【e6m27】ステルスって何?
辻さんは、カレンを見くびったな。“桜もいよいよ散りどき”とか雅に詞したが、この桜はな、銃弾の雨霰が降ろうが、しぶとく咲き続きけるんだ。
つまりだ。職員室内では、凄まじい――いや滑稽と言うべきか、数多くの警備員がダウンしていた。倒れていたのが起き上がって、また追跡に加わるが、カレンは逃げ周りながらスタミナを回復し、めぼしいのを見定めて、また張り倒す。
「あ〜もうしつこ過ぎっ! まとめてぶっ飛ばしてやらぁ!!!」(カレンの両目のカットイン画像挿入)【気分最高 Lv4】
おーおー、ま〜たレイジメーターが最高に達したな。耳をつんさぐ鬨の雄叫びを上げ、カレンの体から紅の光が眩く輝く。
怒りが余りにも迸るのか、はたまた単にラグドール処理がおかしいのかわからない。最初の被害者は、大の字になって天井まで吹っ飛んで行く。次は、返す刀……いやピコピコハンマーで強打され、壁に埋まってコリジョンを起こし、肢体がブルブルと震えている。3人目は、頭にハンマーを振り下ろされ、スケキヨみたいに下半身が地面から生える形となった。その後も、殴って殴って全員をテイクダウン。
「一人當千ゲームかな?」
シンと静まりかえり、戦闘が終わったかと思われた瞬間、職員室の扉が開いた。2人してその方を見るが、誰もいない。いや、足音は確かに聞こえる。タタタッ、タタタッとリズム良く、4足が床タイルを蹴る。やがて背が低く黒い塊が、通路の曲角を滑りながら、猛スピードで襲いかかってきた!
『後ろっ!』
声を上げる間も無かった。辻さん家のジャーマンシェパードが、カレンの喉元目掛けて、牙剥き出しで飛びかかった! ヤベェ! すぐさまメレーしないとフラグされるぞ⁉︎ 巨体に勢いよく飛びかかられ、カレンは押し倒されてしまう。
奇襲同然だったので、彼女はいなすことも、力を踏ん張って押し退けることもできない。ダメだ、もう吠丸の鼻先はカレンの顔まであって、噛みつかれ……ってあれ?
「ちょちょちょ、なんなのよコレェ!!!」
噛みつくどころか、嬉しそうにクンクン鳴き立てて、カレンの顔を舐めまくる。尻尾なんか、プロペラみたいにグルグル回してやがる。
「ああ、そうだった。あの犬、無類の女好きだったっけ?」
叔父さん以外の男性には、バーサーカーように敵意を剥き出しにするが、女性は例外だった。特にカレンはお気に入りとなったようで、のし掛かって離れようとしない。カレンの平坦な胸を嗅ぎ始めたと思ったら……うわぁ、奴の足又に下半身を押し入れて、交接しようとしている……。
「このスケベ犬っ!」
「キャン!」
うわうわぁ……今吠丸の骨からすごい音したぞ。カレンの奴、犬の下顎と片耳を掴み、上下逆さになる程に捻りやがったわ。驚きの叫びを上げた犬は、尻尾を下げて職員室から逃げていった。
「だ、大丈夫か?」
「くっそぉ……犬に処女奪われたぁ」
彼女に手を貸して引き起こしてやると、徐々に顔を赤くし、怒りが突沸し――
「辻のんっ!!! こいつらじゃアタシは倒せねぇ! オメーが出て来やがれ! ビビってんのかっ!」
と吠え猛り、手に取るものを監視カメラに投げつけ、片っ端から破壊していく。壊すなとあれほど言ったのに、頭に血が上ると本当に理性が飛ぶわ。このままだと、脳溢血になるまで、暴れに暴れるぞ。
「どうどう、落ち着け落ち着けって」
「ムカつく、マジムカつくっ!」
「わかったわかった。お怒りはもっともです。とりあえず外の警備員がすぐ殺到するし、こいつらも起き出すから逃げようぜ?」
そう、ここにいるとまた格闘戦になってしまうので、どこかに逃げないといけない。