【e5m24】Abortion
きりのいいところまで書きました。
しばらくして自室に戻ると、先輩は目を覚ましており、上半身だけ起こしていた。
「あ、気分はどうです?」
「(σω-)‧˚₊ だいぶ良くなったよ。ごめんね、めいわくかけて」
「とんでもない」
「(´-ω-`)‧˚₊ こずえちゃんにもお礼言わなきゃ」
過呼吸はもう落ち着いたようだが、傷心で倒れたせいか、いまだ気持ちは沈み込んだままだ。2人の間に沈黙が漂う。俺は事の子細がどうしても知りたくて、あの面談のことを尋ねてしまった。
「(◞ᾥ◟) あのね……」
先輩は、あまり乗る気ではない。
「(◞ᾥ◟) まいのママ、昔は川の向こうでお仕事していて、いろんな人とお付き合いがあったの。だから、赤ちゃんを下ろすこともあったみたいで――」
これは重い……ネットで読むような身の上話が、まさかフレンドで起こったとは。
「(´•ω•̥`) まいができた時、だれがパパなのかわからなくて、お金も無かったから、うむことになって――」
徐々に言葉が詰まる。泣くまいと気を張っていたが、口を利き始めると、抑えられなくて涙があふれてくる。
「(´•̥ ̯•̥`) うむことになって――まいは生まれたの。だから『もしお金があったら、まいも下ろすつもりだったの?』って聞いたら……」
限界だった。両手で顔を覆い、嗚咽して声を詰まらせる。なんて迂闊な人だ……普通、本人を前にしてそんなこと言うか? 俺がもし面談室にいたら、母親とはいえ平手打ちをくらわせていただろう。
「(˃ ⌑ ˂ഃ) ちゅうぜつ、こわいよ。いたいの、こわい……」
ここでやっと辻褄が合った。去年、俺ら高校生が望まない妊娠をしたいため、人工中絶のビデオを観る授業があった。それは筆舌に尽くし難く、今でも思い出したくもない。案の定、鹿島はボロ泣きだった。ゴア耐性があるカレンですら、苦々しい顔をしていた。
「(˃ ⌑ ˂ഃ) いたいのイヤ……」
先輩も観たのだろう。そして自分も、ああなる運命だったかもしれないと知って、あたかも今切り刻まれる恐怖に慄いたのだ。だから、そう仕向けようとした母親に激昂した。
「(•̥ˍ•̥) まい、いらない子? ねえ、本当は生まれたらいけなかった?」
「そんなわけないじゃないですか。先輩はみんなから愛されているでしょう?」
俺は横から先輩を抱きしめた。俺は先輩が好きだし、今のご両親だってそのはず。先輩の友だちだってそうだし、カレンや辻さんも……あー……多分。
「(´•ω•̥`) おーみやくん、まいのこと好き?」
「もちろん好きです。先輩に出会えてよかったっす」
「(๑•́₋•̩̥̀๑) まい、いらない子じゃない?」
「当然です。ねえ先輩、もうすっかり夜ですけど、お腹減ってません?」
「(◞ᾥ◟) いらない」
「そうですか」
「(◞ᾥ◟) けど、クッキー食べたい」
“いらない子”から話を逸らそうとしたが、なんじゃそりゃ……。まあいい、食べないよりマシだ。俺は台所から、“おみくじ付きフォーチュンクッキー”を持ってきて、先輩と一緒に食べた。
「(´•ω•̥`) 大吉」
「あ、よかったじゃないですか。俺末吉です」
「(´;ω;`) おーみやくんが、好きって言ってくれた。大吉」
涙焼けを残し、目を真っ赤に腫らしているが、少しだけ笑顔が戻った。よかった。しばらく他愛もない会話をした後、また眠たそうになった。
「(・᷄ὢ・᷅) おねんねしたい。おーみやくん、ここにいて?」
先輩は横になり、俺の薄い掛け布団を目元まで被った。夏なのに寒気を感じるのかな?
「(・᷄ὢ・᷅) おててもつないで」
「はいはい」
「(・᷄ὢ・᷅) 電気消さないで。暗いのこわい」
中絶器具に追われる悪夢でも見たのか? 今まで深夜灯の中、ガッツリ抱き合って寝てたじゃないか。まあ、いいか。
「(´ー`*) おーみやくん」
「はいはい次はなんですか?」
何も言わず、トロンとした可愛い目だけこちらを向けている。
「(˶´ー`˵) まいとけっこんしてください」
「……」
「//// キャー言っちゃった……まいきゅうこんしちゃった ////」
恥ずかしさのあまり、先輩はすっぽりと掛け布団に隠れてしまった。その表情はわからず、ピンクのセミロングが枕元から乱れ広がっているだけだ。
あの……ちとコメディに振り戻していいか? 先輩、飛ばしすぎでしょ……。したたかな意図があるのか知らんが、自分のピンチすら利用してない? もう俺は追い詰められたも同然で、“はい”と答えるしかねーだろ? “いいえ”を選んだら、また“いらない子”云々で騒ぐつもりじゃん。
「(˶‾᷄⁻̫‾᷅˵) えへへ。困らせてごめんね」
普段の悪戯っぽい表情がまた出てきた。
「はいはい。じゃあこれでおやすみです」
なんらためらいもなく、額にキスしちゃった……。ヤベェ、これってもう付き合ってるレベルじゃね? 小早川氏の言うことはつくづく刺さるわい。
先輩は、スゥスゥと可愛い寝息を立てて、眠りに陥った。顔色も悪くない。明日はもっと回復しているだろう。
「そして、ガッチリ手を繋がれているんですが……」
その時、机で何かがブーブー震え出した。先輩のスマホだった。
今回も読んでくれてありがとうございました。