【e6m11】落第(1)
「今のぞみちゃん家にいるんだ? 昨日留守だったから」
「ああ」
「ん〜……まあ、あのコなら安心かな?」
唇に人差し指を当てて、小首を傾げるメディック。何が安心なんですかねぇ? 彼女は俺の疑念を察して、苦笑い。
「えw? ほら、まい先輩と同棲していた時は、ちょっと心配だったから」
「不純異性交遊ってか? いつからお前は、風紀委員も兼任しているんだ?」
「そんなわけじゃないけど……」
正直言うと、最後に辻さんにフラグされなかったら、もう先輩エンディングに到達してたと思う。彼女と離れ離れになっていた反動で、俺も舞い上がっていたから。
「あれからまい先輩、どんな感じなの?」
「今は辻さんに遠慮しているよ。最近は突撃して来ないし、ラブラブ猛攻撃もちょっとは落ち着いたようd――」
「٩(๑ᵒ̴̶̷͈̀ᗜᵒ̴̶̷͈́)و ̑̑ ✧ イェーイ!!! まいちゃん登場〜❤︎」
「残念、そんなわけありませんでした」
ドッヂングで回避する暇もなかった。先輩は俺をガッチリ掴んで、そのまま他の生徒、机や8脚の椅子などを、物理演算でぶっ飛ばしながら突進。教室の端まで叩きつける。
ヒロインで最も豊満な胸に俺の顔を押し込め、またもや溺れさせるつもりである。そして、久しぶりにバニラエッセンスの甘ったるい香りが、鼻から脳天まで突き抜ける。
大宮: [死に際の叫び声]
「まい先輩、ちょっとは自重しませんか?」
「(˶‾᷄⁻̫‾᷅˵) イヤッ❤︎」
「モガモガ……先輩先輩、まじヤバイですって! 辻のんエピソードで、奴に隠れてこんなのとか、後で八つ裂きにされますよ俺ぇ!」
「(*´°`*) まいはのんたんのパートナーだから、大じょう夫❤︎」
「だぁかぁらぁ、俺が大丈夫じゃないですって! おい鹿島、カレン! 黙って見てないで助けてくれ!」
「“死に際の叫び声”とか日本語字幕出たけど、絶対喜んでるよなアイツ」
「そうだね……自己救済できないとか言ってたけど、あれも嘘だよ」
2人とも、極めて冷やき目で傍観している。先輩の包容力は、一層強まり巨乳の深淵に俺を沈めて行くばかりだ。
「んで、今までの様式美からすると、あとは“三寸ばかりなる人”が、いつこれを嗅ぎつけるかだな。頭から火ィ噴いて怒るんじゃね?」
「おいっ! フラグ立てるなっ! あいつどこにいようが、ファストトラベルで飛んでくるぞ!」
その時、ピンポンパンポーンとチャイムが鳴って――
『2年F組、桜カレンさん。2年F組、桜カレンさん。職員室に来なさい。繰り返します――』
先輩の大好きホールドが解けた。あー頭痛い。また窒息でフラグされるかと思った……。
「(´•ω•) また悪さしたの?」
「してねーよっ!!!」
「ワルはみんなそう言う」
「サブヒロインだった時、『どーせピンクのエピソードなんだし、アタシに関する重大なイベントは起きねーだろ』って、生徒会室で暴れたのは、ノーカンよね?」
「残念。思いっきりイエスカンだよ」
「けど聞き取りも無かったし、あれから日にち経っているからあり得ないって」
聞き取る必要すらないんだよなぁ……。けどそうなら、すぐ掲示板にA4一枚紙が貼られるはずだけどな。
「チッ! しゃーねーな。おいシンイチ、ちょっとついて来て!」
「なんで俺g――あーわかったよ」
先輩から逃れるので、好都合だった。それにマジで気になる。最近のカレンの行動を思い出すが、そんな悪目立ちする愚行をやったか? まあ俺の知らない所で、何かやらかしているのかもしれんが……。