【e6m32】父こそ
俺と辻さんは、校長室前に行き、カレンの親父さんを出待ちした。彼が出てくると、呼び止めて辻さんを紹介。彼女は事の次第を手短に伝えた。
「なるほど、わかりました。娘にはよく言っておきます。どうぞご安心ください」
こちらがはっきりと言わずとも、カレン本人ではなく、わざわざ父親の自分に話を持ちかけた意味を理解したようだった。
「この度はご成人、誠におめでとうございます。これからも娘をよろしくお願いします」
慇懃に頭を下げる姿に、辻さんはすっかり感心した様子。親父さんが去った後――
「あな、いとをかしくまめ心持ちたる父どのかな。さこそ物言えば、惡櫻とて軽軽せまじけれ」
と爽やかに愁眉のひらき、笑みこぼれたる様子。
「あのさ、カレンの席は鹿島の隣にして、足を伸ばす場所も設けておけよ」
「そもじは櫻の気色取りつつ、いとよう愛で給ておるの」
「毎日こき使われたら、こうもなる」
「ほ。兎も角、そは父御母御に進言しておきましょうぞ」
その日から辻家は忙しくなった。叔父さんは行事として、娘と出かける事が多くなり、叔母さんは買い出しや大掃除などに余念がない。辻さん本人は、琴や日舞に力を入れ、俺と一緒にいる時間が減った。