【e6m50】:S:T:A:L:K:E:R:
1人昇降口を出た。帰路に就く生徒は、他にもたくさんいる。校庭には部活動に没頭する連中。鹿島は、全クラスに保健だよりを配布する作業をするため、まだ校舎に残っている。
「ん……?」
一陣のそよ風に、ふくよかに広がる白檀の一端を捉えた。近くに辻さんがいるな……あ、あそこだ。爽らかな髪が、いとめでたく腿まで垂れ下がり、歩を進める度にゆらゆらと見事である。隣には恰幅の良い男子、菅どのもおはします。
「いでや、御仲の頗る宜しいようで」
時折見せる丹つらふ妹の頬は、紅のせいだけではない。校内でイチャつくとか、全くもってけしからんわ。まあ、俺が言う資格はないけど。
連中は、駅前のハンバーガーチェーン店に入って行った。ここは放課後、生徒たちが発車時刻まで時間を潰す場所だ。以前、先輩を駅まで送る際によく利用した。しかしなあ、菅どの。その女房を具して行くのは愚かの極みだぞ。
『鹽味の強すぎまする』
『形色あしうはべり』
『さうざうしくて、食ぶ心地にもなりませぬ』
従姉妹は、決して食べ残しはしない。しかし、やたら舌が肥えているお陰か、特にジャンクフードの類は蛇蝎の如く嫌う。品の無い大食いや早食いにも、冷めた眼差しを射向ける。店内の装飾や雰囲気まで口出しするので、同行していい気分にはならないだろう。
「次にお待ちのお客様、こちらへどうぞー」
つまりここは、デートスポットとしては最悪だ。どんな飈が花の唇から吹き荒れて、菅の奴を切りつけるやら。季節の草花が賞玩できる植物園の方がマシだろう。
初々しいカップルは、1つのトレーに2人分の食事を乗せて、階段へ登って行く。
「次のお客様〜?」
「えっ?」
今気づいた。なんで俺あいつらをスタルカーしてんだ……?