表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
27/212

【e1m27】泣きゲー(はた迷惑)

あんまりシリアスなシーンは得意でないのですが、とりあえず申し訳程度に書きました。

 次の休日、家の電話が鳴った。カレンの親父さんだった。

「昨日娘を見たかい?」

「出席とは聞きましたけど――」

 と、担任の話を洗いざらい伝えた。

「私も先生から一報もらったが、どうも落ち着かないようでね。もし何か知っていたらと思って」

「まだ帰ってないんですか?」

「うむ。そろそろ所持金も尽きる頃だろう。妻は『飢えたら、大宮君ン家襲撃するでしょ』と、全く気にしていないのだが」

 お母さんwwwwww

「ちょっと俺、探しに行きましょうか?」

「お願いしたい。私には、娘がいそうな場所はさっぱりで」


 安請負したが、一体どこを探せばいい? 近所ならまだしも、繁華街に行ってたらお手上げだぞ。しかも俺は全アイテムを消失しているので、捜索は困難だ。そこで最寄りのコンビニに寄って、マップを購入した。


!失われたアイテムを回収した!【マップ】


 Mキーを押す……わけはなく、普通に開ける。現在地はどこだろう。ベテランなのか? どこでキャデットに変えるんだよ? コンパスとGPSは売ってなかったしな。マップを見ていると、カレンの出現しそうな場所が、ポップアップする。ありがたい、これらを虱潰しに探せばいいのだろう。


【EAST DISTRICT: Game Center】

 くっそ。マップ移動は、ファストトラベルじゃないのか⁉︎ ああそうか。初回は自分の足で運んで、場所をアンロックしないといけないのか。けど俺、このゲーセンには来た事あるぞ。今はカップルやファミリーを狙って、クレーンゲームとかプリクラとかたくさんあるのな。

 昼時の今、学生やカップルが多少遊んでいる程度である。困ったことに、男子1人でプリクラゾーンに入れないから、そこにカレンがいるかわからん。けど、あいつが今それで遊んでいるとは思えない。


【EAST DISTRICT: Apeiros】

 ショッピングモールに来た。ったく、ゲーマーにはいい運動だな。早速捜索するが、今カレンが買い物をしているとは思えない。ただ、フードコートに来ている可能性がある。歩いていると、急に後ろから声がした。

