表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
163/212

【e6m17】警備会社

 誰かに見られていないかとビビりながら、小走りで坂を登る。カレンと2人、協力モーション(俺が門に背を預けて、中腰になり手を組み、そこにカレンが足を乗せて上に持ち上げる)で裏門を踏破。さらに進む。

 校舎は非常灯が点されるだけで、誰かが警備しているわけでもなさそうだ。駐車場も全て空。ただ、機械警備だけ気をつけなければ。

「ね? やっぱEZ(イージー)じゃん?」

 カレンのスマホから着信音が鳴った。おいおい、ステルスミッションに臨むなら、あらかじめ消音モードにしとけよ。マジで突発的・無計画なのが萎える。それはともかく、通話相手は小早川氏だ。

『もしもし? 今ワンボックスカーの列が、そっちに向かって行った。気をつけて』

「はぁ⁉︎ なにそれ?」

 振り返って遠くを見ると、さっき乗り越えた裏門の向こうから、ヘッドライトが煌々と照らされ、人影が横切っている。

「ヤベェ隠れろ」

 訝しげに物見しているカレンの腕を引っ張って、適当な物陰にカバーを取る。

 荒々しいエンジン音と共に、車列が俺らの前を横切っていく。“MERCEセキュリティ”と書かれており、明らかに警備会社の車だ。あーあ、やっぱ簡単にコンプさせてくれねーのな。

 車列が校舎正面玄関前に止まると、物々しい雰囲気で、ゴリラ、パンダ、サイ、ウマ(白シャツに蝶ネクタイ、サスペンダー付きのズボン)の擬人が次々と降りてくる。厳つい顔つきでガタイも良く、目を凝らすとホルスターまで装備しているのがわかる。

「なんなのよアイツら……あっ!」

「声でけぇって。てか、そんなにリーンしたらバr――」

「氣な抜きそッ! 闇夜に掻い紛れる人原は誰何(すいか)して籠めよッ! 讎敵(しゅうてき)櫻御前は、沙汰に及ばず底抜けの腕白、畳み掛けて組めや人々ッ! 方人(かたうど)あるは、名うての車御前に狙撃の妙手ッ! されど宮どのには手出し無用ぞッ!」

 何が最悪かって、徒党を統禦(とうぎょ)するのは、他ならぬコバートオプスの辻のぞみ。寂寥(せきりょう)とする校内で、吶喊(とっかん)して警備員らの士気を上げる。

「なんでアイツいんのよ……」

「知るか、本人に聞け――ってバカバカ。マジで問い詰めに行くな」

 苛立ちのあまり、飛び出そうとするカレンを取り押さえる。ぶん殴りに行くつもりなんだろうが、逆に取り押さえられてミッション失敗なんだよなぁ。

「え⁉︎ あそこ……菅ちゃんまでいんの?」

「菅ちゃん? おー久しぶりに出てきたな」

 カレンのフレンドをレンタルするとは、辻さんも本気だな。あいつは、エピソード1と3に登場して以来だ。辻さんと軽く打ち合わせをしてから、無線機を片手に動物警備員に指示を飛ばしている。

 程なくして、廊下の電灯などがパチパチと点き始めた。これはまずい。校内中枢機能を持つ校舎は、早くも連中の手に落ちたわけだ。きっとすぐに巡回警備を始めるだろう。

「まいったなこりゃ……」

「いや余裕。1人1人テイクダウンすればいいっしょ?」

「いや無理だろ」

 呆れた。こいつのステルスってさ、敵を全員気絶させ、障害物は破壊する力技なんだよ。アサルトとなんら変わりない。しかも、それすら失敗するから結局ドンパチになる。

「テスト問題ってさ、どこに保存してあるの?」

「知るかよw てか、この状況でもやる気?」

「当たり前じゃん」

「相手は辻さんだぞ、絶望的だろ。もう放棄して帰ろうぜ?」

「んなことできっか。ささみ、そっからハッキングして、テストのデータ探せない?」

『今やってるけど無理ね。私物のパソコンでは、校内ネットワークに侵入できない』

 当たり前だ。県教委の企画調整課に何枚もの書類を提出しないと、プリンタですら使えないんだぞ?

「物理的に盗むのも不可、データをコピーするのも不可。連中と交渉なんて、もっと不可。もう不可能の一語に尽きるな。だから諦め――」

「つかんわ。同好会のノートPCあるじゃん。あれだったら接続できんじゃね? 今日修理から返ってきたんだわ」

「……悪知恵の機転は人一倍だな」

 自身のステルス適性がGで、辻さんのはS。しかも警備会社まで引き連れているというのに、カレンのこの闘志よ。圧倒的な不利な状況に、カレンは一層奮い立つ。そこだけは褒めたい。だが、胆力だけでなんとかなるとは思えない。

 俺らは光源を避けながら、校舎の壁に沿ってゆっくり歩く。試しに適当な窓を開けようとするが、当然先生たちは戸締りしているよな。

「ねー、コレぶち破ったら復活する?」

「そりゃ用務員さんが朝に気づいて交換するからな。けど、そんなことすると音が響いて、警備員が殺到するだろ。さすがのお前も、武器無しじゃ畳み込められるのがオチじゃね? だから諦め――」

「おー次“諦めろ”言ったら、頭蓋骨をガラスに叩きつける物理実験やるから」

「……」

「あ、確か1年C組の窓の錠、壊れてたはず。押し上げると簡単に開くんよ。ちょっと試してみたい」

 マジで悪知恵だけは、湧き水の如くあふれ出るな。それをもっといい方向に使えないのか? ともかくだ。巡回警備員を避けながら向かうと、確かにそれは壊れていた。カレンはいとも簡単に開けて、俺らは校内侵入。

「ささみ、校内に侵入した」

『了解。最初の目標は、同好会PCの回収』

「オッケー、任せて」

 これほど頼りない“任せて”は、人生で初めてだよカレン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