【e1m25】バカすぎる
評価してくれた方、本当にありがとうございます。励みになります。
今回はカレンが飛び出して言った(しょーもない理由)が明らかになります。
カレンの新たな処分を記す紙を見ながら、鹿島は絶句していた。
「真性のバカめ」
M教師という、最も屈辱的な蔑称を、最も放ってはいけない校長以下にぶちかましやがった。問題行動リスト5の“対教師暴言”を十分構成し得て、下手したら校長裁量で、その場で停学が申し渡されたかもしれないぞ。
しかし先生らは、2日しか延長しなかった。温情か? 待てよ。停学は指導要録に残る、すなわち県教委へ文書が上がる、つまり自らの指導力不足と認識されるので、あくまで内部処理で事を収めたいのか?
「やめやめ。あれこれ考えるのは無駄だ」
「大宮くん……」
何かできないかと目で訴える鹿島を残して、席に戻った。確実なのは、あの件は一層カレンを激怒させて、いつもの調子に戻るには結構な時間を要するだろう。まあ俺にできることは……遠くから見守るだけだよな。
その日の帰路、カレンの暴言と飛び出して行く光景を繰り返し再生していた。
「カレェン……」
その度、何度奴の名を嘆いたことか。電線で雉鳩が悲しげに鳴いていた。
「はっ……こんなことになるなんてよ」
❀R0keteeR✿はオフラインです。【最後のオンライン:2日前】
現実逃避しているかと思ったが、そうでもなかった。こいつぁ酷いぞ。ずっとゲームしていないなんて、睡眠か死去以外あり得ないだろ?
「……」
クッソ、俺ずっとあのバカのことばかり考えているじゃん⁉︎ 思い出せ! 今まであいつは何度もやらかしていたではないか。その度に、何事もなかったかのように接していればよかった。けどな、今回はそんなレベルじゃない。俺、こんな時どう対応すりゃいーんだ? 引っ込み思案のモブキャラは、その反対の女子にどう気がけてやればいいのだ?
気持ちに整理がつかないが、電話をかけようかと考えたが……。
「全アイテム消失してたわ……」
そう、スマホは唐揚げパンウォーフェアの時消滅したのだ。ネット通話アプリを立ち上げたが、やはりオフライン。メールは既読スルーされるのがオチだろう。
「そもそもさぁ……」
延長は100%カレンの落ち度だぞ。唐揚げパンウォーフェアは……そうだな、日頃の不満が爆破して皆の代表者となった、と考えるならまだ納得できないわけではない。ゲット&ランも、体育館が既に綺麗だったから遊んだと言えばまだ理屈は通る。しかし今日の態度は擁護のしようがない。ちくしょう、俺も一緒に謹慎を食らうべきだった。そうすりゃこんなに悩まずに済んだのに。
「いや、そうなっていたら……?」
『っしゃ! 今から脱出計画を実行よんっ!』
とお馬鹿イベントになっていただろう。反省なんかもっての他だ。カレンを本当に懲らしめるには、孤独にさせること……職員室はそれを知っていたのかもしれない。
チャイムが鳴った。まさかカレンが来たのかと、駆け足で玄関に向かっていた。インターフォンすら確認しなかった。
「こんばんは」
カレンではなかったが、親父さんだった。軽く会釈する。
「あ、ども」
「娘がお邪魔していないかな?」
「いえ……」
「う〜む」
彼は口をへの字にした。と言うことは?
「カレンさんに何か?」
「うむ。昨日家族会議を開いた後、家からいなくなってね……」
うわ重症じゃん。ちょっとプライベートに踏み込んでしまうが、俺は単刀直入に聞いた。
「俺、あの時迎えに行ってあそこにいたんですけど……なんで飛び出したんですかね?」
親父さんはちょっと赤面して、カバンから紙を差し出した。
「?」
表題に、“(反省後)2年F組 桜カレン”とあるので、奴の反省日誌だ。最終日に記入したのだろう。そういえば、こんなの書かないといけないとブーブー言ってたな。
『今回のことで、どんなことを考えましたか』
なんでアタシだけ処分を受けたのかと考えた。シンイチも謹慎じゃん? おかしいでしょ無罪って! てか、アイツまめに会いに来てくれた。絶対アタシに❤︎LOVE❤︎じゃん。全然好みじゃないし、正直キモいしウザすぎ。
『これからは、どんなことに注意して生活していきますか』
いつも通り。
『これからの目標を3つ書きなさい』
1つで十分。アタシとシンイチと梢ちんで、eスポーツ部を設立して全国制覇する。プロゲーマーになって、チョー有名になってゲームで生活する』
「……大変失礼を承知で言いますが、娘さんは銀河級バカです」
「……」
2人して頭を抱えてしまった。アイツこれを提出したのか? 学校側が激怒するとわからんのか? どんだけズレてんだって話だよ。ちっとは外飾しろよ!
「特に、その最後のeスポーツで揉めてね……」
「なるほど。『アタシは3日のお務めを果たしたから、次はアンタらが設立の認可を出せ!』と、さも交換条件のように訴えたんでしょ?」
「流石、娘のことをわかっているね」
「なんか……すいません」
「ん? なぜ謝るのかい?」
「いえ、カレンさんをゲーマーにしたのは……その、僕ですから」
親父さんは声を上げて笑った。
「昔から娘は、思い立つと即行動しないと気が済まない性分でね。よく考えもしないで……。外で遊ぶと生傷が絶えなかったよ。男の子と喧嘩して泣かせたこともあった。だから、ちょっとは大人しく、室内で遊ぶ趣味を持たせたかったんだが……」
すごく目に浮かぶよ、その姿。
「とにかく、ここに来たら帰るように言付けてくれないかい?」
「探しましょうか?」
「いや、周りにコンビニやネットカフェがあるので、サバイバル物のように飢えや渇きや睡眠メーターに気を揉むこともないだろう。襲われても娘なら返り討ちにする。待てよ……お金に困ったら善良なシビリアンを……」
それはない……と願いたい。
「ともかく失礼。今後も娘をよろしくお願いします」
親父さんは、丁寧に頭を下げて去って行った。カレンやい、どこにいるのか知らねーけど、さっさと帰れ。背広姿の悲しげな親父さんを見送りながらそう願った。
今回も読んでくださってありがとうございました。また頑張ります。