【e1m23】自動回復
今日は短いですが、更新できました。
移動教室から戻る時、“なぜか”遠回りをした。北校舎1階廊下を、牛の如くゆっくり歩いていると、不登校生徒用のカウンセリング室から、“偶然”カレンが出てきた。
はねっ返りから元気を差っ引いて、むすっとしており、トレードマークのツリ目に力がない。栗色のボブヘアに手入れをしていないのか、寝癖がある。普段はジャンジャカ歩くのに、今はうなだれている。そして、近くに俺がいるのも気がつかないとは。
「よう」
少しビクッとした後、やっと認識した。
「……おっす」
目をそらし、バツが悪そうな顔をする。
「何? わざわざ会いに来たん? ダメじゃん」
「自惚れんなバーカ。“たまたま”歩いてたら、“偶然”お前が出てきたんだろ?」
副詞を不自然に強調してやった。
「ハッ!」
「反省部屋そこか? プリントやらされてんだろ?」
「え〜もうお勉強が捗って困っちゃうワ。あのさぁ、アタシ反省日誌を毎日書いて、梅っぴに提出だって。1時間毎の活動内容と5行の反省も! パパりんの記入欄まであんのよ。マジ信じらんない……」
苦笑いを禁じ得なかった。既に自動回復してるじゃん。つか反省してねーわコイツ。
「最終日にはさぁ、『今回のことで、どんなことを考えましたか』、『これからは、どんなことに注意して生活していきますか』、あと何だっけ? あー『これからの目標を3つ書きなさい』という論述があんのよ。もーイヤ!」
先生が往来する廊下にも関わらず、大きな声を出している。周りが見えないのか? 見えねーんだろうなあ。俺は……笑っていいのか?
「何ニヤニヤしてんのムカつく! アンタも共犯なんだから、せめて日記書いてよっ!」
「ヤダよバーカ。んじゃ帰るわ」
「まだ話終わってないしぃ! 待てコラ!」
「アラート、アラート(迫真)! 先生! 桜カレンが脱獄してまぁす!」
「ちょぉおおぉお! それ鳴らそうとするなぁあ!」
「フハハハァ! じゃーなバーカ!」
「って感じだった」
「本当? よかった……昨日あっという間に離されたんだよ。メディックのスタミナじゃ無理だね」
「よく考えてみろ。バカレンが繊細なわけないだろ? 課題が出ても、教室出たらもう忘却の彼方になってるじゃねーか?」
奴の長所でもあり短所でもある。今回も反省の色は無しだ。
「次の休み時間にも、偶然行ってみない?」
「やめとけ。校内謹慎は、“クラス集団から一時的に離れることで、自らの行動への反省を促す”らしいから、頻繁に会いに行ったら、先生もいい顔せんぞ?」
「でも……」
「せめて今日の午後にお前1人で行け」
「うん」
「あと同じトイレで会合しろ。口裏合わせて、毎日定時に行けば、ゆっくり話ができるぞ? さすがの先生もトイレまで監視しないだろ?」
「うん」
あいつは孤独とか仲間はずれが嫌なんだ。ちょっと友だちと話すだけで元気が出る。さっきので再確認した。
「ねぇ大宮くんもそこで一緒にお話ししない?」
「さらっとすごいこと言うな。絶対行かん」
「残念……カレンちゃん喜ぶと思うのに」
「いや事案だろ」
それから午前と午後に、偶然を装って会いに行った。先生たちに、睨まれることもあったが、咎めるまでには至らなかった。
そして気づいたことがある。あいつ、本当の親友ってあまりいないのかもしれない。天上知らずの明るい性格で、気さくで、思い立ったら即行動なので、俺ら以外の友だちがわんさかいるかと思っていた。実際、他のクラスとの付き合いもある。しかし、こっそり会っているのは俺らだけだ。まあ、今の軟禁状態で敢えてそうする猛者は、いないのかもしれないが。
一方カレンが謹慎を食らって、すこぶる気分が良い奴もいるだろう。ギャアギャアうるさくて、短気で、気まぐれで、浅はかだからな。良い評価を裏返すとこうだ。とにかく悪目立ちが過ぎて、不要に周りをイラつかせてしまう。
正直に言うと、俺もこんな奴苦手だ。今の気持ちを吐露すると、散々トラブルに巻き込まれているので、奴の謹慎には清々している。静かな学校生活が送れるなら、正直もっと長引いてもよい。
けどカレンの顔を見ると、そんな気持ちは消え、“こいつだけ謹慎受けてかわいそう”と、憐憫の情がこんこんと湧き上がってくる。矛盾しているよなぁ。俺はいい所もそうでない所も知っているからだ。
今回も読んでくださってありがとうございます。ブックマークが増えて嬉しいです。