「あれ? 大宮くん?」

「なんだ、鹿島か……」

「残念。攻略目標のヒロインじゃなくてごめんなさい」

 自虐的に笑わないでください。

「で? どなたがお望みですか? メグちゃん? 小早川さん? のぞみちゃん? それともまい先輩?」

 ギャルゲーの悪友みたいな台詞を、ヒロインのお前が言うな。そして、未出現ヒロインの名前を出すな。

「バカレン」

「やったね。eスポーツ部設立に向けて動き出したのかな?」

「勘違いすんな。まだ帰ってないから探しているだけだ」

「え? ちょっと深刻じゃない?」

「なぁお前暇か?」

「まあ買い物は終わったけど……」

「じゃ、お前もカレンを探してくれない? 2人で探したら見つかるかもしれん」

 彼女は、斜め上を向いて、人差し指を口に当てて考えた。

「やっぱ予定とかあるのか……?」

「ううん。暇だよ」

「じゃ――」

「暇だけど、私が探すのは無駄かなって」

「?」

「いやね。物語の進行上、主人公を差し置いて、ヒロインの私が同じくヒロインのカレンちゃんを発見して、イベントを進めるのはあり得ないからね」

「またわけのわからんこと言ってるし……」

「けど大丈夫!」

 屈託の無い笑顔の立ち絵が表示された。まんまギャルゲーみたいな演出すんな。

「きっとカレンちゃんは見つかるので安心してね」

「人ごとだと思って、テキトーに言ってね?」

「まさか! カレンちゃんだよ? おざなりにするわけないよ」

 そりゃそうだ。けど、主人公ガーヒロインガーのくだりは胡散臭え。

「じゃ一緒にいてくれよ。俺さ、仮に見つけたとして、なんて言葉かければいいのかわからん……」

「うふふ、大宮くんも弱気だね!」

 クスクスと笑った。地味な白のブラウスと紺のスカートを履いているせいか、大人っぽく見える。制服はモディファイしていないので、幼く見えるんだよな。

「ごめんごめん。自分の素直な気持ちを伝えればいいと思うよ」

「“お前は銀河級バカだ”」

「外で煽るのはやめようね?」

 だな。周りに大迷惑になる。

「安心して。“桜カレン慰め”の後に、ちゃんとイベント準備してあるから」

「ゲームじゃないんだけど」

「人生はセーブとロードがないゲームだよ? まあ……私はうっかりロードしちゃったけど」

「何を言ってるのかやっぱりわからん」

「まあまあ、私とのイベントは終了! じゃ次の場所に行ってねっ!」

 と背中を押され、無理やりこの場所から追い出されてしまった。


【EAST DISTRICT: The Shrine】

 近所の神社に来た。境内に入ったが、しょうぶ池の付近にはいない。小さな女の子を連れたお母さんが、散歩をしているだけだ。楼門を潜って、本殿を覗いて見たが、ここにもいない。

「やっぱ奴が来るような場所じゃねーよ」

 昼前から無駄に歩き回ってもう疲れた。もう足が棒になりそうだ。明日筋肉痛不可避だな。帰ろ……。親父さんに申し訳ないが、努力はした。そして見つからなかった。

「そもそも、アイツ見つけても気まずいし。このまま会わない方が楽だ。鹿島には悪いけど……」

 本殿から降りてから、ふと思い出した。そういえば、車祓所からちょっと左に曲ったところに鶴の池があった。昔、青ザリガニを釣り上げて、大喜びしたんだ。せっかく来たので寄って行こう、と魔が差したのが間違いだった。

「あーあ。見つけてしまった……」

 カレンは制服のままだった。池の中心に架かる小橋に立っていた。

「ゲームしてぇ……」

 このかすれた声は、禁断症状ですね?

「じゃ帰れ」

「ヤだ」

 彼女は、濁った池を泳ぐ小亀を見ながら拒否した。単に石の柱を渡しただけの橋で、うなだれるように立っているカレンは、はたから見ると思い詰めているように見える。しかし、ここから飛び降りても、ヘルス1すら減らないだろう。すねから下が濡れる程度だ。

「お前、どこに泊まってんの? メシ食ってんの?」

「アンタ誰の差し金? 梅っぴ? それともパパりん?」

 やっとこちらを見る。目の下にくまがはっきりとあり、明らかにやつれていた。

「質問に答えろ。どこに泊まっている? メシは食ってんのか?」

 こいつと質疑応答がうまくいかないのは日常茶飯事だが、今ばかりはもう一度問い詰めた。

「近くのネカフェ。あんま食べてない。わかんでしょそんなこと」

 ネットカフェは近辺にいくつかあるが、これで所在はわかったと言えるだろう。しかし男子顔負けの大食らいが“あんま”とはいただけない。やつれて見えるのも当然だ。

「答えたからさっさと帰って」

 吐き捨てられるように言われたが、ここで黙って引き下がるわけにはいかない。

「お前さぁ……」

 “銀河級”という言葉は切り落として――

「バカだろ?」

「あ〜ん?」

「親父さんから聞いたぞ」

 カレンは困惑したと言うか、気恥ずかしさと言うか、とにかく複雑な表情を見せた。

「どーしてあんなトンチンカンなこと書いて出すかね……」

「ちょっ!!! 日誌見たの⁉︎ アンタキモすぎ!」

 急にボリュームが大きくなった。見る見る内に、頬が紅潮する。

「普通はさぁ、“ごめんなさい、もうしません”と書くんだけどねぇ」

 今振り返っても頭を抱える内容だ。俺も同罪に値するとか、普段通りとか、そして何よりムカつくのが……!


 俺 が カ レ ン に ラ ブ と か っ!


 これほど真実をねじ曲げられたのは初めてだ。しかも校長以下に知らせてるし。まあ、今はそこが問題ではない。

「今だって、懲戒に値することをしたとは思ってないし」

「だとしても! 日誌には迎合して書けと言ってるんだ!」

「M教師に媚びへつらうなら、“氏ね”と書いた方がマシ!」

 冗談に聞こえるか? これ本気なんだぜ……。

「で? お上は最後のくだりが、いたく気に食わなかったらしいな?」

 ため息をついて言った。eスポーツ部の所だ。

「あれは都合が良かったから! 呼び出される前に思いついたじゃん? そのあと謹慎くらって……ちょうど日誌の最後に“今後の目標”ってあったから書いたの! なんであんなに反発するかワケわかんない。ちゃんとお勤めを果たしたんだから、今度はあっちが要求飲む番でしょ!」

