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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e5m46】自動回復が遅い

アップできました。今回の後半は蛇足気味であまり要らなかったかなと思います。

 あれから常田先輩は、すぐに会社を辞めて学校(と俺の家)に戻ってきた。2度と彼女を失いたくない俺は、猛アピールして“常田まいルート”に突入。正式に付き合うことになった。卒業したら、ずっと前に書いていた婚姻届を提出する約束もしている。

 今彼女は、以前の支社でパートとして働いている。お嬢様モードにもならず、ミスばかりだという。けど、それでいいんだ。

「Σ(*⁰▿⁰*) え? ふた子? キャ━⸂⸂⸜(゜∀゜)⸝⸃⸃━⸂⸂⸜( ゜∀)━(⸂⸂⸜ ゜)━⸂⸂⸜( )⸝⸃⸃━(゜ ⸝⸃⸃)━(∀゜ )⸝⸃⸃━ ⸂⸂⸜(゜∀゜)⸝⸃⸃━!」

 妊娠発覚後、産婦人科で調べてもらうとこんな結果だった。俺は苦笑い。なぜなら、まだ在学中だったからな。急遽進路を就職コースに変更して、地元の会社に履歴書を送っている。

「(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) 赤ちゃんいっぱいほしいな。男の子、女の子3人ずつほしい。お急ぎびんだと、急こう下ばくげききで配たつしてくれるかなぁ?」

「そんな余裕もオプションもないっす……」

「(๑’ᵕ’๑) まいのお家は大丈夫だよ?」

 現時点で3分の1実績達成したわけだ。『まい、たくさんうめるよ』と理由もなく豪語してたが、どうやら本当らしい。

 それ以来、まいちゃんモードの性格は、少しづつ鳴りを潜め、母親としての自覚が芽生えつつある。洗濯機に大量の洗剤を入れなくなったし、りんごをブランデーまで発酵させることもない。買い物袋の底に卵を置かなくなったし、“たまごわりりつ”が8割になったもの、大きな成長と言える。

「今日は何を買ってきたんです?」

「(❍ʻ◡ʻ❍) じゅにゅう服」

「気が早すぎじゃ?」

「(๑´∀`๑) だって楽しみで」

 小恥ずかしそうにはにかむ。気品の中に愛おしさが溢れ、マジで魅力引かれる。母親になるのが楽しみでたまらないらしい。いい人と結婚できたな俺。ちなみに家のルールとして――


 ・テレビは1台しか置かない。

 ・借金はしない。

 ・用事がない限り、必ず食事は家族一緒で。

 ・家の中で、トイレと風呂場以外に、鍵は付けない。

 ・ゲームは1日1時間。

 ・夫婦の時間は無制限。


 というのを決めた。今の所厳しくはないが、子どもが生まれたら、つきっきりになるだろう。次を身篭りたい希望もあるだろうし。

「ねえ先輩」

「(•̆·̭•̆) もう、何度言ったらわかるの? そつ業したんだから、まいってよんで」

「す、すいません」

「(`ε´๑) 前からふまんだったよ。みんなお名前でよんでいたのに、まいだけ“せんぱい”だなんて」

 ほおを膨らませて、苦情申し立てするのも、またかわいくて心惹かれる。

「(ー̀֊ー́)✧ あ、そーだ。これからせんぱいってよんだら、ほっぺにチューしてね。これもルールに入れます」

「ふぁい……」

「(੭ ᐕ)੭ じゃあどーぞ!」

「え? これからとは一体……?」


 先輩が片頬を俺に突きつけた所で、夢は終わった。蛇の生殺しにも程がある。以前もこのような、“すごい夢”を見た気がするが、今回は忘れなかった。フォーチュンクッキーを食べておけばよかった。

 毎日シングルベッドで共寝していた時は、狭く暑苦しい事この上なかったが、慣れとは恐ろしいものだ。独り寝に戻った途端、キングサイズの様に感じる。うら寂しさが尋常ではない。

「学校休みてぇ……」

 調子が悪くても、日常は待ってくれない。時間ギリギリまでベッドに寝転んでいたが、いい加減起きないと。

『朝ごはんはちゃんと食べてね』

 昨日何気なく鹿島にこう言われた。素知らぬ振りをしているが、全てお見通しだろう。相変わらず食欲はないが、無理してでも食べなきゃ。

 ぼんやりとシリアルを頬張っていると、先輩の晴れ着が掛かっているのが目に入った。辛い日々、“今を乗り越えれば、先輩とナイトデート”と出していたんだ。先輩の面影がちらつく。これを持ち出した時――

