【e5m19】唐揚げシミュレーター(1)
書けました。以前は毎日と予告しましたが、ちょっと分量が少なすぎるので、ある程度まとめます。このイベントは全3回になります。
常田先輩への仕返しも済み、ヒロインたちは俺の家で好き勝手くつろいでいた。鹿島は俺のパソコンでレポートを書き、カレンはソファで足をおっ広げてスマホを弄って、メグと先輩はお喋り、小早川氏と辻さんは、辞書を片手に何やら議論している。
「Yesterday Sasami, today you, tomorrow Zomy♪」
「ฅ(•᷅д•᷄ฅ)!! そんなことないモン。おーみやくん、ず〜っとまいを好きでいてくれるモン!」
「例えば、この“うるさし”の単語が納得できない。①煩わしい、②やかましい、③わざとらしくて、④立派だ。マイナスの意味の中に、プラスの意味もある。一貫性がない。だから古文は嫌い」
「ほ。人の心は千差万別、言の葉の義もまた然り。わ御前の謂では、世の中は白と黒といとあいきものよ。人情の有様を、くわしく穿つ事できぬではないか」
時々、男子から『お前は、いっつもかわいい女子とつるんで……』と妬まれるが、全く俺は優越を感じない。一見ハーレムハウスだが、実のところ火薬庫なんだぜ? 何かのはずみで、すぐ爆発する。
鹿島がリビングに戻ってきた。レポート終わったか?
「残念……なんでパソコンの壁紙、まい先輩の水着写真なの?」
「いつの間にか設定されてた。後で戻すわ。後でな。絶対に戻す」
今の会話1つ取っても、向こうの辻さんが聞いていたら、どうなるかわかるだろう?
「結構長居しちゃったね……」
確かに。窓の外を見ると、すっかり日が傾いていた。先輩も、すっかりいつもの調子に戻っていた。別に周りが何かやったわけでもないが、単に一緒にいるだけで、気を紛らわせ、元気付けたのだ。
「お〜オメーらちょっと聞け」
夕飯の砌に、カレンが意味深に呼びかける。早くも胸騒ぎを覚えた。
「これからさ、ちょっとイベント起こして勝負しね? あー梢ちん、別にドンパチとかそんなんじゃないから心配しないで」
「I'm all ears」
「今から全員で同じ料理作って、コイツに一番美味いって言わせたヒロインの勝ち」
「鹿島優勝」
「えw?」
「いや、もう鹿島優勝でいいだろ?」
「なんでよう⁉︎」
いやいや、鹿島以外の御し難い面々を見てみろ。読者さん的に笑えること必定だぞ? 俺は笑えねーけど。
「とにかく鹿島優勝、イベント実行完了!」
「いいから聞けって! 食材は食えるもの限定。そして、美味しさと共にヒロイン面白ポイントも評価の基準とする。ささみ、面白くしようとしてウラニウムぶち込んじゃダメよ?」
今回、俺はその面白ポイントとやらでフラグされるのか。
「ただ料理しても面白くねぇ。自分の属性とか特徴を、調理する一品にうまく組み込んだ者が高得点ってわけ」
「Got it」
「了解」
「ᕙ(' ᵕ ˂̵˵) よし、がんばるよー」
「まあ、お夕飯時だからね……」
「ほ。なでふそちが打ち付け言に付き合わねばならぬ? 言語道断、迷惑な案よ」
ここでヒロイン随一の捻くれ者が反対。一瞬、水を打ったかのように場が静まって白けたが――
「Good, one less competitor♪」
「別にいーぜ。ただしオメーはもう失格だ。帰れ」
「ꉂꉂ(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) のんたん、たい場〜!」
ヒロインどもはここぞとばかりに、おっ立てようとした。あーあ、これは悪手だな。俺の従姉妹としては、レベルの低い愚か者共の争いに加入する旨は無かったのだろう。だが、こうもけしかけられると、逆に反骨精神が頭をもたげないはずはない。そして彼女は、和食という条件なら“おふくろの味”をねじり出す手腕なんだぞ。
「……さらば、細腕ながらお相手仕らんず。事にもあらず汝奴らの鼻をへし折ってくれるわ」
聲に凄みが加わり、妖しく打ち咲む彼女には、蠱惑なまでの艶かしさが含まれていた。
「うっしゃ、シンイチ。今頭に浮かんだ食べ物を言え!」
「唐揚げ」
Shinichi was fragged by Karen's MP40.