「カレェン……」

 俺が予想した通りで笑えるんだが、コイツは空気読めなさすぎて笑えない。

「いくら説明させてとお願いしても、それを遮って説教なんだよ! もうあったまにきて、考えがグチャグチャになって、何1つ言葉が出てこなくなって……」

 そしてあの速射砲か。カレンは今も鮮明に覚えているのか、ツリ目から涙が湧き出ている。

「信じらンないよっ! 弁を弄して! わけわっかんない雑音垂れ流しやがって! 何が『県民の理解を得られない』よっ! 何が『税金の用途としては疑問視される』よっ! 全然eスポーツのことわかってないし!」

 教育公務員サマお得意の、理路整然とした事務的説得にやられたのだ。カレンはソーシャルスキルポイントを上げていないので、そんな舌戦に対抗できるわけがない。

「お前さぁ……ちっとは理性的になれ」

「何よ! アンタのその理性的って、“諦めろ”とか“黙って無能どもに従え”ってことでしょ?」

「違う。確かに世界では、eスポーツの認知が高まって、オリンピックでも採用が検討されているとか噂されている。けど日本ではどうだ? 世間から色眼鏡で見られ、誤解と偏見を持たれている。今だにオタクだ、ゲーム脳だ、殺人への引き金だなんだ、諸悪の根源と罵られ、不毛な扱いを受け続けている。よく見積もって、子どもの余暇だろ?」

「だぁかぁらぁ! アタシはその認識を変えたいの!」

「最も保守的で堅苦しい組織でか? しかも蛇蝎(だかつ)の如く嫌われているお前が? 正気の沙汰じゃないぞ」

「ムカつく! シンイチちょームカつく! どーしてそんな他人事なのよ⁉︎ アンタもゲーム好きでしょ⁉︎」

 今まで悲壮にくれていた顔は、俺に対する怒りに色変わりしていた。涙はなみなみと溢れ、今にもこぼれ落ちそうだった。

「ああ。俺もゲーム好きだし、正直海外や首都圏の事情は羨ましい」

「だったr――」

「けど俺は現状を理解しているし、変えようとも思わん。そんな力や気力すらないからな。ただ遊ぶので十分だ。もしeスポーツを啓発したいなら、大学生になってからやれ」

「やだ!!!」

 急に胸ぐらを掴まれた。怒りに釣り上がる瞳が間近にくる。

「アタシゲームが好きなの! チョー好きなの! 毎日毎日家帰ってから日の出まで寝食を忘れて対戦すんのっ! 頭痛で脳味噌が斜めに引っ張られてもFPSやめらんないのっ! 生ガキに当たってゲロ吐いてもやっちゃうの! 夢の中までグラントが雄叫びを上げて追いかけてくんの! ストレイフ・バニホで高揚してハイスピードと一撃必殺の緊張感がたまんないの! 理不尽なマップ、シビアな敵配置、致命的なバグ、バカみたいに長いやり直しだって構うもんか! ロシアのB級ゲーをフルプライスで買うんだって躊躇しないんだからぁ!」

 思いの丈を、バケツ一杯ぶっかけられた。唾気も無遠慮にぶっかけられた。

「死ぬ程高いグラボだって……だってぇえ…………うわああああああああ!!!」

 とうとう感情に溺れ、堰を切ったように泣き始めた。漫画やアニメとかで、女の子が涙を流すいじらしいシーンがあるよな。コイツは、まあご覧のように、絶叫という有り様だ。周りを憚らずに大泣きするのは、子どもぐらいかと思っていたが。

 あまりにもギャン泣きが酷いので、宮司さんがやってきた。カレンは、俺の胸元に顔を埋めて泣きじゃくっていて、俺はどうしようもない顔をしていたはずだ。すぐに目配せして、『ご迷惑をおかけして申し訳ないです』と手を挙げた。その意図が通じたのが、彼はどこかに行ってしまった。

