表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
25/212

【e1m25】バカすぎる

評価してくれた方、本当にありがとうございます。励みになります。

今回はカレンが飛び出して言った(しょーもない理由)が明らかになります。

 カレンの新たな処分を記す紙を見ながら、鹿島は絶句していた。

「真性のバカめ」

 M教師という、最も屈辱的な蔑称を、最も放ってはいけない校長以下にぶちかましやがった。問題行動リスト5の“対教師暴言”を十分構成し得て、下手したら校長裁量で、その場で停学が申し渡されたかもしれないぞ。

 しかし先生らは、2日しか延長しなかった。温情か? 待てよ。停学は指導要録に残る、すなわち県教委へ文書が上がる、つまり自らの指導力不足と認識されるので、あくまで内部処理で事を収めたいのか?

「やめやめ。あれこれ考えるのは無駄だ」

「大宮くん……」

 何かできないかと目で訴える鹿島を残して、席に戻った。確実なのは、あの件は一層カレンを激怒させて、いつもの調子に戻るには結構な時間を要するだろう。まあ俺にできることは……遠くから見守るだけだよな。

 その日の帰路、カレンの暴言と飛び出して行く光景を繰り返し再生していた。

「カレェン……」

 その度、何度奴の名を嘆いたことか。電線で雉鳩が悲しげに鳴いていた。

「はっ……こんなことになるなんてよ」 


❀R0keteeR✿はオフラインです。【最後のオンライン:2日前】


 現実逃避しているかと思ったが、そうでもなかった。こいつぁ酷いぞ。ずっとゲームしていないなんて、睡眠か死去以外あり得ないだろ?

「……」

 クッソ、俺ずっとあのバカのことばかり考えているじゃん⁉︎ 思い出せ! 今まであいつは何度もやらかしていたではないか。その度に、何事もなかったかのように接していればよかった。けどな、今回はそんなレベルじゃない。俺、こんな時どう対応すりゃいーんだ? 引っ込み思案のモブキャラは、その反対の女子にどう気がけてやればいいのだ?

 気持ちに整理がつかないが、電話をかけようかと考えたが……。

「全アイテム消失してたわ……」

 そう、スマホは唐揚げパンウォーフェアの時消滅したのだ。ネット通話アプリを立ち上げたが、やはりオフライン。メールは既読スルーされるのがオチだろう。

「そもそもさぁ……」

 延長は100%カレンの落ち度だぞ。唐揚げパンウォーフェアは……そうだな、日頃の不満が爆破して皆の代表者となった、と考えるならまだ納得できないわけではない。ゲット&ランも、体育館が既に綺麗だったから遊んだと言えばまだ理屈は通る。しかし今日の態度は擁護のしようがない。ちくしょう、俺も一緒に謹慎を食らうべきだった。そうすりゃこんなに悩まずに済んだのに。

「いや、そうなっていたら……?」

『っしゃ! 今から脱出計画を実行よんっ!』

 とお馬鹿イベントになっていただろう。反省なんかもっての他だ。カレンを本当に懲らしめるには、孤独にさせること……職員室はそれを知っていたのかもしれない。


 チャイムが鳴った。まさかカレンが来たのかと、駆け足で玄関に向かっていた。インターフォンすら確認しなかった。

「こんばんは」

 カレンではなかったが、親父さんだった。軽く会釈する。

「あ、ども」

「娘がお邪魔していないかな?」

「いえ……」

「う〜む」

 彼は口をへの字にした。と言うことは?

「カレンさんに何か?」

「うむ。昨日家族会議を開いた後、家からいなくなってね……」

 うわ重症じゃん。ちょっとプライベートに踏み込んでしまうが、俺は単刀直入に聞いた。

「俺、あの時迎えに行ってあそこにいたんですけど……なんで飛び出したんですかね?」

 親父さんはちょっと赤面して、カバンから紙を差し出した。

「?」

 表題に、“(反省後)2年F組 桜カレン”とあるので、奴の反省日誌だ。最終日に記入したのだろう。そういえば、こんなの書かないといけないとブーブー言ってたな。


『今回のことで、どんなことを考えましたか』

 なんでアタシだけ処分を受けたのかと考えた。シンイチも謹慎じゃん? おかしいでしょ無罪って! てか、アイツまめに会いに来てくれた。絶対アタシに❤︎LOVE❤︎じゃん。全然好みじゃないし、正直キモいしウザすぎ。


『これからは、どんなことに注意して生活していきますか』

 いつも通り。

 

『これからの目標を3つ書きなさい』

 1つで十分。アタシとシンイチと梢ちんで、eスポーツ部を設立して全国制覇する。プロゲーマーになって、チョー有名になってゲームで生活する』


「……大変失礼を承知で言いますが、娘さんは銀河級(ギャラクティック)バカです」

「……」

 2人して頭を抱えてしまった。アイツこれを提出したのか? 学校側が激怒するとわからんのか? どんだけズレてんだって話だよ。ちっとは外飾(がいしょく)しろよ!

「特に、その最後のeスポーツで揉めてね……」

「なるほど。『アタシは3日のお務めを果たしたから、次はアンタらが設立の認可を出せ!』と、さも交換条件のように訴えたんでしょ?」

「流石、娘のことをわかっているね」

「なんか……すいません」

「ん? なぜ謝るのかい?」

「いえ、カレンさんをゲーマーにしたのは……その、僕ですから」

 親父さんは声を上げて笑った。

「昔から娘は、思い立つと即行動しないと気が済まない性分でね。よく考えもしないで……。外で遊ぶと生傷が絶えなかったよ。男の子と喧嘩して泣かせたこともあった。だから、ちょっとは大人しく、室内で遊ぶ趣味を持たせたかったんだが……」

 すごく目に浮かぶよ、その姿。

「とにかく、ここに来たら帰るように言付けてくれないかい?」

「探しましょうか?」

「いや、周りにコンビニやネットカフェがあるので、サバイバル物のように飢えや渇きや睡眠メーターに気を揉むこともないだろう。襲われても娘なら返り討ちにする。待てよ……お金に困ったら善良なシビリアンを……」

 それはない……と願いたい。

「ともかく失礼。今後も娘をよろしくお願いします」

 親父さんは、丁寧に頭を下げて去って行った。カレンやい、どこにいるのか知らねーけど、さっさと帰れ。背広姿の悲しげな親父さんを見送りながらそう願った。

今回も読んでくださってありがとうございました。また頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