「残念。なんで“唐揚げ”で、フラグなの……?」
「よりによって揚物かよバカッ! アタシメンドーだからやんねーんだっ!」
「オホホホ。墓穴掘りましたの?」
こんなことでフラグされるとは思わなかった件。一方、メグや小早川氏などは、安堵した様子だった。
「よかったー。ウチん知らんもん言われたらお手上げやったバイ」
トップバッターは、優勝候補の1人であるメディック鹿島梢。
特に詳らかに描写する必要もない。お手頃な食材を買い、エプロンを付けて普通に調理したので、ごくごく普通の唐揚げが出てきた。サラダも付いている。
「お前優勝」
「あの、食べてから判定してね?」
「いただきます」
「よし、今すぐ採点しろ。美味しさ5点、ヒロイン面白ポイント5点の10満点な?」
「8点で優勝」
「やったぁ!」
といきなりの高得点に彼女は舞い上がり、他のヒロインに衝撃が走った。
「なんでよ⁉︎ 内訳説明しなさいよ!!!」
普通によかった。それ以外評価のしようがない。ただな、これ胸肉で味付けもやや薄い。油もヘルシーなのだろう。カロリーを抑えようとしているのがわかる。こいつが作る料理は、病院食志向なのだ。ヒロイン面白ポイントとしては高いが、美味さとして減点かな? そう説明した。
「梢ちん、栄養添加剤投入とか派手なパフォーマンスしてねーじゃん?」
「そんなのしないって……」
「だな。良識ヒロインは、そんなのやったら逆に減点だ」
「その言い方、引っかかる。まるで残りの自分ら、頭変な人みたい」
実際そうだろうに……。
「さて、辻さんのを食べて、ごちそうさまだな」
「;:(˃̵͈᷄⌓˂̵͈᷅):; ひどいよー!」
さあて、今から奇食が続くぞ。俺、食中毒保険に入っていたかな? エンジニアのメグの登場だ。
「シン、look at me!」
「おおっ!」
フィギアスケーターよろしく、3回転半ジャンプを決めたメグは、コスチュームチェンジをやってのけた。これは……ボーダーズっぽい制服だ。カレンがすかさず非難を上げる。
「色気で釣るのはダメっしょ⁉︎」
「なん? 面白ヒロインポイントやろ? ウチお色気担当秘書官やけんね。シンシン、後ろも見とかんね?」
と後ろ姿を晒す。うーむ、彼女もわかっているな。無闇に露出を上げるのではなく、あくまで“健康的なお色気”に留めて、イマジネーションを掻き立てる。あまりやりすぎると、成人向けビデオになって萎えるからな。彼女のサンサンと光る笑顔とブロンドが眩しかった。これはヒロインポイント高いぞ?
「あいてっ……」
「あんまりイヤらしい目で見ないようにね?」
「見てねーよ」
ムッとしている鹿島からポカリと頂いたが、その優しい一撃の中に、焦りのようなものが含まれている気がした。
そして出てきたものも彼女らしかった。大量の鶏胸肉を、これまだ大きな鍋に油を張って揚げた。家中スッゲー油臭い。大皿に大量の唐揚げのみ。豪快さ一点張りで彼女らしく、男子にはウケが良さそう。
「いただきます…………おいしいよ。ほんのりと香りがするね、なんだろう?」
「あ、よー気づいたね。実はね、オイルにカトスロールGTば使ったと。レーシーでアスファルトな味付けたい♪」
「ブーーーー!!!」
「;:(˃̵͈᷄⌓˂̵͈᷅):; キャー!!!」
これがオチですか? そうですか、なるほど、この妙な香りは鉱物油なのか。しかも白皿の模様が緑と赤なわけだ。
「メグ失格」
「ウソやんっ! ちゃんとチキンと衣は“食べられるモン”やろ⁉︎」
「ウハハハハ! コイツがそー言うなら、もう覆されんしー。メグ失格ぅ!」
「明日の朝、俺末期ガンになってそう……」
今回も読んでくれてありがとうございました。次も完了しているので明日出せます。