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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e5m49】常田まいバッドエンド

なんとか書き上げました。これでこのエピソードは終了です。

「宮どの。余り聞きまほしう思さねど、そもじの耳にも、入れ置くべきことありまして」

 中休みの時だった。普段は品良くやをら(・・・)歩く辻さんが、足早にやって来た。あまり聞きたくないだろうが、と一拍置かれてもドキリとする。

「聞きも()えざることなれど、桃どのが心痛より絶入り申した」

「倒れた⁉︎ マジか……」

 支社で働いていた時でさえ、相当ストレスを溜め込んでいたんだ。いわんや、本社の幹部候補なら、さらなる重荷がのしかかっているはず。元々タフな人じゃないし、お嬢様モードで性能ブーストしていたとしても、鬱や心労で倒れても不思議ではない。

「こは尋常にあらじとて、傍迷惑であろうが、母御前にもお伝え申した」

「ちょっと俺、先輩に会いに行くわ」

「あなうたて。そもじは櫻どのと脳味噌を交換しけむ。彼奴の言はむ様に心得ず仰せられるの。行きて何になる?」

「わからん。けど、このままじっとしていられん」

「学舎には何と申す? 先日の乱暴狼藉といい、(をこ)めく沙汰は――」

「先生にはちゃんと言って早退するわ、じゃな」


 下りの新幹線内。小窓の外には、美しい夕焼けが映える。満身創痍の俺は、がっくりとうな垂れていた。

 先輩が務める本社に、アポなしで突撃。受付に取り次いでくれと懇願するも、防犯上の理由でそれはできないの一点張り。しつこく粘ると、警備員を呼ばれて、丁重に追い出された。その後ネカフェに入って、会社の寮を探すが、そんな情報は掲載されていなかった。

 元々策はなかったし、他の案も浮かばなかったので、今こうしてスゴスゴと諦め帰っているわけだ。

「あいつが言った通り、無駄な行動だった……」

 時間とお金を消費して、手がかりすら掴めなかった。馬鹿にも程がある。ああ、もう心身ともに疲れた。先輩から『忘れて』と言われた時はどん底に沈み、完全に振られていないとわかった時は浮かれて、彼女が倒れた今はこんな調子だ。

「ここ最近、ずっと浮き沈みばっかりだな」

 その時、車内からアナウンスが流れた。次は俺が降りる駅。切符どこにしまったかなと、財布の中を探ると――

「あ……」


 すっかり宵となっている香椎ランドのベンチに座っていた。周りを見渡すと、アトラクションのライトが綺羅星の如く輝いている。そして浮かれたカップルが目の前を通り過ぎる……何組もね。

「はぁあああ、疲れた……」

 脂汗がべっとりした顔を、手で覆った。慣れない小旅行をした挙句、こんな所にいるからな。一旦家に帰って休憩したというのに、足が棒だ。

 何が惨めかというと、私服に着替えて、先輩から買ってもらったネクタイも締めていることだ。先輩とナイトデートしようと約束していた場所に、その人がだけがいない。

「先輩がいたら、めっちゃ楽しかっただろうな。それで、腹を立てた辻さんたちが乱入してくる……そんなイベントになっていたよな」

 しかし今は叶わぬ夢。一陣の寒風が、坊主頭にしみる。こんなところに一人来なきゃよかったと思うよ。

「しかしなぁ」

 チケットの半券を持ち上げる。今日がナイトショーの最終日だからだ。男女カップルや女子グループは当然として、野郎のグループもギリ理解できる。けど野郎1人はあり得ない。

 あまりの惨めさに自ずと失笑が漏れる。もう物思いの限りを尽くした。心はすり減り続けた挙句、よくわからない形になっている。貯蔵されている涙も空っぽである。

「帰ろ……」

 痛む足腰を上げ、入退場ゲートに向かいながら、すれ違う人をそば目見る。あ、この女の子いい感じだな。けど、先輩の方がもっと可愛い。あっちの子はグラマーだが、先輩とは比較にならんよ。今の子は愛嬌ありそうだが、先輩もあるもんなぁ。

「お?」

 遠目だからよくわからんけど、先輩ぐらいの黒のセミロングで、先輩ぐらいの背丈で、おっぱいもそこそこで……顔も先輩っぽいな。もうやけっぱちで、ナンパでもしてみようかな? いやいや、どうせ無視されるのが関の山だ。最悪、俺の右上が☆☆☆☆★になって、警備員に摘み出される。あんまり凝視するのも失礼だし、ゲートから出るまで、地面のタイルでも数えていよう。

