが関連していれば、条件としては満たされると?」

「まあ、実際情報科の人が入部してくれれば、それに越したことはないと思うけど」

 鹿島はもう1冊本を取り出して机に置いた。

「ちなみに、ここに文科省検定済の高等学校情報の教科書があります」

 俺はパラパラと単元内容を確認した。

「俺でもわかる項目もあるのな、意外」

「まあこれは優しめだからね」

 強引ではあるが、ゲーム機及びパソコンと情報の学習指導要領の辻褄を合わせれば、どう反論されようが教育的な活動に足り得る。それがeスポーツかと問われれば、甚だ怪しい。むしろ、パソコン部がやっている活動だろう。幸運にもウチにはそれが無いので、eスポーツも兼ねるパソコン部なのだろう。逆だ、パソコン部も兼ねるeスポーツ部か。

「どう……かな?」

「いけそうな気が、しないわけでもない」

「本当にやれるかな?」

 カレンも尋ねてきた……。が、彼女の顔にはもうどうしたいかはっきりと書いてあった。

「まあ、やってみるか……」

 俺の返事なんて必要なかったはずだが、鹿島はカレンを見て『やったね!』と言わんばかりの表情になった。カレンも自信ありげに頷いた。

今回も読んでくださってありがとうございます。ラストパートに入りましたが、概ね書いているので、それほど時間はかからないかと思います。

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