『٩(๑ᵒ̴̶̷͈̀ᗜᵒ̴̶̷͈́)و じゃじゃじゃじゃ〜ん! まいちゃんかわいい? 「(俺の物真似)先輩かわいいよ」。きゃー❤︎』

 と自身の身に服を当てながら、1人舞い上がっていたよな。この晴れ着を筆頭に、彼女の嫁入り道具と日常品という置き土産があるので、ふとしたことで切なさが寄り戻す。先輩のコップ、仲良くペアになっている歯ブラシ、先輩の好きなジュースやお菓子……もう耐えられん。いっそのこと、全部送り返したい。


 登校中の信号待ちで、カッコウピヨピヨが鳴ってもぼんやりしていることが多かった。そして、車に跳ねられそうになったこともあった。

「いっそそうなった方がマシ……」

 こんな恐ろしい考えすら頭をかすめた。


「まるで蝉の抜け殻よ。気(うず)むばかりで、取りつく島もない……」

「ほっとけほっとけ。アタシらじゃどうしようもねーよ」

「しっ、聞こえるよ? いい? 普段通りにするんだよ?」

「大丈夫、アイツ寝てんじゃん」

 学校に行けば、ヒロインどもが相手をしてくれるので、多少物思いにふけることが少なくなる。ただ、連中は明らかに俺の失恋を悟って、気遣ってくれる。それが逆に辛い。

 今日も授業は全部寝ている。ゲーマーは、急速に自動回復する主人公を『あり得ない』と一笑するが、よく考えると、いずれ傷は癒えて失意もいつかは忘れる。

『もうさ、あんなの、最初からいなかったとでも思って忘れたら? どーせ間に合わせのヒロインなんだし』

 恋心の欠片すらないゴリラなら、そう吹っ切れるだろう。コアゲーマーの俺も、恋愛なんかアホらしいとばっかりと考えていたが、蓋を開ければこの様よ。そして当分は回復しそうにない。

 うつらうつらと舟漕ぎしていたのか、鹿島の声とともに、体が揺すられる。

「ねえ、次は移動教室だよ? 起きて起きて」

「ふぁ? また寝そうになってたんか? くそう」

「違う違う。化学じゃなくてオーラルコミュニケーションだって。LL教室だよ?」

「おい先いくぞ? たく、マジ見てらんねーよ。のん、オメーも帰れ」

「……」


 途中トイレに寄ったので、1人ノロノロと階段を上っていくと、聞きたくもない大きな濁声が飛び込んできた。寝ボケに進路指導主事とは、気分も悪い。つらつらと考えてみるに、先輩に就職を斡旋した張本人で、いわば俺らの仲を裂いた張本人とも言える。

「ウハハハ! あの世間知らずの厄介払いができて、満足しております。私の実績にも、名のある企業が書けて一石二鳥ですわ!」

「厄介なのはまた沢山おりますが、あと1年我慢ですね。再来年にはeスポーツも廃止して」

「その前に異動ですよ。ハハハ!」

 後ろに俺がいるのも知らず、前の教師らは軽率に放言してはばからない。いい加減ジメジメした気分を吹き飛ばしたいのか、怒りがグツグツと煮えたぎってきた。

 ここであいつが先輩の悪口を言った途端、俺がブチ切れる展開になりそうだ。そうなれば、メグの時の2番煎じで、生徒会を吹き飛ばせと言った霊長類と同類だぞ。

 なおも口さがなく暴言を吐き散らかされ、嫌が応にもレイジメーターが溜まる。俺がデーモンモードになる前に、わざとらしく咳払いをした。すると2人の教師は怪訝な顔で後ろを向く。