「大宮君」

 あーあ、あまりに先輩先輩と未練がましくなるから、幻聴まで聞こえてきたわ。昔な、冷戦をテーマにしたミリタリーシムがあって、あまりにも歩兵が装甲兵器に無力にやられまくるから、BMPのキャタピラ音を空で聞こえるようになったわ。シャベルカーなどのクローラーの走行音は、マジでビビってな。

「あの……大宮君」

「へぇ?」

 幻聴がやけにリアルだったので、頭を上げ、さっきの女性に焦点を合わせ――

「え⁉︎……先輩? なんで? こっち戻っていたんですか!」

「はい。お母さんが寮に来て、そのまま一緒に帰ってきたんです」

 辻さんからの一報を受けて、俺より先んじて先輩にたどり着いたのか。気持ちが先走って、落ち着いていられなかったのは、俺だけじゃなかった。さすがに生みの親なら、会社も情報提供せざるを得なかったのだろう。

「びっくりしました。突然のことでしたから」

 母親は是が非でも会いたい一心だったが、先輩はどうだろう? 養護施設で酷い別れ方をしたので、予期せぬ再会は気まずかったはず。けど、辛い時は誰かに頼りたいだろう。

 母親を拒否したのは、自分を捨てたからであり、“家族を大切にしたい”信条を持つから許せなかったのだ。けど産みの母親を拒否することは、先輩自身がその信条と矛盾してしまう。だから、完全に縁を切れなかった。親娘の情は、そう簡単にきっぱりと諦められない。

「向こうでも忙しいだろうと思っていましたが、元気そうでよかったです」

「ご迷惑おかけしました」

 スーツの彼女は、やはりどこかはかなげで、やつれている。風が吹けばよろめきそうだった。

 てか、あれだけ先輩先輩言ってたのに、俺って奴は何をしている? 力一杯抱きしめて、口付けでもやってのけろよ。夢にまで見た彼女が、目の前にいるというのに、見ただけで満足したか? 違うだろっ⁉︎

 けどな、まだ俺に望みはあると言われても、魚の骨が喉に引っかかったように『ごめんなさい、私のことは忘れてください』が纏綿として離れなかったからだ。どう考えても、もう寄りを戻せる雰囲気ではなかった。彼女は、自分のことでいっぱいいっぱいだったから。いつまた関西に戻るのかは知らないが、そっとしておこう。

「あの……ごめんなさい。“忘れて”なんて、ひどいことを言って……私――」

「ああ、もう気にないでください。仕事に集中しないといけないから、しょうがないでしょう」

「でも――」

「一瞬だけでも一緒にナイトショーに来れてよかったです、じゃさよなら」

 と歩き去ろうとした直後に足を止めた。

「あ、先輩。ついでにこれを」

 インベントリから母親のオルゴールを取り出す。そして先輩の手に渡した。次はいつ会えるかわからないし、もう会えないかもしれない。

「これって……? なんで……?」

 俺が持っていた事に戸惑いを隠せなかった。蓋を開けると、素朴な音色でオクラホマミキサーが流れた。そして中に入っていたのは、乾燥したへその緒、ベビーカードと18枚のバースデーカード。先輩は口を手に当てた。

『今後もまいちゃんをよろしくお願いします。どうか捨てないであげてください』

 母親との1コマがフラッシュバックする。俺は自分を恥じた。先輩のお母さんは、先輩から拒否されようが、彼女への愛情を貫いた。けど俺はどうだ? 以前、舞い上がって『先輩と俺は家族でしょ? 先輩がしんどい時は俺も一緒です』とか言ったよな? あれは嘘か? でまかせか?

 散々先輩を想っておきながら、彼女の『忘れてください』の一言ばかりが気になって、楔を外そうとしていたのが本当に情けない。

「ごめん先輩。今さよならとか言ったけど、正直俺もう耐えられません」

「私にはどうしようもないです」

「先輩と一緒に過ごした日々が楽しすぎて、今は何やっても虚しいんです。もうあいつらから弄られないほど酷い有り様で」

「私だって――」

「授業は現実逃避で寝てばっかりです。家に帰ると、嫁入り道具が目に入って胸がせきあがります。あの油絵とか先輩の写真ばっかり眺めて、何回ため息ついたかわかりません。俺には先輩が必要なんです」

「……」

「先輩っ! あなたを愛してます! もう辛い仕事なんて辞めて、帰ってきてください!」

「(⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́⌑ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝)」

 墨色の髪が、花開くようにピンク色に鮮やぐ。お嬢様モードが、メイク落としで拭い去ったように崩れる。やつれていた顔が瑞々しく潤い、艶豊かになる。そして、控え目に縮こまっていた胸が急成長を遂げ、ブラウスのボタンを弾き飛ばした。

