【e6m24】いつでも変更可
逃げに逃げまくる。こう表現する他ない。夜の廊下にアラーム、怒声、走り乱れる足音が響き渡る。振り返ると、追手の警備員は雪だるま式に増え、状況は悪化の一途だ。
俺とカレンは、エナジーバーに噛り付きながら――
「どーすんだよアレェ!」
「とにかく逃げろっ!」
とあてもなく彷徨う。曲がり角に差し掛かった時、誰かが前から飛び出てきた。
「おっと、ここから先は――」
菅だった。が、カレンのドロップキックにより秒で撃沈。そして、何事もなかったように逃げる。
「フラグじゃないからセーフ!」
「ホント対戦相手ながら可哀想……」
「てか菅ちゃんて雑魚キャラなん? 辻のんみたく、固有スキル持ったキャラじゃないの?」
知るかよ、名前有りのモブじゃないか? しかしな、1人倒した所で、後ろのトレインはどうしようもない。あの警備員の数では、流石のカレンも組み伏せられるだろう。
「つか、あんな数追ってくるとか、信じられないんだけど! 難易度ハードじゃない? ちょっと確認してよ!」
俺はゲームのメニュー画面を開く(ポーズ)。そこからオプションを選択し、難易度を確認した。残念だったなカレン、ノーマルだぞ? 単にお前が暴れまわるから、ただ難しくなっているだけだ。
ただし、とんでもなく下手くそプレイヤーへの救済策として、BAKArenという難易度も設けられていた。しかも嬉しいことに、プレー中でもその変更は可能であった。
「変更していいの?」
「当たり前じゃん……お、めっちゃ数減ったぜ! ブンダバー!」
ポーズが解けた途端、カレンは踵を返して、動物警備員に突撃を敢行する。先頭の奴にはドロップキックをぶちかます。そいつは荒ぶる物理演算で吹っ飛んでいく。押し寄せる次に対し、カレンは(説明が難しいが)不自然に数メーターワープし、フィニッシュムーブでテイクダウン。
だが悲しいかな、最後のウマ警備員が、カレンを後ろから羽交い締めにした。ほーら、調子に乗るからだ。
「ヘ〜〜〜ルプ!!!」
俺は一目散に駆け寄って、トランキライザーダーツをそいつの背中に突き立てる。すると、糸が切れたように、ドウと倒れ込んだ。
「…………ああ、ついに俺もやっちまった」
針が短いため出血してないし、温和な寝顔で、気持ちよさそうにいびきをかいて寝ている。体からZZZとアイコンが出ている。一方カレンが片付けた連中は、マジでテイクダウンといった感じで、頭に星が回っている。
「ハーハー……なんとか凌げたわ〜」
肩で息するカレン。エナジーバーを食っていたとはいえ、職員室から敵を張り倒したり、スプリントだったりの連続だからな。俺も食べてなかったら、多分息切れで捕まっていただろう。
『鬼ごっこは終わった?』
また車に逃げ帰ることはなかったが、小早川氏の一言がきつい。彼女は息の整わない俺らに続ける。
『残念ながら、教務主任、総括教頭、教頭のパソコンには、問題用紙のデータは存在しない。よって、情報教育室のパソコンが濃厚ね』
「だけど、ナントカガスが充満して超ヤベーんでしょ? まあ、こいつが取りに行くからいいか」
「なんで難所は必ず俺なんですかねぇ?」
『シン、ウチらんロッカーにCTSサバイバルスーツスーツがあるけん、それば使わんね』
「メグもメグだな。なぜ都合よく用意しているんですかねぇ?」
やっぱり危険な任務は必ず主人公が行い、その道具も抜かりなく準備されてるのな。もうね、俺はこういう定めになっているんだろう。やりたくないが、今更学校側に共犯を免れる言い訳もできそうにないし、やるしかねぇな……。