【e1m24】希望通り
長く空いたぶん連日で投稿します。
カレンの謹慎から3日過ぎた。次の授業が終わると、奴は保護者同伴で解除を申し受ける。決して認めたくはないし、口が裂けても言えんが、どうやら俺はこの時を待ち望んでいたのかもしれない。この3日間は、何の刺激もない単調な生活だった。まさに“帰宅部で、家帰ったらゲームやって寝る”の繰り返し。なんら面白いことは無かった。
そんな時、お務めを果たした奴を迎えに行こうと、鹿島が提案してきた。二つ返事で了承する。
「やっぱりカレンちゃんがいないと、火が消えたように静かだったね」
「今日でこの平穏な日々は終わるのか。名残惜しいよ」
「本当にそう思う?」
タレ目ながら、本音を突いた眼差しで見透かしてくる。この間、鹿島とのイベントすら起こらなかった。冷やかしでも何でもなく、心底残念そうに漏らす。
「大宮くん、モブキャラみたいだったよ」
「願ったり叶ったりだね」
「ねぇ。この3日間、私と何回お話したと思う?」
「いつも通りだろ?」
「4回」
彼女は、寂しげに笑った。
「マジ?」
「うん。『午前午後分けてカレンに会え』、『カレンの調子どうだった?』、『バターロール全然減らん』、『古文の宿題どこだっけ?』。これだけかな?」
「よく覚えているのな」
「カレンちゃんいないと、こんな感じかぁって」
しみじみと漏らす。つまり、カレンは鎹ってか。そもそもフラグされなければ、蘇生される必要もない。加えて俺の性分として、用がない限り話しかけないからな。勿論、鹿島とは懇意にしている。だが、馴れ馴れし過ぎるのは嫌だろうし、適度な距離を持つようにしている。
次の休み時間、俺と鹿島は校長室に向かっていた。
「なんなのよもぉおおおお!!!」
ギョッとして顔を見合わせる。彼女のおっとりした目は、かつてないほど見開いていた。声の主は聞き間違えようがない。しかし、なぜ金切り声を張り上げている?
「あんたら完っ全M教師じゃん! お金とか県民とか、わっけわかんねぇ! 結局昇進に響くからもっともらしい言い訳作ってんでしょ⁉︎ 人が書いたのバカにしてぇ! マジで無能公務員じゃん! 信っじらんない!!!!」
暴言の速射砲が停止すると、ドアが力一杯に開いた。カレンが、それこそロケット弾のように飛び出した。同じ方向に走り去ったので、その表情は見えなかった。親父さんも続いて飛び出ていく。状況はわからんが最悪だ。この3日間しおらしくしていたのに、何があそこまで激怒させた?
「なんなんだ……?」
「大宮くん……」
鹿島がたじろいで訴えてきたが、俺はかぶりを振った。ごめん、やっぱ俺にできることはないよ。先生方もぞろぞろと出てくる。担任もいた。頼りにならんと思ったのか、鹿島は意を決して背広集団に向かった。
「あのっ!」
「……教室に戻りなさい」
梅本先生はつれなく返した。これからカレンのケース会議という顔だった。
最近はプライバシー保護があるので、生徒の問題行動を他の生徒に詳細に知らせない。それが飛び火したり、いじめの原因になったりするからだ。先のカレンの謹慎も一枚紙で知らされた。その後のホームルームでも、“食欲に身を委ねた乱痴気騒ぎをするな”という直接的な諌めではなく、“高校生らしい行動を今一度省みるように”と、婉曲的なものだった。
『県立東高等学校 校長 長幹事(校長印)
以下の生徒の謹慎期間を延長する。
2年F組 桜カレン【校内謹慎・延長2日】』
果たして、カレンの謹慎解除イベントは、どんでん返しとなった。当初の希望通り、俺の安息日は延長された。
今回も読んでくださってありがとうございます。