「(ᵒ̴̶̷̥́дᵒ̴̶̷̣̥̀) うえええん! もうお仕事イヤだ! 研しゅうイヤだ! 会ぎもイヤだ! ざん業もイヤだ! おこられるのはもっとイヤだ!」

 まるで、俺からそう言われるのを待っていたように、泣きじゃくり出した。

「(ᵒ̴̶̷̥́_ᵒ̴̶̷̣̥̀) ごめんなさい。まい、研しゅう部から、『かれしとは、当分会えないと思いなさい』って言われたの。だから、おーみやくんがへんに期待しないように”忘れて”って言ったの」

「そんなの、知ったこっちゃありません!」

 お互い本音をぶちまけると、身体が吸い寄せるように引き合い、そのままギュッと抱き合った。先輩本来の甘ったるい香りに戻っている。俺はこれが好きなんだ。あの鼻につく香水なんか、かき消されてしまえ!

「……」

 頬を赤らめて見つめ合うと、もうやることは1つだ。今までお預けになっていた分、散々口を重ねた。周りから見られている? どうでもいいわ。

「(´•̥ᴗ•̥`) まい、ずっとおーみやくんとチューしたかった」

「俺もです」

「(⋆ᵕᴗᵕ⋆) えへへ❤︎」


!実績解除!ナイト美女ン

:解除条件:常田まいの問題を解決した。


 そして大変申し訳ないが、内部のコンフィグファイルが、以下のように書き換わってしまった。


o_sexual_appetite_value=true


「先輩、今から俺とポンポンしましょう!」

「Σ(⸝⸝⸝ºΔº) えぇ⁉︎」

「俺、マジで先輩を失うのはイヤです。だからやる事さっさとやって、常田まいトゥルーエンド行きます!」

「( ;´꒳`;) だ、だめだよ。気持ちはうれしいけど、のんたんエピソードがまだのこってるから……」

「はい⁉︎ 何聞き分けの良いことを? 今まで『٩(◦`꒳´◦)۶ まいちゃん! まいちゃん! まいちゃんを見て!』って散々言ってたじゃないですか? どうして今頃辻さんを気にするんですか」

「(◞ᾥ◟) だって、のんたんは大切なお友だちだから……」

「そんなの仲良しポイントを制した先輩が気にすることはないです。ヒロイン100メートル走を制覇したのは先輩ですから。俺、マジで先輩エンディング行きます」

「(◞ᾥ◟) それでも、やっぱり悪いよ」

 俺は彼女から買ってもらったネクタイを指し示した。●ィルバートのそれのように、先端がUの字に反り返っていたからである。

「俺、マジやる気っす!」

「(⸝⸝⊙ω⊙⸝⸝) 本当だ……」


 常夜灯がほのかに照らす俺の部屋。緊張で胸が張り裂けそうだった。目の前から、衣擦れの音がする。後ろ向きの先輩がタイツ、スカートを脱ぎ、ブラウスまで手をつけた。

 今更ながら、何てことを言っちまったんだ俺は……。スキルもノリッジも無いのに、とんでもないことをやらかすんだぞ? サクソフォンのムーディなBGMが聞こえてくる。けどもう腹を括るしかねぇ。

「俺の中の読者さん。今から急いで3Dメガネ――いやVR機器を付けてください。そしてこのストーリーに登場する人物は、すべて18歳以上です……」

「(´∀`*)彡?」

 俺の呟きに、先輩が頬を染めて顔だけ振り向く。ブラウスとブラもすっかり脱ぎ取られていた。ああ、先輩のなだらかな曲線美すげぇ。薄暗くてはっきりわからないが、あの絵画と寸部違わない。バスタオル一枚でリビングをウロウロしていたのとは段違いだ。

「(o>艸<) まいだけぬぐの、はずかしいよ」

「ふぁ、ふぁい」

 そうだそうだ。俺も装備品全部落とさないと。心臓が爆鳴りし、幻聴BGMのボリュームがさらに大きくなる。てか、あまりにも大きすぎないか? しかも定位がやけに片方に寄っている。オプションで下げ――

「( ꒪⌓꒪)」

 ブラウスで前を隠した先輩が、こんな顔をしていた。彼女の目線の先を追うと……サクソフォンを吹き鳴らす小早川氏に、窓の月影でキラリと光る刀を持った辻さんの姿。


Shinichi was fragged by Nozomi’s ONIKIRI.


おわり

次はもう書き出していますが、まだ全体を漠然としか考えていないので、構想をから練っています。辻のんエピソードは特に稚拙になりそうです。また投稿の頻度を上げたいので、短めのエピソードを続けて出すかもしれません。他、エピソード1からの見直しも考えています。

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