「チーン!」

 あのさぁ、俺のシャツをティッシュと勘違いすんな。しかもきれいに拭き取りやがって。

「なあ、休憩所に行かね?」

 コクリと頷く彼女。肩を引き離すと、それはそれは酷い顔だった。化粧をしていないのが幸いだ。

「シンイチ、汚い」

 ええ貴女のお陰でね。


 楼閣を再度潜って、休憩所に来た。誰もいなかった。畳の長椅子に奴を座らせると、売店に向かった。久しぶりに来たんだが、ここも昔から全く変わらないな。

「甘酒2つと、このせんべいを」

 おばちゃんは、俺らを見交わして意味ありげな笑顔を見せた。そんなもんじゃねーんだけどな。

「熱いぞ。アイテムみたいに一気に消費すんなよ?」

 ブスッと泣き疲れた表情で、紙コップを受け取った。

「おいしい……」

「そらよかった」

 カレンの隣に腰掛けた俺は、所在無さげに外を見た。平穏そのものだ。さっきの小さな女の子がまだいて、鳩に餌をやり始めた。あーあ泣いちゃうぞ、あの子。

 目ざとい鳩は、境内のあちこちから徐々にその数を増してくる。そして女の子が餌を撒く量が少ないので、気が立っているのから手、腕、肩や頭にのし掛かり始める。最後に女の子はパニックで泣き出して、ヒッ◯コック映画となる。

「あのさ……」

 ぼんやりとしているカレンが、低い声で切り出した。

「ネカフェのマウスの調子が悪かったんよ。もうぶん投げたくなるぐらい。その内に寝落ちして、夢見てさぁ……」

 上目遣いにちょっと顔を上げてちらりと見た。

「アンタさ、初めてゲーミングマウス買った時覚えてる? 昔アタシのことウザがってたでしょ?」

 今も十分ウザい。

「チョー嬉しかったんよ。自分専用のマウス買って、フラグ荒稼ぎして、相手はパソコンの前で顔真っ赤にしてると思うとさ、『アタシFPSの神!』って叫んで。そんな感じの夢」

 真面目に語っているが、内容はキッズ丸出しである。

「アンタさぁ、ゲームに対する情熱ってどーよ?」

 急に振られた。なんなんだよ、いきなり?

「さぁ……」

「アタシは、昔から今までちっとも変わんない」

 それは日頃を見てればよくわかる。

「前、梢ちんが『部活とか入らないの?』って言ってたじゃん? 次の日に『アタシはゲームだ! ゲームなんだ!』って思いついちゃって。eスポーツ部なんて例、あんまないからね。それが『何かデカいことをやりたい』に直結して……『アンタと梢ちんがいれば、なんとかなるんじゃね?』って思って」

 俺は……なんて返せばいいのかわからなかった。言ってることはバカだし、やりたいことは無謀極まりないが、少なくともカレンの熱い想いは伝わった。

「ねえ、それ」

「あ? ああすまん」

 たわ言に丸め込まれそうで、手元のせんべいを忘れていたよ。封を破って、訶志比(かしい)御神木と焼印が押された2枚の内1枚を渡した。2人して黙ってバリバリ食べる。ほどよい固さで、ほのかに甘い。ピーナッツがまぶしてあるので、少しだけ香りを楽しめる。洋菓子の派手さは全くないが、子どもからご年配の方まで飽きがこない。久しぶりに食べたよ、なつかしいな……。

「バアちゃん家のお菓子……」

 当たり前の感想をポツリと漏らし、ちょっと吹き出してしまった。

「もうないの?」

「ない」

「買って」

 真顔で言うので引いた。この場に及んでもなお顎で人を使いますか。さすがっス。

「しょうがねぇな」

 腰を上げてもう一度ペアのせんべいを買った。そして今度は全部くれてやる。

「んで? これからどーすんだ? ネカフェ戻るんか?」

「もうお金ヤバイ……」

 なるほど、だからあんな所にいたのか。せんべいに食らいつくのももっともだ。市民を襲わなかったことは褒めてやろう。

「じゃあ帰れ。家族が本気で心配してる」

「ヤダ。合わせる顔ない」

「じゃあ俺が話つけてやる。頼むからスマホよこせ」

 苦々しい顔をしていたが、とうとう渡してくれた。すぐに電話をかけて、迎えに来てもらうように取り計らった。親父さんはすっ飛んできた。カレンは気まずいのか、目を合わせようとはしなかったけど。彼は俺に深々と頭を下げた。

 カレンが回収されるのを見届け、ひとまず安心した。しかし、あいつが諦めない限り、eスポーツの問題は何も解決されないんだよな。さて、どうするかな……。

今回も読んでくれてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