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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
21/212

【e1m21】気になってしょうがない

今回は大宮の独白が続きます。

K:2 A:1 D:3

K:2 A:1 D:5

K:2 A:1 D:7

K:2 A:2 D:9


「あーダメだ……」

 モニターに向かってボヤいた。調子が出ないとか、そんなレベルじゃない。これじゃ人にプレイヤースロットを譲ったほうがマシだ。程なくして、自チームは完膚無きままに叩きのめされ、俺は萎え落ちした。ゲーミングチェアにどっかり背中を預け、サラミを挟んだバターロールにかじりつく。

「そろそろ10時か」

 いつもだったら、風呂上りのバカが、

『頭数足りないから、今すぐ来て!』

 と喚きながら、マルチプレーに誘ってくる頃合いだ。スチールのフレンドリストを見ると、❀R0cketeeR✿はオフライン。常にオンラインかゲーム中だが、流石にあんな後では、パソコンすら起動する気にならんようだ。奴のアバターに呟く。

「停学じゃなくて良かったな。けどお前やりすぎだぞ。いわんやeスポーツなんぞ、夢のまた夢だ」

 しかし、俺自身は何も罰されていないので、何の呵責も感じなかったと言えば嘘になる。

「……」

 えーい、やめやめ! 俺はラッキーなんだぞ? よく考えろ! 今まで何回フラグされた? 何回筋の通らない要求を飲まされた? 何時間ゲームに付き合った? 何回PCのサポートやった? 何回課題を見せた? 最近お仕え申し上げた回数は、両手両足で足りないな。 これ天罰だろ? ざまーみろ! 今までの報いだバカめ! しっかり頭を冷やせ!

「って、なんで俺はカレンのことばっか考えているんだ……?」

 きっと日常が崩れたからだ。今日は1人で帰って、1人で遊んでいたからな。そうだ、そうに違いない。あのバカのことは、当分忘れよう。そう自分に言い聞かせた。少なくとも3日間は、俺の安息が確定したのだ。つまり、理不尽にフラグを食らうことがないし、夜に付き合うこともない。

「ああ、なんて素晴らしい!」

 この時間を何に当てよう? 映画? それとも読書? それとも勉強してやろうか? うーむ、急に自由と選択肢を与えられると迷ってしまうぞ。


「……俺ってやっぱゲーマーだな」

 数分後、頬杖をつきながら呟いた。結局、積んでいたアドベンチャーを遊んでいた。日本語化されておらず、英文量が多く、しかも単語も難しい。辞書を使う必要があり、まとまった時間がないと遊ぶ気になれなかった。まあ洋書とは違って、映像や話者のイントネーションという理解補助があるから助かる。ゲーマーで英語力を伸ばしたいなら、英語版でプレーだよな。

「ん?」

 突如キャラが動かなくなった。正確には、マウスルックできなくなった。

「とうとうコレ逝ったかぁ?」

 俺のゲーミングマウスは、とっくの昔にディスコンで、それでも日々酷使していた。決して雑に扱っていたわけではないが、時々動作が変になることがあった。

 左右ボタンのマット加工は指の形に沿って剥げて、下地のプラがむき出しになっている。溝にはゴミや垢がつまって、針で取り除いてはいるものの、不可能な場所も多い。保証はとっくに切れていたので、躊躇なく中を開けたことがある。精製水と綿棒を使って汚れを取り、その後適当に接点復活剤を塗った。

「これ、カレンと知り会った頃から使い始めたっけ?」

 端子を外し隅にやると、クローゼットから同型の新品を取り出した。後2つもあるんだよ……。当時『同じのじゃないと、レート落ちる』と根っから信じて、4つ買ったのだ。プロでもないのにバカだよ。周辺機器だって、流行や性能強化があるのに。

「日付が変わったら寝よ」

 動作確認しながら時計を見た。どこかのうるさいバカが、

『後1戦だけっ!』

『もう1戦だけっ!』

『ガチのマジでこれで最後っ!』

 とネット越しに声を張り上げないので、今日は十分な睡眠を確保できそうだ。謹慎が1週間ぐらいありゃいいのに、と邪な考えがよぎった。

 3日だ。3日過ぎたら、いつもと変わらない日々が戻って来る。主人公の怪我が自動回復するように、カレンの精神的ダメージも、3日もありゃ回復しているだろう。その時には、eスポーツ部のことなんかすっかり諦めているはず。家でゲームできりゃそれで満足なんで、『なんてバカなこと言ったんだろ?』とのたまうに違いない。

今回も読んでくださってありがとうございました。

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