【e6m25】全てお見通し
一度南校舎の2年A組に戻り、メグのロッカーから件のスーツを入手。その代わり、スナックを入れておいた。
『大宮、自分のロッカーも確認して』
小早川氏がそう言うので確認すると、グロースティック、フレア、フラッシュライト、マルチツール、ナイトビジョン、ダメージアンプリファイアなど、俺の失ったアイテムが入っていた。
!実績解除!【>gimme all】
:条件:失われたアイテムを全て回収した。
「ん? 実績解除ってことは、スマホ変えたんだ」
「先輩と連絡つかないのが懲りてね。なあ、情報教育室に行くのは、主人公の悲しき運命として受け入れるが、その間お前は、じっと隠れていろよ?」
「なんで?」
「アクション映画とかで、『ここで待て』と言われても、そうしない奴いるだろ? そしてその後、そいつは絶対ろくでもない目に合うから」
「なんなのよそれ……」
情報教育室に向かう途中、あちこちの教室から、動物警備員がスポーンしてくるのを目撃した。
「なんなのアレ、これじゃいくら倒しても意味ないじゃん」
「ステルスゲー的には良くできている……Tポーズで待機しているのが見えなければな」
目的地に近づくにつれ、警備が厳重になった。そろそろCTSサバイバルスーツを着るか。
「なあメグ、これどうやって着るの?」
『は? 何年ゲームしとっと? 単にインベントリば開いて、シンのポートレイトにドラッグ&ドロップでよかろーもん』
そうですか……一瞬で装備完了。全身すっぽり覆う防護服で、俺の視界も制限される。背中に酸素タンクを背負っているので、しばらくは無酸素状態でも生存可能だ。
あと、カレンへの指示だな。このままだと、コイツは俺の後ろをついてくる。適当な物陰に移動して、そこにいてもらおう。つか、バカすぎて“Stop”か“Follow”の2種類しかないのな。“Hold fire”すらできないあたり、流石というべきだろう。
「カレン、ストップ! ……あいでっ! なんで? なんで殴る?」
「上から目線で命令されたから」
誰のために危険を冒そうとしているのか理解できんのか? まあいい、コイツがいないだけで、ステルスがスムーズになりそう。
目的地の廊下の角から、覗き込む。戸口に歩哨が1人立っていて、その前をもう1人が行ったり来たりしている。さて、これは何かアイテムを使って誤誘導でもしない限り無――
「おい、お前」
「――ッ!!!」
しまった! 前ばかり夢中になって、後ろからの足音を聞き逃していたっ!
「そんな所で、屈んで何している?」
敵対する様子もなく、ウマ警備員が呆れて俺を見ていた。
「さっさと中の奴と交代しろ。今日の暑さじゃ、蒸し焼きになるぞ」
そう言い残すと、奴は巡回に戻って行った。あっけに取られた。なぜバレなかった? 不思議に思っていると、情報教育室の中から、全く同じCTSサバイバルスーツをきた警備員が出てきて――
「遅いぞー」
と苦情を1つ残し、頭部を脱ぐ。もしかして今……変装状態になってる? なら都合が良い。戸口に立っている歩哨にも、なんの疑いも持たれなかった。
室内に入ると、数人の警備員がいて、全員同じスーツだった。一見なんら異変はないが、ハロンガスで満たされて危険、と小早川氏は言う。果たして本当か? 試しに手持ちのフレアを炊いてみるが、着火すらしない。本当に酸素がないんだな。まあいい、俺は教師用パソコンに向かい起動。だが、パスワードがわからん。
「なあ、このパスなんだっけ?」
思わず、目の前を歩いていた警備員に尋ねた。
「The quick brown fox jumps over the lazy dog」
「ありがとう……めっちゃ長げぇパスだな」
「ん〜? なんか、聞いたことある声だな」
「そ……そうか?」
げげげ。顔が見えないから気軽に話しかけたけど、こいつ菅じゃね? 奴はじっと俺を見つめてくる。不吉なサウンドエフェクトともに、奴の頭上の疑惑メーターがじわじわと伸びていく。これが満たされると、ステルスがバレるやつだろ?
「えっと……」
『2階警備班よりアダプト34501へ。至急支援を頼む。繰り返す――』
「了解した。おい桜がいたぞ! お前ら2人は俺と一緒に来い! お前は残ってそのパソコンを守れ」
「もちろん」
バカレンの奴、一体どんなヘマしたんだよ? まあいい、俺としては助かった。とりあえず、パスワードもといパングラムを打ち込んでログイン。そして自分のスマホから、音声通話ソフトを立ち上げた。スーツとスマホ越しだと声が伝わらないので、テキスト入力する。
Wolfplayer:ログインした。
『了解。接続する』
小早川氏が呼応し、問題用紙のデータ検索を開始。ただな、学校のパソコン内にあるファイルの大半が、文書か表計算シートかプレゼン用スライドもしくは写真で、その数は膨大だ。検索結果がずらずらと網羅されるが、明らかに違うものから、それっぽいものまで数限りがない。
目を鷹のようにして、画面を見据えるが、焦りもあって余計わからない。つかメチャ暑い。さっき警備員が蒸し焼き云々言ってたが、本当にサウナ状態だ。バイザーが曇って、よく見えなくなる。汗が額から滑り落ちるが、手で拭えない。
Wolfplayer:たくさんありすぎ。
『それらしいファイルを、確認していくしかない……』
Wolfplayer:もしかしたら、このパソコンにないのかも。
『然かし。もとよりそもじら所望の品は、其処にはござりませぬ。にしても、さがなき竊み、懲りずまに仕ることよ』
『!』
突然、辻さんが音声通話に割り込んできた。なんですかこの展開。ステルスで侵入してたけど、敵のボスにはバレバレでしたって……何の捻りも無いじゃないですか⁉︎
『手羽先どの、ネットワーク内で痴めくお戯れはいかが候つるらん? 大変御うっとうしゅうございます。ここは即刻お立ちあれかし』
警告! 接続が切断されました!
警告! 接続が切断されました!
警告! 接続が切断されました!
と遠隔で不正アクセスしてたものが断たれた。と同時に、音声通話アプリでも小早川氏はバンされてしまった。
『して宮どの。妾は解らずに侍り。知音の心に依ると言へども、法度に拘らず節を下し、性頗る放蕩な櫻に、いかでか方人す?』
そう、こいつは俺がカレンと連んで、悪事やらかすのを嫌っている。俺としては、とんだ巻き添えなんだが……まあ毎回やっちゃうよな。最初はフラグされて無理強いされてたけど、もう最初から諦めて従ったほうがいいってなっている。
『ほ、差し答へずか。こは余程飼い慣らされておると見ゆ。しかれど、その櫻もいよいよ散りどきぞ。ご覧あれ』
パソコンのウィンドウが勝手に開いた。それは監視カメラの映像で、追い詰められたカレンが職員室内を逃げ回っている様子だった。あっちゃー。
『得心まいったか? なに案ずるに及ばず。そもじにも“迎え”を差し出しておる故、しばしお待ちあれ。なに、事よろしく扱えと念入りに指しております』
くっそ、怒り心頭の警備員が、すぐここに流れ込んでくるぞ。って早っ! もう外の廊下がうるさくなり始めた。今外に出ると確実に捕まる。と、と、とりあえず今回はここで一旦切るわ。どうするか次回まで考えさせてくれ。