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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e6m29】脱出

ここで一旦区切りなので終わります。

「さてはえやらじッ! けやけくしていくやつどもかなッ!」

 後ろから、鬼のような顔した辻さんと、動物警備員が猛追してくる。もうね、フィナーレとあってか、校内にいる全ての人員をかき集めている。

「メグ、聞こえる⁉︎ 目標のデータは入手した。脱出するからお願いっ!」

『Rog. 南門から進入すっけん、そこにおらんね。ETA, 2 minutes!』

 だがな、前にも待ち伏せされているので、容易に進めない。

「おっと、今度こそ――!!!」

 角から出てきた警備員を、カレンがドロップキックで撃沈。今の……菅だったよな? マジでいいとこ見せずに終わってしまうのな、アイツ一体なんだったんだ。

 カレンは階段をどんどん登って逃げる。このまま行くと、屋上で詰んでしまうのでは? 何か策でもあるのか? いや無さそうだけど。

 ドアの取手からバールを外し、蹴り開ける。反対側で、今の今まで懲りずに開けようとしていた警備員が吹き飛ばされ、大の字に寝そべりながら滑って行く。

 カレンは気にも留めず、端に向かってスプリント。既に後ろから辻のんと大量の警備員が迫っている。途中、懐から缶を取り出した。そして、その勢いは抑える事なく、手すりを乗り越え――

「えええ⁉︎」

 そのまま視界から消えた。当然俺はそんな無鉄砲ではなく、端っこでストップ。バカじゃね? こんな高さから飛び降りたら、フラグ――

「してない⁉︎」

 カレンの落下地点には、さっきの缶が破裂し、白い泡を一面大量に花開かせていた。それが緩衝材となったのだ。受け身をとって前転し、立ち上がるカレン。

 そこにスキール音を立てて、メグのバンが猛スピードで駆け入る。後ろには警備会社のワンボックスカーの車列を引き連れていた。

 バンのスライドドアが開き、小早川氏がボウガンからウォーターアローを発射。白泡は一瞬で溶けて消えた。そして、並走するカレンの手を取り、中に引き込む。やがてトレインと共に闇の中に消え入った。

「Cuff’em!」

「On my way」

 俺が呆気にとられていると、後ろからむんずと掴まれ、両手の自由を奪われ、手錠をかけられてしまった。なんですか、何ワット4ですか?

「えっ! 俺の弁護士はどこ⁉︎」

「手荒にするなと申すにッ! 速やかに手枷外して、宮どのより()れッ!」

「す、すいません……」

「して、櫻どのはいづこに?」

「まあ……脱出したな」

 遠くから聞こえ始める爆音。警備会社のバンは、今頃字面通り火の車になっているだろう。

「………………うぬぅ、なんという抜かり。首尾よく逐電しおったか。いわんや、問題まで(ぬす)み取らるる始末。もう良いお主ら、ただ今より皆暇与えるッ! 早や早や(しょう)の目前より往ねッ!」

 あまりに腹を据えかねて しばし物も言えなかった辻さんは、怒りに紅潮。警備員全員を即刻クビにしてしまった。連中はしょんぼり立ち去って行く。その背中を睨めつけながら、スマホを取り出した。

「“日本一の実績を誇る安心・安全をご提供”と謳うておうて、高校生だに防げぬ為体(ていたらく)。高う(むく)ひて、星1つ」

 こらこら、早速カスタマーレビューで酷評下すな。警備会社とは言え、相手が悪すぎたんだ。アイツと戦うには、マジで戦車持ってくるしかない。まあ戦車でも、パンツァーファウストの餌食になるか。

「ま、“宮どの”はここにいるから、お前の勝利条件は達成じゃね? アイツはさ、俺よりテスト問題の方が大事だったようだけど。それぞれ欲しがっているのを交換したということで、引き分けだな」

「……げに()ぞはべらん」

 適当なことを言い繕ったが、辻さんはキョトンと妙に納得して笑みこぼれた。

「ク〜〜ン……」

 そこに、先ほどカレンに頭を捻られたシェパードが、飼主の元に歩み寄ってきた。近くに俺がいるというのに、吠える余裕すらないらしい。しっぽと耳がダランと垂れて、目も哀しげである。

「ほ。お主も物の用足ると思うておうたが、気色ばかりにあらずや。こう返り討ちに合うては、不体裁限り無し」

「キャン!」

 辻さんは犬の下顎と片耳を掴み、今度はカレンとは逆の方に捻る。これで頭は元どおりになったはずだが、やはりすごい音が鳴った。かわいそうに……また全力で逃げ出したが、多分家に帰っているだろう。

「カレンの片棒を担いだ俺が言うのもなんだが、これでアイツの数学は満点だな。まあ余りにも不自然すぎて、職員室の調査が入ると思うけど」

「それには及びませぬ」

 辻さんは今一度スマホを取り出した。

()し申し? 数学の田中どのであるか? (しょう)は1年C組の辻のぞみと申し(さむらふ)。此度はちと思うことこそ侍れ――」


「なんなのよコレェェェ!!!!!!」

 その日の朝、静寂を突き破る獣の叫び声が、校内に響き渡った。試験監督官とクラス全員が何事ぞと仰天する。カレンを見ると、全ての問題用紙を何度も見返している。俺の席から顔は見えないが、“驚愕”という表現じゃ全然足りないだろう。

 知っているか? 試験問題を一番簡単に作成できる教科は、他ならぬ数学なんだ。俺は笑いを堪えるのに必死だったが、遠くで聞いた辻さんも、間違いなく笑み栄えているだろう。俺の中の読者さんも、試験問題を盗みに入るとか絶対にやるなよ? 侵入の痕跡がバレて、作り直されるが関の山だ。

次はもう書き始めているので、そう遠くない日にまた公開できそうです。

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