「なんだお前、早く教室戻らんか!」

 と悪びれもなく威圧してくる。こいつには本当に反吐が出る。けど、絶対に手や口は出すまい。精一杯侮蔑の目を差し向けた後、俺はLL教室へ後にしようとした。

 それに腹が立ったのか、後ろからがっしりと肩を掴まれ、無理やりに対面させられた。

「その態度はなんだぁ⁉︎」

「やめてください。痛いです」

「常田のことで、俺に恨みでもあるのか?」

「先生こそ、先輩を罵ったことを謝ってくだs――」

 台詞を言い終わるか終わらないかの所で、進路指導主事から平手打ちを食らった。

「何を言うか馬鹿者め! 全く……お前らeスポーツ同好会は我が校の恥だ! 教師に癌を誘発させる!」

「……黙って聞いていれば調子に乗りやがって。癌になりそうなのは、俺だっ!」

「なんだと⁉︎ お前生徒指導室まで来い!」

「ウッセー! 先に手を出したのはテメーだろ⁉︎」

 またこれよ、組んずほぐれつが始まった。全身で抵抗するものの、男性教師2人がかりで押し込められて、ずりずりと引っ張られていく。

 一陣のミントの風を感じると、教師の1人が吹っ飛んだ。目を丸くした進路指導主事も追うように倒れ込む。メグと小早川氏が颯爽と現れたのだった。2人は悪戯っぽい笑みを浮かべて――

「楽しそーやん、ウチもかたらせんね(・・・・・・)!」

「こいつら嫌い。叩きのめすチャンス」

 俺は頭を抱えた。何であなたたちが手を出しているんですかねぇ……。

「何だお前ら⁉︎ またeスポーツか⁉︎」

「Yes, We are」

「大宮に謝って。そうすれば、これ以上痛い目に合わずに済む」

「……教師を脅すのか⁉︎」

「HOO! よーわかっとーやん?」

「今度という今度は、校内謹慎じゃすまないぞ、わかっているのか⁉︎」

「Huh, 停学ね? どげん思うねサミー?」

「“だから何?”と思った。で? どうする? 謝る?」

 ヒロインどもも、一歩も引かぬ強談判。散々悪目立ちしてる我らeスポーツ同好会だが、まだ物足りませんか?

『先生方、先生方。学校安全委員会の緊急会議を始めます。えー学校安全委員会の緊急会議を始めます。場所は北校舎3階の――』

 あ……校内放送で、瞬く間に騒ぎが全校に知れ渡った。大量の教師が、ゲームの雑魚敵のごとく、各教室からスポーンしてくる。

 警察の指導の元、放課後に防犯訓練研修をしたのであろう。大人数で前後の退路を断ち、距離を置き、さすまたで俺らの動きを防ごうとしている。もうね、俺を含めた3人は、外部から侵入した不審者扱いだった。

「ヤベェ、こんな終盤に馬鹿イベントやるんか……?」

 しかし乱闘の火蓋は切られて、“Beat'em up”のような展開になっている。ここに剛腕で鳴らすカレンが駆けつけたらどうなる? 怒り狂ったメスゴリラ並みに暴れに暴れて、救急車はおろか、霊柩車まで駆けつける羽目になりそう。

 乱痴気騒ぎとしか表現しようもない光景を、茫然と見つめている。進路指導主事らは、もはや小物の俺など眼中になく、ターゲットを変更していた。

「あれっ?」

 女の子の数増えてない? 栗毛のショートボブのヒロインが、惚れ惚れするような背負い投げで、大柄の体育教師を投げ飛ばし、他の教師にぶつけていた。

「あのバカいつのまに……?」

 ただでさえ教師に手を上げるのは躊躇するというのに、しかも事情も何も知りもせず即暴力とは……さすが馬鹿の代名詞だけはある。

 けどカレンにも一片の節度はあったのだろう、決して武器を使う――訂正、今脇にあった消化器を手にして、片っ端から噴射してるわ。で? 消化剤が切れたら、ボンベをぶん投g――ほらね?

 既に大半の教師は気絶して、地べたに倒れている。救急車、霊柩車の他、警察車と放送中継車まで来そう。

「アタシを倒すなら、戦車持って来やがれ!!!」

 こう吠え猛って、ゴリラのドラミングで威嚇する。俺が発端とはいえ、ここまで大事にしたくなかったのだが。てか、こいつらどう収集つけるつもりだ? 敵対教師全員を殴り倒して、ステージクリア……とはいかんだろ?

「こらこら、力比べはそれくいにせんか」

 落ち着いた声で、ヒロインたちに呼び掛けたのは校長先生だった。

次の話もほとんど書いているので、遅れることはないと思います。ゴールデンウィーク中は遊びたいので、その週は休ませてください。

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