【e1m26】モブキャラかヒーローか
ここから大宮の気持ちをどう持って行くのかちょっとあやふやなので、もう一回見直します。
翌日、朝のホームルームでも“特等席”は空いたままだった。担任の話は、全く頭に入ってこない。昨日は家に帰ったのか? メシは食ったか? つか、今学校にいるのか? 色んな考えがごっちゃになっている。あ、出欠は先生に聞けばいいじゃん。
「大宮!」
ちょうどいい時に呼ばれた。すぐに教卓に向かう。
「お前の家はどうしたらいい?」
「え? 何のことです?」
「家庭訪問のことだが……」
「そ、そうでしたね、すいません。去年と同じで。叔母の辻さん家で」
「そうか」
簡単に教えてくれるかはともかく、少し間を置いてから、カレンの事を口に出した。
「先生……今日アイツは来てます?」
「出席はしている」
「そりゃよかった」
「お前と鹿島は、密会を重ねていたらしいな」
先生は露骨に眉根を寄せていた。まあバレてますよね。隠すつもりもなかったけど。
「生徒指導が目をつけているぞ。これ以上、桜の問題に首を突っ込むな」
「マジっすか……」
「それに、今日から桜の休み時間が変わる。随時職員も付くようになった。謹慎の意義を考えろ」
そう言い残すと、先生は去っていった。いつの間にか、後ろに人の気がした。振り返ると、鹿島だった。今のやりとりは聞いていただろう。
「カレンちゃん、ずっと見張られるの?」
「延長は軽いと思ったが、四六時中監視が付くんじゃ、相当息苦しいだろう」
それはカーレン・自由人にとって耐え難い。逃げ場がないからな。停学の方がマシだった。
「あのさ、あの事件の原因わかったぞ」
家出を含め、簡単に事の顛末を話した。彼女は残念とため息をついた。
「もうeスポーツは諦めたのかと……」
「常識人ならそうするが、他ならぬカレンだからな。早々に引っ込めるわけねーだろ?」
「そうだね……」
はぁ、と悩ましげにもう一度ため息をつく。
「で? これからどうするの?」
「?」
「カレンちゃんが何かやりたいとき、いつも大宮くんが助けていたよね?」
もう答えは決まっているでしょ、という顔で俺に語りかける。
「そりゃ、“理不尽に脅されて”とか“フラグされて”だろ?」
「うん。けど助けたよね?」
「お前まさか……今度もカレンの手助けしろと?」
「うんっ」
「正気か⁉︎ そもそも俺はeスポーツ部を設立できると思わんし、したいとも思わん。相手は学校だぞ? 俺じゃない。カレンお得意の脅しや暴力でどうこうならねーだろ?」
「だったら、なおさら主人公の出番じゃない?」
「いい加減にしろ……」
冗談でさえ“主人公”扱いはうっとおしいのに、マジで言われると怒りすら湧いてくる。
「ううん。今カレンちゃんに必要なのは、大宮くんの支えだからね」
「勝手に妄想すんな。奴はこうなって当然だし、俺は清々している」
「と言ってるけど、実はカレンちゃんが心配で心配でしょうがないんじゃない? 俺の生活がやけに退屈になったーって思ってない?」
「……」
「でしょ? 私だってそう。大宮くんと同じ」
「知るか!」
「私もお手伝いするからさ、一緒に設立目指してがんばろ?」
「だぁかぁらぁ知らん! お前1人でやれ!」
鹿島から離れ、席に戻った。好き勝手言ってくれちゃって。何が『主人公の出番』だ、『一緒に設立目指してがんばろ』だ。校内公認でゲームさせろとか、どう考えても無理だろ? そう思いつつ、生徒手帳の部活動規定のページを開いた。
『第1条 本校の教育目標を達成するために部活動を実施し、その振興をはかる(以下略)』
はいeスポーツ終了。教育とは縁もゆかりもございません。
『第3条第4項 部設立の希望がある場合は、指導を引き受けた教師より、生徒指導部に申請する。生徒指導部(部顧問会)においては申請を受けて、本校の部として適当か否かを検討する』
へー部活動って生徒指導部管轄なんだ。で? 常々カレンが喧嘩売っている分掌部はどこだっけ? 鹿島よ、先生らを納得させるのはナイトメア難易度だぞ。お前がカレンに同情して、安請合いしているなら、とんだ間違いだ。
学生のゲームってのは、家でひっそりとやってりゃいーんだ。先進的な考えと莫大な資金をもつ欧米や首都圏とは違うんだよ。
今回も読んでくださってありがとうございました。