【e1m21】気になってしょうがない
今回は大宮の独白が続きます。
K:2 A:1 D:3
K:2 A:1 D:5
K:2 A:1 D:7
K:2 A:2 D:9
「あーダメだ……」
モニターに向かってボヤいた。調子が出ないとか、そんなレベルじゃない。これじゃ人にプレイヤースロットを譲ったほうがマシだ。程なくして、自チームは完膚無きままに叩きのめされ、俺は萎え落ちした。ゲーミングチェアにどっかり背中を預け、サラミを挟んだバターロールにかじりつく。
「そろそろ10時か」
いつもだったら、風呂上りのバカが、
『頭数足りないから、今すぐ来て!』
と喚きながら、マルチプレーに誘ってくる頃合いだ。スチールのフレンドリストを見ると、❀R0cketeeR✿はオフライン。常にオンラインかゲーム中だが、流石にあんな後では、パソコンすら起動する気にならんようだ。奴のアバターに呟く。
「停学じゃなくて良かったな。けどお前やりすぎだぞ。いわんやeスポーツなんぞ、夢のまた夢だ」
しかし、俺自身は何も罰されていないので、何の呵責も感じなかったと言えば嘘になる。
「……」
えーい、やめやめ! 俺はラッキーなんだぞ? よく考えろ! 今まで何回フラグされた? 何回筋の通らない要求を飲まされた? 何時間ゲームに付き合った? 何回PCのサポートやった? 何回課題を見せた? 最近お仕え申し上げた回数は、両手両足で足りないな。 これ天罰だろ? ざまーみろ! 今までの報いだバカめ! しっかり頭を冷やせ!
「って、なんで俺はカレンのことばっか考えているんだ……?」
きっと日常が崩れたからだ。今日は1人で帰って、1人で遊んでいたからな。そうだ、そうに違いない。あのバカのことは、当分忘れよう。そう自分に言い聞かせた。少なくとも3日間は、俺の安息が確定したのだ。つまり、理不尽にフラグを食らうことがないし、夜に付き合うこともない。
「ああ、なんて素晴らしい!」
この時間を何に当てよう? 映画? それとも読書? それとも勉強してやろうか? うーむ、急に自由と選択肢を与えられると迷ってしまうぞ。
「……俺ってやっぱゲーマーだな」
数分後、頬杖をつきながら呟いた。結局、積んでいたアドベンチャーを遊んでいた。日本語化されておらず、英文量が多く、しかも単語も難しい。辞書を使う必要があり、まとまった時間がないと遊ぶ気になれなかった。まあ洋書とは違って、映像や話者のイントネーションという理解補助があるから助かる。ゲーマーで英語力を伸ばしたいなら、英語版でプレーだよな。
「ん?」
突如キャラが動かなくなった。正確には、マウスルックできなくなった。
「とうとうコレ逝ったかぁ?」
俺のゲーミングマウスは、とっくの昔にディスコンで、それでも日々酷使していた。決して雑に扱っていたわけではないが、時々動作が変になることがあった。
左右ボタンのマット加工は指の形に沿って剥げて、下地のプラがむき出しになっている。溝にはゴミや垢がつまって、針で取り除いてはいるものの、不可能な場所も多い。保証はとっくに切れていたので、躊躇なく中を開けたことがある。精製水と綿棒を使って汚れを取り、その後適当に接点復活剤を塗った。
「これ、カレンと知り会った頃から使い始めたっけ?」
端子を外し隅にやると、クローゼットから同型の新品を取り出した。後2つもあるんだよ……。当時『同じのじゃないと、レート落ちる』と根っから信じて、4つ買ったのだ。プロでもないのにバカだよ。周辺機器だって、流行や性能強化があるのに。
「日付が変わったら寝よ」
動作確認しながら時計を見た。どこかのうるさいバカが、
『後1戦だけっ!』
『もう1戦だけっ!』
『ガチのマジでこれで最後っ!』
とネット越しに声を張り上げないので、今日は十分な睡眠を確保できそうだ。謹慎が1週間ぐらいありゃいいのに、と邪な考えがよぎった。
3日だ。3日過ぎたら、いつもと変わらない日々が戻って来る。主人公の怪我が自動回復するように、カレンの精神的ダメージも、3日もありゃ回復しているだろう。その時には、eスポーツ部のことなんかすっかり諦めているはず。家でゲームできりゃそれで満足なんで、『なんてバカなこと言ったんだろ?』とのたまうに違いない。
今回も読んでくださってありがとうございました。