表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
2/212

【e1m2】嵐の前の静けさ

今回は、ゲームでいうイベントとイベントの間ような感じで、あまりネタは組み込めなかったです。

 1限目が終わった休み時間。

「シンイチィ、ちょっと!」

 俺は、後方のロッカーから宿題を取り出していたが、教室中に通る声の主はすぐにわかった。カレンだ。(いぶか)しげに振り返ると、彼女は前方の張り紙を凝視していた。

「早く!」

 『用があるならお前が来い』という選択肢を選びたいが、そうするとパンツァーファウストか、MP40を撃ち込まれる。大きくため息をついて、気だるく立ち上がり、ダルそうに歩いていく。カレンに呼び出されるは日常茶飯事だが、周りから見ると実に情けないだろうな。

「へいへい、なんでございましょう?」

 嫌味っぽく言ってやるが、カレンは全く意に介さず、ビシッと張り紙を指さした。

「ん〜?」

 “唐揚パン250円(税抜き)期間限定で発売”と書かれてある。で、今日が発売日なんだ。

「これが何か?」

「次の休み時間に、買い占める!」

 今の今まで張り紙に釘付けだったカレンは、振り向いて意志の固い表情を見せた。

「は?」

 また(・・)思いつきでやらかそうとしているのか? そう悟ると萎えてしまう。毎回そうだが、こいつの頭の中が理解できん。唐突に愚行に走るからな。

「アンタ唐揚パン食べたくないの⁉︎」

「いやいやいや、買い“占める”とはどういうことだ? その考えに至った理由を、順序立てて説明しろ」

 動機を開陳(かいちん)するよう申し立てると、奴は露骨に表情を歪ませた。

「あぁ〜めんどっ! ちっと頭捻りゃわかるっしょ? 他のクラスに、日頃の屈辱をそそぐために決まってんじゃん! 何年アタシのフレンドやってんの⁉︎」

 フルオート射撃で、一気にまくし立てる。かなり説明不足だが、カレンの言わんとする所はこうだろう。

 すなわち、我ら2年F組以下のクラスは、校内の購買部から一番遠い位置にあるので、パン争奪戦に距離的に不利なのだ。大抵は残り物しか買えない。“日頃の屈辱”はそれを指している。

「でもどうしようもねーじゃん。それに、次は英語だぞ? 定時に終わっても、マキシマムスピードかシリアススピードでも使わない限り無理だな」

 距離で不利なら、早めに行けばよい。しかし悲しいかな、開店前の授業は、ダラダラ引き延ばす先生で占められている。英語の先生もそうだ。購買部に向かうG組やH組の生徒を見て、苛立つクラスメイトも多い。期間限定で且つ新発売のパンとなれば、求める人も多かろう。結論。買い占めなんて無理。いわんや、ただの1個だって買えない。

 カレンは、ヘッと小馬鹿にしたように吐き捨てた。

「青木っちゃんには早めに帰ってもらうから」

 若い先生だからって、言いくるめる気か。

「他のクラスも早めに終わったらどうすんだ? 終了がイーブンになった時点で、もう勝ち目ないぞ」

「大丈夫。ちゃんと考えている」

 こいつの“ちゃんと考えている”は、“手段を選ばない”と同義だ。ダブルバレルショットガンを手にした宇宙海兵隊のサディスティックな笑みを見せ、教室を一瞥(いちべつ)した。

 つられて見ると……みんな一様にカスタムスキンの火器の点検をしたり、弾薬をマガジンに装填したりしていた。何人かが、カレンに向かって親指を上げる。

「何をおっぱじめるつもりですかねぇ……?」

 答えは火を見るより明らかだった。

「あのさ、校長訓戒食らったのを忘れたか? あん時も同じ理由だったろ? 購買部で(いさか)い起こして、デスマッチになったじゃねーか」

 こいつをお騒がせ有名人たらしめた事件の1つだ。やたら血の気が多く、すぐ手を出す。指導が入っても反省しない。

「うっさい! 好き好んでこんな手段に頼りたいワケじゃないし。生徒総会で訴えたじゃん? 『パンをみんなが平等に買えるようにしてください』って。けど、庶務部と生徒会は、その場しのぎの返事だけ(のたま)って、結局何もしてないでしょ? もー我慢できない! 今や言葉は死に、剣が頭をもたげるのよっ!」

 張り紙見ただけで、ここまで瞬間沸騰するんだぜ? 信じられねーわ。

 カレン本人は、カッコいいことを言ってるつもりだろうが、狂気の沙汰である。“好き好んで云々(うんぬん)”とか言いながら、結局武力に頼ってんじゃん。

「桜は正しいぞ!」

「おう! 今日はぜったいにパンを買う!」

 な、なんだよ、こいつら……。えらく士気が高いじゃないか。いつの間に連中を教唆(きょうさ)したんだ? 連中の積年の不満も爆発してるじゃん。俺なんかF組になった時点で、1年間パンへの未練を断ったのに。

「ハハッ! 見てよ。みんな喜んで戦うって。あと、友軍にG組とH組も参加するから、派手になるよ〜?」

 ちょ、お前……別のクラスも取り付けたのかよ。待てよ……これ相当な騒ぎになるんじゃ?

