【e6m23】いつもバレる定期
再び職員室へ侵入したが……さあ困りました。やはりここも、動物警備員や監視カメラの数が増えている。
「ささみ、警備が厳重になっている」
『校内ネットワークも同様ね。アンチウィルスの巡回精査が高速化している。加えて、ネットワークスキャナまで導入する手の込みよう。今自分は、職員用パソコン間を飛び周りながら回避中』
うーむ、これは厳しいな。警備員が、職員机の通路を全て埋めるような形で、しかも動きも同期している。ステルスゲームの定番である、“複数の警備員が同時に眼を離す隙があるので、その間に潜り込む”、といった攻略が通用しない。
「……こんな状態なんだけど、そっちで何かできないか?」
カレンは小早川氏に今の警備状況を伝えた。
『ちょっと待って……互助会で購入したコーヒーマシンが、ネットワークに組み込まれている。先生は自分のパソコンから、焙煎具合、砂糖やミルクの量を決める。後は取りに行くだけ。これは使えるかも』
すぐにマシンから豆を引く音がして、いい香りも漂って来た。不審に思った警備員は、頭上に?マークを浮かべ、隊列を乱して集まってきた。
「何だこれは? 誰か頼んだのか?」
「いや……」
「まあいいか。せっかくだから」
次々とマシンにインタラクト、全員でホッと一息つき始める。ポケットから菓子などを取り出し、談笑すると、いかつい顔もついつい緩む。コーヒーマシンの周りは、ちょっとした寛ぎの場になってしまった。
俺らはその隙を突いて、教務主任の机に行き、もう1つのファイアウォールを停止。
『ファイアウォールの停止を確認。けど、そのパソコンは、ネットワークスキャナの監視下なので、うかつにアクセスできない』
「これも電源切ればいいんじゃない?」
「待て待て。“電源を切らないでください。アラームが鳴ります”って付箋が貼ってあるぜ」
「じゃどうすんの?」
「さっきのヘアピンを貸せ。小さな穴にリブートボタンがある。一時的に止めることはできるんじゃないか?」
『やってみて』
氏の了承を得て、俺はヘアピンの先端を穴に押し入れて再起動。警報はならず、LEDランプが忙しなく点滅し始める。
『停止を確認。アクセス開始』
その後、沈黙が続く。時折、机から頭を上げて警備員の動きを見守るが、連中はすっかり気が緩んでしまっていた。棚などに寄りかかったり、机の上に腰を下ろしたりして、完全に任務を放棄している。
「ささみ、まだ?」
『アンチウィルスが頻繁に調べにくるから、時間がかかる』
急かすカレンと、焦りを隠さない小早川氏。情報分野は、本来彼女の専門ではないはずだ。俺らは警備員と対峙しているが、氏は辻さんの敷く防衛網の目を掻い潜っているのだ。
「アッ⁉︎ お前ら、何サボってんだ!」
静かな職員室に濁声が響く。職員室に顔だけ出した菅が、サボっている警備員を叱り付けた。不意の到来に、連中は驚き、駆け足で巡回ルートに戻る。
「やっべ……サンドイッチになる」
「え?」
総括教頭、教頭、教務の席の左右両側に、警備員が歩いて来ていた。どうする? これじゃ確実に見つかってしまう。教務主任の机の下に、hideアイコンが出るスポットを見つけた。有無を言わさず、カレンを抱き寄せ、身を潜める。
「ちょ、ちょ――」
「絶対動くなよ。武器の持ち替えをするだけでバレちまう」
少なくとも、静止していれば大丈夫だが、あまりにも接近されてしまうと、気付かれる可能性もあるから気も抜けない。そして俺らの目の前には、紫色のズボンがゆっくりと横切っている。
「奴らは逃げたのか?」
「そんなわけないだろ、すぐにボロを出す」
「ハハハ」
目の前で、黒のズボンと談笑を始める。ちょっと……早く別れ去ってくれよ。ふと、カレンの顔を見ると、なんだかムズムズしたようで――
「ヘックチッ!(可愛い)」
おいおい、せめて口ぐらい押さえようぜ? もしかしてわざとやってんのか? ビックリマークが飛び出したと思われる動物警備員は、俺らの机を覗き込み――
「ほらな、出しやがった!」
「アラート! アラート!」
2人して、机の下から引きずり出された。さあQTEの始まりだ。☝︎☟☞☞☝︎☜……と要求される方向を意識する。申し訳ないが、そればかりに意識がいって、背景である警備員と俺自身の揉み合いに気が回らない。
「!」
すると、急にゴリラ警備員の後ろから雌ゴリ――いやカレンが飛び掛かり、纏わりついて締め上げる。彼女に手を出したパンダ警備員は、とっくに返り討ちにあっていて、跪いて頭を下げていた。やがてゴリラもスタミナが切れて、“床ぺろ”となる。だが安堵できない。なぜなら職員室にはまだ警備員がいるからな。
「くっそ、逃げるぞ」
「またかよ」