【e6m4】正座
なほ行き行きて、木叢を側に過ぐると――あ〜もう擬古文にするの面倒くせえな。ともかくだ、現代和風の平家が見えてきた。ガキの頃は、築百年以上の旧邸だったが、老朽化が酷くて今の家に建て直した。
「これはこれは婿どの。よう来たの」
「いらっしゃい。お久しぶり」
古樸な調度が設えてある書院造の中、対面し坐しているは叔父と叔母。普通の親戚だったら、『お世話になりまーす』と軽く挨拶し、立ったままの小話で済むが、この家ではそうはいかない。
何事も厳かというか、きちんとしなければいけない家風だ。現に全員が座布団に正座している。昔ここでお世話になった時は、もっと厳しかった。俺の叔母さん、つまり父さんの妹が口を開く。
「のぞみから聞きました。しばらくいるつもりでしょう?」
しばらく? なんだそれ? 俺は隣の小女房をチラ見するが、こと無しびたる知らず顔。クッソ、何を吹き込んだか知らんが、ここでしばしとは言えない雰囲気じゃん……。
「はい、よろしければ」
和装で居ずまいを正している叔父さんが莞尓とほほゑみ、叔母さんも口元に手を当て、き怡とやわらぎよろこぶ。父母の御前、平静さを崩さない従姉妹も、花弁の口元がわずかに綻んでいた。
「よきかな。のぞみは掛け離れておる時も、兄者人兄者人と慕うておったからの。長雨の中に、蜘蛛の現れた喜びよ。のう?」
「父こそ……」
頬を朱に染めて、父親に小さく物申す従姉妹。
「とにかく婿どの。この家はわ殿が家同然、うとうとしき隔ては残るまじきこと。部屋もそのままにしておる。堅苦しくならんで良い。足も崩されよ。吠丸もしばし暇与えて、宿にい出しておる。あれは内には忠義なれど、外には苛烈すぎよ」
「そうですか」
どうりで静かなわけだ。以前家庭訪問で立ち寄った際、門のかなり手前から俺の匂いを嗅ぎ取って、吠え立て始めたからな。あのジャーマン・シェパード、泥棒が入った日には、足一本持っていくと思う。
その後、しばし近況を話し合った。俺の足はもうステータス異常を引き起こし、さっさと立ち上がりたかった。開放してある縁側から、趣ある庭園が覗かれる。大きな通りが近くにないので、喧騒なども無縁だ。ただカエルと虫の音が優しく届くだけだ。
「さて日も落ちてきた砌、儂は庭の草つくろはせなどせん。しばししばし」
「あ、俺も手伝います、アイテテテテ……」