【e6m46】先輩ルートでいいや
「( •᷄ὤ•᷅) お話聞いたよ。のんたんとすがくん、お付き合いしてるの?」
「ええ」
俺と先輩は、食堂で仲良く座っていた。一列向こうの席で、その2人も仲睦まじく語らいながら、食事を共にしている。菅が辻さんを退屈させまいと、何かと話しかけているのがわかる。そして辻さんも、クスクスといみじう見るに笑まれてきよらかだった。
「ハァ……」
「(;-`д-´)」
「す、すいません。気分がどうも上がらなくて……先輩がいるというのに。なんていうか、呆気なさすぎというか、アイツの身の引き方が余りにも潔すぎて。俺が言うのもなんですが」
「(¯―¯٥) まいもびっくりだよ。“おーみやくん争だつ戦”があっさり終わるなんて……」
どうやら先輩にとっても、あっけない幕引きらしい。そりゃそうだ、散々今まで辻さんとバチバチにやりあってきたからな。急に対戦相手がいなくなると、拍子抜けもする。
今日の唐揚げ定食、全然味しないや。これ学食で一番好きなのに。喉に通らぬほど嘆き悲しむ……と言いたいが、鹿島にチェックされるから食べないと。
「お?」
しばらくすると、やっこさんらの食事が終わったようだ。トレーを返却した後、出口に向かって仲良く歩き出す。これから涼しい所で、相語らうのか? 俺らの横を通る際、辻さんは……無表情に軽く会釈した。
「あの気色……昔のまんまだな」
「(*´-`)?」
もう遠くにいるというのに、白檀の香がいつまでも紐引く。昔は寺みたいな匂いと奇妙だったが、いつからか頗る妙香になっていた。昔からずっと同じなのに、どうしてだろう。目線で追うと、食堂出口から吹き込むそよ風に、垂髪がわずかに棚引いている。あの後ろ姿……小柄だけど、振り返ると微妙の乙女、光り輝くように美しいんだよ。
「いいモン、俺には先輩がいるし!」
「Σ(੭||¯ω¯)੭」
「先輩の方が可愛いし、おっぱいでかいし、いつも愛嬌あるし、甘い匂いするし、実は頭の回転はやいし、運転上手いし、人の悪口言わないし、お嬢様モードも可愛いし、おっぱいでかいし」
「( ¯꒳¯ ) おっぱい2回言う必要ある?」
「重要なことなので、言いました!」
「(๑¯Δ¯๑)」
「すいません、ふざけすぎました……」
「( ˙˘˙ ) いいの。けど正直、まいが“おーみやくん争だつ戦”に勝ったとは思えないよ。これじゃあ、ただの不戦勝だからね」
驚いた。普段どっちつかずの俺が先輩に傾いているのに、思いの外冷静なのな。普段だったら『(*⁰▿⁰*) キャー☆』と黄色い声を上げて抱きつくはずなのに。俺が負け惜しみで強情を張っているのを見抜いている。
「あ、そうそう。昼食で思い出したんですけど、この前のお金やっぱ返します」
「( ੭||˙꒳˙)੭?」
「いやいやいや、蕎麦の代金ですよ? ほら、この前外食した時の」
「(。º̩̩́⌓º̩̩̀). あ、あ、あ〜あれね、おそばのね。いーんだよ、それ」
何を慌てて話を取り繕っているんだ、この人……? まさか外食しに行ったことすら覚えていない? 昼間っから抱き合ったと言うのに、そんなこと忘れるか普通?
「いやいや、やっぱ先輩とはいえ、おごられるわけにもいかないので」
「( ;´꒳`;) そ、そう? そこまで言うなら、ありがたくもらっておくよ」
「もらうって先輩、返すんですから……」
先日の昼食代1500円を、申し訳なさそうに受け取る先輩なのであった。
「(.❛ᴗ❛.) うんうん。フラれてもちゃんと食べてえらいえらい」
「無理やり食べてました。もう午後の授業は不貞寝します……」