【e5m15】理由
イベントの合間みたいな話ですが、とりあえず書けました。
辻さんは俺の家に上がると、最初に和室へ行き、仏前に正座する。そして数珠を押しもみ、お経を転読するのだ。ねえ、帰らないの?
「佛佛佛佛佛佛……乞い願わくは、櫻カレンを地獄に落としたべ……」
俺らの祖先は、こんなこと立願されても困るだろ。あと、本当にカレンが地獄に落ちたら、それこそ“本当の地獄”になっちまうんだよなぁ(D○○M的な意味)。
しげしげと辻さんを見ていた先輩は、いつの間にかちょこねんと隣に座って、彼女もまた合掌していた。
辻さんの調子がおかしくなった。麗しい声作りが綻び、誦んずり損ねてつまづく。その花顔を覗くと、明らかに引きつっていた。そしてついに――
「常田どのッ!!! 厳粛なる御仏前であるぞッ! 隣で『(アホっぽい変顔・声真似)まいちゃんでーす❤︎ おーみやくんのおヨメさんでーです❤︎』、わ〜きゃ〜罵り念じられると、調子が狂いまするッ!」
「Σ(๑꒪▿꒪)」
はぁ……なんて仲がいいんだろう。ふと仏壇の上に掲げてある遺影を見ると、そこはかとなく苦笑いしているように見えた。
「(๑¯ω¯๑) ねーおーみやくん」
「はい?」
「(๑¯ω¯๑) 男せいとく有のこんななやみ、ありませんか?」
「えw?」
「(๑¯ω¯๑) さい後まで元気がつづかない……しんまで元気になれない……気持ちはあるけど反のうしない……まいちゃんをもっと満ぞくさせたい……」
「そこパートナーですよね? まいちゃんじゃなくて」
「(๑¯ω¯๑) 活力ぶ足のなやみ……」
「有名セクシー俳優も愛用! 指定医薬部外品! お試しパック、今なら43%OFF! って続くんでしょ?」
「Σ(๑꒪▿꒪)」
「そんなのいりませんよ。てか、頂き物をしまうの手伝ってくれません? それに先輩の嫁入り道具も、納戸に押し込んだままじゃないですか? まだ後続が来るんでしょ?」
「( ˙³˙) あ、うん」
あの後、日舞の稽古がどうしても障りてと、辻さんは帰っていった。俺らを恨みがましい目で見据え、長い後ろ髪を引かれる様子だった。あーあ、明日にはコミュニティ全員が知る所となるぞ。
「( ੭˙꒳ ˙)੭ ねー。のんたんって、おーみやくんを好きだよね?」
「さあ」
「(๑¯ω¯๑) 気づいてないふり?」
「まあ、最近変なのは認めます」
具体的には先輩が登場して以来だ。つかこの人が出てきてから、いい意味でも悪い意味でも、俺らのコミュニティが引っ掻き回されている。
「ねぇ先輩。むしろ俺が聞きたいんですが、なんで先輩は、俺なんかを好きなんです?」
「Σ(⸝⸝⸝ºΔº⸝⸝⸝) エッッッ⁉︎」
滅多に慌てない先輩が、ポンと紅潮した。珍しいの。
「いやね、俺ってただの凡人ですよ? 先輩は、学校一可愛いって話じゃないですか」
「:;(∩´﹏`∩);: か、かっこいいから……」
「嘘ですね。『おーみやくんかっこい』とか、一度も聞いたことないです」
読者諸兄も気になっているだろ? まさか、『おーみやくんが主人公で、まいはヒロインだから』って、適当な理由じゃないだろうな?
「( •̆ ·̭ •̆)℥ う〜言わなきゃダメ?」
「いや強要じゃなくて、ただ気になってるだけです。言いたくないなら、別にいいですけど」
世の中にはごまんと野郎がいて、先輩の愛くるしさと“2つの神の芸術品”があれば、上等なのだって引手数多だろう。正直、こんな可愛い人が俺を選ぶってだけで、何か裏あるんじゃねと疑ってきりがない。それがわからないから、先輩に対して今一歩下がっているっているのもある。
「(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝) あのね、おーみやくん、まいの気持ち、わかってくれそうだから」
紅の頬のまま、拙く告白した。なんじゃそりゃ? ずいぶんとまあ茫漠とした理由で。
「(๑¯ω¯๑) その目はなに?」
「正直、ドッキリとか罰ゲームかなと疑ってます」
「(・᷄ὢ・᷅) まい本気だよ?」
俺の不審に対して、先輩は不満を見せた。ごめんなさい、けどあまりにもうまい話で、どうしても素直に喜べなかった。
「⸜(*‘ω‘ *)⸝ あのね、後でちゃんとお話するから。ちょっと重いの……」
なるほど、それが本エピソードの転換期ってわけですね? 妙に納得した。
今回も読んでくれてありがとうございました。次回もほとんど仕上がっているので、多分近日に投稿できます。