【e6m3】伏天(2)
電車を乗り継ぎ、繁華街を隔てて小さな田舎駅に降り立つ。のどかな田園が広がっており、そこを2人無言で歩いていく。途中、近所の爺ちゃんや婆ちゃんから声をかけられると、従姉妹はニコと、いみじう咲みこぼれる。農作業中の夫婦からは、採れたての野菜を持って行けとビニール袋を渡された。
「忝うございまする」
彼女のパートナーヒロインである常田先輩は、今風の可愛らしさを濃縮したヒロインで、若い男子に人気が高い。一方辻さんは、ご年配や同性にウケが良いよな。自ら誇りとする、艶差す垂髪と芳しい香りには、チャラそうなギャルですら振り返る。しかし派手な装飾はせず、露出も少ない。今だって黒タイツを履いている。
『いつ見てもめんこいのぉ』
見知らぬ爺ちゃんから、そう言われた。150センチ未満の小柄だからな。しかし顔や所作は端正で、茶道や花道、日舞などの教養もある。一度痴漢に遭ってからは、少しばかり合気道も嗜んだらしい。
「本当、お前は可愛いよな」
俺もさっきの爺ちゃんと同じように褒めてみた。どうなるだろうか? 嗟夫と、わざとらしい長大息を1つ吐き――
「偽りなき世なりせば、そもじのお言葉、いかばかりうれしからまし」
と目は空にて打ち見遣る。俺は苦笑いに絶えない。これが先輩だったら、
『(*⁰▿⁰*)!! キャ〜❤︎』
こうストレートに喜びを爆発させるはずだ。俺だって今のは冗談めかしたが、こいつも額縁通りに受け取らない。加えて――
「今の如きお色代、桃どのにも七つ八つ及んで、あの乳にありついたのでしょうな。まこと嘔きまする」
こう嫌味っぽく切返すのも忘れない。本当に、対応が難しいヒロインだ。これから、何回俺は斬られるんだろうなと不安だった。