【e6m49】邪魔者
「はぁ……あの先公マジでムカつくわ」
廃人ゲーマーなのは、自分でもわかっている。けど俺より酷いアルティマーやディアボラーなんてごまんといて、24時間インしてんだぜ?
「今度無断欠席すると、親父に電話するだと? ばっかじゃね。あいつは仕事しか頭にねぇんだ。俺のことなんか言っても、右から左に出ていくだけだ」
帰宅途中ぶつぶつ独り言を漏らすので、通りすがりの人が怪しむ。知るかよ。どうせ2度とすれ違うことなんかねぇし。
家の玄関に入ると、小さなローハーが外を向いて揃えてあった。これは……?
「おお、戻ったか」
制服のままの従姉妹が、リビングのフローリングにモップをかけつつ、目線すらよこさないで無機質に言い放った。
「……何やってんの?」
「見てわからぬか? 刷毛序よ」
「いやいや、汚れてねーし」
「しからば、これら塵芥煤は如何に?」
「お前に関係ある? ンなことしなくていーんだけど?」
「ほ。労いのお言葉は要らずとも、さような言い種は心外でありますの」
許可なく人の家に上がって、好き勝手にされるのに腹が立つ。そことなく苛立ちを伝えているのに、こいつは知らぬ顔で動じないからムカつくのだ。
「さても、候もじの塗籠に物少なく、驚き申した。もはや部屋と呼ぶべきよ」
「お前……勝手に部屋に入ったのか?」
怒りすら沸々と滾り始めた。パソコン周り、特にマウスとキーボードなどの位置などは、俺の姿勢にフィットしているので、1ミリも動かしたくない。しかしコイツは、掃除のためになんの躊躇もなく動かすからだ。
流石に彼女はモップがけを止め、俺と顔を合わせる。やはり悪びれた風にならないのが、さらに怒りに薪を焚べた。
「確かに入り申した。されど掃除は無用とて、何1つ触れておりませぬが?」
「だったらいい。掃除とかいいから帰ってくんね? マジで。大丈夫なんで」
「日がな一日籠り居て、ゲームに心狂い、絶え入っておったのは、どこのお人か今一度思い返しなされ。まあ良い、さ申されるなら致し方なし」
モップを壁に立て掛ける。そして、テーブルの上にあるビニール袋を指さした。おそらく、叔母さんの手料理やインスタント食品などが入っている。
「母御の手料理、そもじは放下しておるであろ?」
「だからなんだよ? どうしようが勝手だろ、忙しいんだよ。お前の知ったことか」
「……あなあさまし」
随分と気持ちの凝縮された言葉を口にした。今までの能面と違って、細目で眉毛を寄せている。
「いいから帰ってくんね? ぶっちゃけウザい、お前がいると」
「ほ。失礼をば致しまする」
彼女は、静々と歩いて家から出て行った。当然お見送りなんてしない。玄関のドアが閉まる音で、やっと俺は安心することができたのだった。