表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
119/212

【e5m22】お嬢様モード

シリアスな部分の続きです。

 ある日の放課後。俺と常田先輩は、電車に乗って外出していた。

 もし人の目がレーザーサイトだったら、物凄い数のポイントが集まるだろう……そんな先輩の可愛らしい横顔をチラと見る。ただいつものゆるい面影はなく、お嬢様らしい様相を衒っていた。俺ともほとんど言葉を交わさない。

『ママに会いたい』

 昨日ベッドの中で、先輩はこう切り出した。深夜灯の中だったので、その表情はわからなかった。俺はあの件から何も言わず、ただ彼女の判断を待っていた。先輩自身の気持ちもそうだが、家や児相の人などと、相談した結果であろう。

『おーみやくんも一しょに来て』

 こんな次第である。エアコンが効く車内の窓に、強い日差しが注いでいる。夏本番だ。周りの学生も、放課とあって浮ついている。これから繁華街にでもくり出すのだろう。それに対して、先輩はピンと張り詰めている。俺はそっと、その手を握った。すると彼女は、こちらを向いてわずかに唇を綻ばせる。こんなことしか俺はできない。


 目的の駅に降りると、ムッとする熱気と共に、セミの合唱に迎えられた。アスファルトには陽炎が揺らめいている。2人して無言で歩いていく。

「ここですね」

 児童養護施設には親近感があった。なぜなら、俺は学童保育施設にいたからな。なんとなく雰囲気が似て、中から、幼児児童生徒の声が聞こえてくる。

 先輩の花顔は、一層厳しいものになっていた。『ここにママがいるんだ』と言わんばかりである。つか、今の家庭はどうなっているんだろう? たまに“おとーさま”とは聞くが、よく男の家に居候するのを許したな。

 俺、もうちょっと先輩のプライベートに突っ込んだ方がいいかな? ある程度仲が良いので、いろいろ知ってもいいのかもしれない。

「(*´-`) 行こ?」

 窓口で先輩は事務員さんと話をした。既に手はずは整っていた。その人は、不思議な目で俺を見た。

「わたしの彼氏です。ついて来てもらいました」

 完全にお嬢様モードになった先輩は、そう補足した。声色も、遠征ミッションで聴いた麗しいものになっている。先輩、そこは“お友だち”でしょうよ? まあ、旦那とかダーリンとか言わないだけ、常識の欠片を持っている……と言えなくも……ないか?

 その後、事務員さんの後に続いて行く。子どもの絵やら習字やらが飾られている廊下を抜け、大型遊具があるホールを横切ると、先方が待っていた。

「まいちゃん」

 こう呼びかけたこの人が母親か。先輩に似ている……というか先輩が似ているのか。若いな。けど、人生で苦労した形跡が色々見られた。面痩せし、髪はボサボサ、雪もちらほら、顔や首にも波打ち、服もよれている。そしてその最もたるが、リストカットの跡。母親は会えて喜んでいたが、一方の娘の方は、翳かげりがよぎっていた。

『ママに会ったら、文く言いそうで。“なんでまいをすてたの?”って、おこってしまいそうで』

 その台詞を飲み込んでいるようだった。俺を含めた自己紹介の後、懇談のため面談室に入ることになった。

「大宮君も……」

「せっかくだから、親子で話したらどうです? 俺はここで待ってますから」

 そう空気を読んで、第3者は辞退した。

「でも……」

「就活の面談じゃないですから、そう緊張することないですって。いってらっしゃい」

 俺は先輩の背中を軽く押して、面談室に見送った。

ちょっとインターネットが途切れる環境に入ります。次のパートは概ね出来上がっていますが、ネットに接続しないと上げることもできませんので、しばらくお待ちください。どれだけオフラインのままかはわかりません……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