「お前さ、全校生徒に()みつくんか?」

「1年と3年には攻撃しない」

 わけがわからない。他学年だって購買部に殺到するだろうに。

「けど、売店にも近寄らせない」

 つまり、敵勢力(ホスタイル)としてAからE組を攻撃対象とし、それ以外は中立(ニュートラル)。以前のデスマッチの雪辱戦だろうか。あの時は同級生に煽られたからな。そして、先制口撃を受けたカレンがこっぴどく絞られた。

 話を戻そう。こいつがどこでどのような戦闘を想定しているのか知らんが、上履きの色(学年で異なる)見ながら戦うんか?

「なに苦々しい顔してんの?」

「質問していい?」

「ダメダメ。アンタ細かすぎるから、そんなんナシ! 簡単じゃん? 突っ込んで、ドンパチして、パンかっさらって、帰る。そんだけ」

 カレンは言葉足らずでもあるから、ちょっとは頭の中で考えているかと思った。しかし、何も考えてませんでした。

「じゃ俺は、事の成り行きを見守るわ」

  ぐわっと目を見開いたカレンは、赤くカラーリングされたMP40を取り出し、躊躇(ちゅうちょ)せずにトリガーを引いた。


Shinichi was shot by Karen’s MP40.


「梢ちんっ!」

「はいは〜い」

 鹿島に蘇生してもらった瞬間、仰向けに倒れている俺の胸ぐらを掴み、前後に振りまくるカレン。唾液(つばき)が飛ぶのも構わず罵ってくる。

「誰がアタシの援護すんの! アンタっしょっ⁉︎」

「正当性も計画もない戦闘なんかやってられるか! それに大ごとになるのが想像できんのかバカ!」

 カレンは少し黙った後、掴んでいた拳を離した。俺のリスポーンポイントを指差している。

「もっかいフラグして、あそこにMG置くと、どうなると思う?」

 レスキル祭りですね、わかります。もうまっとうな理屈で引き止めようとしても無駄だ。そして、俺がここで静観するのもダメ。カレンの中では、俺は奴の援護役と既に決まっているのだ。

「鹿島ぁ、何か言ってやれ!」

 あいつの言葉なら、聞き受けてくれるかもしれない。

「う〜ん……」

 こいつだって、休み時間に起こる騒動を想像できるはず。

「カレンちゃん、あんまり羽目外さないでね(オートミールおじさんの笑顔)」

 諦めてるじゃないっスか、鹿島さん……。『残念だけど、もう聞く耳持たないよ』と言わんばかりに、小さく顔を横に振った。カレンだけならともかく、クラスメイトまで血が上った状態では、どうしようもないのだろう。冷静になると甚だ馬鹿げたことだが、かくも食べ物の恨みが恐ろしいとは……。理性は死んだのか?

「大丈夫! アタシが全責任を負うから!」

 ビシッと、全員に親指を立てるカレン。

「で、大宮クン。アンタはどーすんの? 正義の戦いに加わるか、今からレスキルされまくるか選べ」

 俺はさ、お前の事後の処遇を心配しているのであって、嫌みで止めているんじゃないんだぞ? しかし、一度やると決めたカレンを何人たりとも止めることはできん。たとえ破滅に向かって突っ走ることがわかっていても。

「…………」

 せめて俺ができることは、カレンの言う通り、彼女を見守っておくことだろう。最悪、暴走するカレンを力づくで止めないといけないかもしれん。

 そう考えると、座して待つより随伴(ずいはん)した方が、結果的に彼女のためになる。俺への指導も免れないが、まあ先生は、“大宮がカレンのお供をした意味”を理解してくれると願いたい。

「……わかった、わかったよ。援護すればいいんだろ?」

 頭を掻きながら返事をした。

「何……急にコロッと態度を変えちゃって……まいっか。わかればいーのよ。わかればっ!」

「ただし……俺は攻撃するつもりはないからな。それだけは覚えとけ」

今回も読んでいただきありがとうございます。次回はまたカレンを中心に、校内で大暴れするつもりなので、ちょっとだけ期待してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