【e5m29】分岐ルート直前
今週投稿する部分できました。
俺と先輩は、2階のバルコニーから、全面ガラス張りのプールを眺めていた。彼女の用事とは、近所の子どもにそこを開放する事だった。おやつやジュースの差し入れもした。
先輩っていい母親になりそうだな。そう思わせる一幕だった。プールで遊んでいた子ども達が『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と駆け足でまとわりついた。かがんだ先輩は目線を合わせて、1人1人お話を聞いてやる。濡れ手で触られようが気にもしない。料理や掃除スキルなどは、相変わらず『もう俺がやっときますから』レベルだが、正直それらは、溢れ出る愛情の前に些細な問題だ。
「(´•֊•`) まいのお家、大きいでしょう?」
ポツリと言った。自慢ではなく、悲しい笑みだった。あの油絵と同じ目元だった。
「(´•֊•`) まい1人には大きすぎるの。静かすぎると耳鳴り聞こえてイヤ。プールも使ってもらわないといみないよ」
「……」
「(´艸`) ぜいたくななやみだけどね」
俺があまり真剣に受け取らないよう、ちょっと戯けて見せた。思えば先輩は、事あるごとに子どもとか親子とか家族連れに釘付けだった。生い立ちた生い立ちなので、家族愛に飢えているのだろう。園児がたくさん乗ったお散歩カートには、声をかけたほどだ。後で『ヒヨコみたいで、かわいかった』とホクホクしていた。
「(´•ω•) 1人くらしで、裕福な家でいいねって、よく友だちから言われるの。たしかに、けがや病気になった時は、お金は助けてくれる。けどマイナスがゼロになるだけで、それでみたされるほど、たんじゅんじゃない。時々、いっぱいお買い物して、いい気分になるけど、真っ暗なお家に帰ると、悲しくて……」
正直、肯き得ない所もある。本当に生活苦の人にとっては、お金は有難いだろうし、間違いなく幸せをもたらすからな。ある程度生活が安定していると、さらなる経済力があっても満たしてくれない、そう言いたいのだろう。
先輩は無邪気にはしゃぐ子どもとその保護者を、羨望の眼差しで眺めていた。この人が、俺の家に早々乗り込んできた理由がわかる。話し相手がいて、それでいていつでも顔を合わせる広さだからだ。そんなのを望んでいたのだ。
「運動会や授業参観がキツイんですよね。先生はフォローしてくれるけど、それが終わったら、みんなが家族一緒に帰っていく後ろ姿に、また寂しさを覚えて」
先輩は、俺の過去を知っているとも思える顔ぶりだった。けど何も詮索せず、悲しげにうなずいた。
「ねえ先輩、俺……あの面談がまだ――」
「( ◜ᴗ◝) え? お話し合いは、こうかいしてないよ? 本当だよ? ちゅうぜつするつもりだったとしても、けっきょく痛い思いをして、まいを産んでくれたんだから。それだけでもありがとうって言わなきゃ。それでいいの。これでおかーさんとはおわり。いつまでもウジウジしてちゃだめ。まいちゃん、ポジティブに考えなきゃ」
あの時の台詞をまた聞いた。完全に吹っ切れて、とは言えないが、一つ区切りをつけて前進しようという気概だ。俺はこんな時、なんて言葉かけすればいいのかわからない。何を言っても、安っぽい綺麗事になってしまうとたじろぐからだ。だから先輩を優しく抱いた。恋愛感情とかいやらしさは全くなかった。むしろ、似たもの同士の慰み合いだった。
『あのね、おーみやくん、まいの気持ち、わかってくれそうだから』
柔らかい先輩の身体から、あの甘い香りがくすぐる。先輩の境遇からすると、俺は生温いよ。それにゲームで紛らわせていたからな。とても先輩の寂しさはわからない。けど、もうそんな思いはさせたくなかった。
あれ? これって先輩ルート確定……?
「( ー̀֊ー́)✧ この後、めちゃくちゃポンポンし――」
「ませんからね」
「Σ(ºΔº )」
まじめぶって終わらないのが、このラノベの良い所だよな。俺、シリアスが苦手なんだ。
次からは、またネタイベントになります。