【e5m21】唐揚げシミュレーター(3)
これで料理イベントは完了。それぞれ個性が出せたような気がして、書いていて面白かったです。
「٩(๑ᵒ̴̶̷͈̀ᗜᵒ̴̶̷͈́)و まいちゃん、がんばるぞー!」
唐揚げと一緒に、俺まで火を通されてしまったが、まあ気を取り直そう。5番目はコマンダーの常田先輩だ。今度もまともなのは期待できそうにないや。ま、家が燃えなきゃそれなりの得点をやっちゃおう。
「(-᷅_-᷄๑) むーこずえちゃん。なんで消火きときゅう急箱を、かくしているのかな?」
「あはは……」
「どんなダークマター出てくんのか、楽しみだな!」
通例ポンコツヒロインが調理すると、必ず正体不明の物体が出てくる。そうわかっているカレンが嘲って、他のヒロインらも薄笑いを浮かべた。先輩がキッチンへ向かってから、ブーンと電子レンジの音が鳴った。それを聞いた外野から、爆笑の渦が爆ぜた。
「ウハハハハwwwwww 冷凍食品かよwwwwww」
「これはこれは、まこと愛情の籠った食ですのwww」
しかし、彼女が唐揚げを持ち帰ってきた時――
「ブヒ^ィィィ〜www」
と俺は色欲丸出しの叫びを呈してしまった。そう、先輩も多分に漏れずコスチュームをカスタマイズしており、それは自分の髪と合わせた淡いピンクのメイド服だ。ハート型にくり抜かれた胸部は、彼女が所有する“2つの最強兵器”を、際どいレベルまで晒している。短めのヒラついたスカートと、わずかに太腿を晒すニーハイも高得点だ。
「(˶ˊᵕˋ˵) どうかな? に合う?」
俺はコクコクと頷く他ない。さっき“メグの健康的なお色気の方が良い”とか言ったろ? あれ撤回して謝罪するわ。絶対こっちの方がエッチだ。
「(´▽`ʃ♡ƪ) 萌え萌えきゅん❤︎」
一層まろいアニメ声を響かせ、唐揚げにおまじないをかける。
「あれ? 箸がないですけど?」
「(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈)۶ まいが食べさせてあげる、ご主人様あ〜ん」
いかがわしいほどの距離に隣座した先輩。かつてない程甘ったるい香りが充満し、頭がクラクラしてきた。先輩は、可愛らしいピンクの爪楊枝に唐揚げを突き刺すと、俺に持っていくのではなく、自分の口に咥えた。
「???」
後はわかるよな? もう恥ずかしくて描写できねぇよ! カレンに言わせると――
「夜のお店屋やさんじゃねーかコレェ!!!」
である。先輩の露骨な色香と媚びが迸り、他ヒロインの不愉快指数がうなぎ登りとなった。あのさー読者諸君、『開発者はコンテンツを次のように説明しています:本製品のコンテンツは全年齢層向けではない、あるいは職場での閲覧に適してない可能性があります:成人向けコンテンツ全般』って警告ページ表示されていたかい?
「て、天国に逝くかと思った……」
「(∩ˊᵕˋ∩) えへへ。すっごいチューしちゃった……❤︎」
「残念……もうパフォーマンス合戦になってない?」
確かに。けど料理ができないヒロインにとっては、それで稼ぐしかないから、戦略的には正しいと言える。
「如何は憎きを。げに見るだに嘔きまする。で、こやつが取れ高は?」
「(˶‾᷄⁻̫‾᷅˵) じー(おーみやくん、いっぱい点ちょーだい)」
そうだな……。まず、火事を起こさなかった。次に、料理ができないから、潔く冷凍食品に割り切った。最近のはとても美味しいから、下手に作るより得点が稼げるよな。それにメイド喫茶ってのも、こんな加工食品出すんだろ? なら減点要素にはならんよな。後はもう、先輩のお色気で総攻撃だ。
「8点」
「✧⁺⸜(*⁰▿⁰*)⸝⁺✧ キャー!!!」
先輩は飛び上がって喜んだ。一方鹿島は黙ってはいたが、不満顔を隠さなかった。ごめんな、本当はお前の薄味より美味しかったので、9点を上げたかった。けど手料理に配慮して同点だ。
「冷食やん? 反則やろ?」
「いや条件に、『冷凍食品は使ってはいけない』となかっただろ?」
「貴方、やけに先輩に優しい。審判としての公平さに、疑問を感じざる得ない」
手料理じゃないから減点しろというのは、心情的には理解できるが、今回の勝負条件に限っては、言いがかりに近い。
「(∩ˊᵕˋ∩) えへへへ❤︎ ありがとうおーみやくん。大好き」
不思議に思うんだが、先輩はゆるふわポンコツヒロインだけど、頭の回転が良くなることが少なからずあるよな。クラスがコマンダーだけあって、やっぱ本当は策士だったりするのかな?
「いざいざ」
割烹着をきりりと結んだ辻さん。とりを飾るのは、このコバートオプスである。料理に望む彼女は、平静を保っていた。他のバカどもは知らんだろうが、こいつは料理に関して咲いやネタに奔らない、絶対に。家柄が厳しく、とりわけ家政は厳しく叩き込まれているからな。
他の連中は、唐揚げだけ作ったが、辻さんはそんなことをしなかった。あくまで唐揚げは主菜の一。栄養価の高い玄米を主食として、酢の物、唐菓子などを、パパッとクラフトした破子に入れ、羹は別に拵えた。
甘・辛・酸・苦・鹹の五味がバランスよく整い、味覚が一辺倒にならない。また彩も鮮やかにあしらって、見た目も美しい。食べるのがもったいないぐらいだ。肝心の唐揚げは、小粒だが梅塩が絶妙に香る。
それを俺だけでない、時間圧縮機能を使って、ヒロイン全員に振る舞ったのだ。“食卓は全員で囲む”というのが、辻家の規則の一。ガキの頃、こいつの家に居候していた時から変わらない。
最初、辻さんがバカらしくて参加しないと言った理由がわかるだろう。コメディヒロインらとスキルレベルの次元が違うのだ。
このカレンのきまりの悪さよ。奴の得物である腕っぷし勝負ではないが、とんでもない奴と認識しただろうな。
「召し上がれ人々」
辻さんは、タオルで手を拭きながら戻ってきた。
「ねーこれもー勝負んついたよーなもんやん」
「食べてもおらず何を戯を。して宮どの。妾が取れ高は如何?」
「10点に決まってんじゃん、こりゃ負けだ負け……クッソー」
「そだね。これには勝てないよ」
「すごく美味しい。貴女、すごいのね」
全員で舌鼓を打ち、辻さんを絶賛する。そして俺の判定前に優勝を譲った。いい感じの時間に、きちんとした夕食を出すのも心憎い。
「ほ。やはり中座した方がよろしかったの?」
本人は得意げになったりしないが、チラと先輩に当てつけた。
「ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑) いーもん。まいはおっぱいあれば、おーみやくん勝手に吸い付いてくるもん。くやしくないもんっ!」
とすっごく美味しそうに負け惜しむ先輩。とんでもないことを、さらりと言わないでください。
「オチがないのが、オチになってしまったがな……」
「あ、そーだ。ねーアタシん得点聞いてなかった。正直なところどーよ?」
「あ? 正直なところ−10点」
Shinichi was shot by Karen's Luger.
「これでオチになったじゃん、バーカ」
「これ、食事ぐらい落ち着いて食わぬか……」
次はまた先輩のイベントに戻ります。下地は書いているので、あとは膨らませたり削除したりでしょうか。