【e5m14】のんたん
今週も出せました。
今日も1日騒動だった。もちろん常田先輩が、俺にアプローチして、辻さんを煽り続けたに他ならない。しっかし我が従姉妹のリアクションは、バラエティに富むよな。カレンよろしく訇立てることもあれば、平安女房よろしくワッと泣き立てることもあり、俺に嫉妬深く恨み辛み申し立てることもある。
昔から彼女は、祖父譲りの荒々しい気性だ。一見端正すぎる容貌もあって、中々打ち解けにくい。就中、独特の言葉遣いと鋭い目付きで取り澄ましているので、面白味もなさそうである。
だがカレンと先輩は、そんな彼女の堅苦しい装束をひと息に吹き払って、裸にしてみせた。本人は至極迷惑だろうが、側から見る分にはいい友だちに思える。
「少なくとも、ケンカしなければ……の話だが」
「( '༥' ) えっ?」
俺のひとりごちに、隣でグアバジュースを飲んでいる先輩が反応した。
「今日は辻さんを何回煽ったか覚えてます?」
「(◍︎˃̶ᗜ˂̶◍︎) のんたん、だ〜いすき!」
このイスカの嘴のような食い違いよ。けど先輩は嘘や皮肉を言っているとは思えない。俺の知らない所で、連絡を取り合ったり遊びに行ったりしてるからな。
「学校で、先輩が何やらかすか冷や冷やですよ。こうやって家にいる時が安心……ってここに辻さん来たらヤベェな」
インターフォンが鳴った。
「やあやあ、宮どのや有るか無きか⁉︎」
俺は顔を覆った。なに自分でフラグ立ててんだ馬鹿野郎……。
「(*⁰▿⁰*) あ、のんたん?」
「先輩……俺が応対しますんで、絶対の絶対に、出てきちゃダメですよ?」
「(๑¯ω¯๑) えーなんでぇ? まいも、のんたんとお話したい」
この少しお頭をキョトンと傾むける姿よ。
「同棲バレたら、ヤバイでしょ? それにヒロイン全員退場って言ったのは誰です?」
「(๑ˊ͈ꇴˋ͈) あ、そうだね」
「いいですか? 物音一つ立ててもダメですよ? ゴキブリが出ても、キャーって叫んじゃダメですよ?」
「宮どのッ! はやはや出て来ぬか!」(ピンポンピンポーン)
「やべやべ、行きますね」
「――こは肥後より取り寄せし米、こは味噌、してこは……はて、なんの包みであろ?」
辻家は俺の1人暮らしを心配して、このように食べ物を寄越してくれる。時々おばさんも来るが、大抵は彼女だ。尋常は、簡単に説明したらさっさと帰っていくので、今日もそう願いたい。
「おお、菜であった、菜」
「いつもありがとな。おばさんにも伝えておいて」
すると彼女は、よっこらしょと玄関に腰掛けた。あれあれ、帰らねーの?
「のう、偶には家に来ぬか? 父御も母御もそう望んでおる。吼丸は、外におっ立てればよかろう」
ふぅと艶めかしく大息。吼丸ってのは、前も言ったが、飼犬のデカいジャーマンシェパードだ。番犬としては優秀だが、その名の通り誰彼構わず吼えまくる。特に俺を敵視して、噛み付かれたこともある。まあとにかく、早く帰ってくれねーかな?
「いやね」
「なでふ、あやつは和殿をこそ目の敵とすれ……」
膝に頬杖を突き、どこか遠い目で回想する。憂を伴った顔は、先輩とは別の美しさが満ちている。丈長髪には、今風に言うと天使の輪が艶めき、その手の入れようが垣間見えた。てか、早く帰ってくれ。
「はて……?」
「え?」
「そこはかとなく、桃御前の香が立ちますの。何篠さる事有るべし?」
「お、お、お、俺だろ? 先輩、昨日からずーーっと抱きついてるじゃん(上ずり声)」
「ほ」
「それに、ほら、ここになぜか、先輩のハンカチが置いてあったわ。なんでだろうな……?」
ギクリとした俺を、彼女は見逃さなかった。彼女の目は、いつの間にか刀のようになって、訝しげに俺を見据えていた。そこにタイミング悪く、奥からガシャンと音がした。
「今のは? 人がおるのか?」
「いや、ないない。コップが割れたんだ――」
「(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ キャー!!!」
終了、はい俺終了ーっ! パタパタとスリッパの音を立てて、先輩は俺に抱きついた。
「うわ、先輩じゃないっすか(棒)⁉︎ どうしてここに(棒)⁉︎ つかキャーって叫んじゃダメってあれほど言った――」
「(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ だってだって、ゴキブリじゃなかったもん! よく見たらカナブンだったもん! おーみやくん、“ゴキブリが出ても叫んじゃダメ”って言ったけど、“カナブンが出ても叫んじゃダメ”とは言わなかったもん!」
現時点をもって常田まい先輩は、栄えあるウルトラハイエンド級ポンコツヒロインに認定されました!
「左様な事でもあろうかと思うていたわえ……」
振り返ると、辻さんの声には凄みが加わって、ふつふつと感情が滾りつつあった。
「( ;´꒳`;) あ、のんたんだー」
「妾には言わで、そもじらは睦言交わしておうたのか? 乳繰りおうていたのか? 男女の歓すら交えておうたのか? あんまりでございまする……。妾が心に黴の咲き乱れましょうぞ、花でなく……」
この台詞の中で、辻さんは癇癖顔から、菊よろしく色移ろぐ。徐々にうるみ声が出て、仕舞いには目元にキラと泪が濺いだ。
「まこと浅ましきことかな。いかに、かように常に甲斐なき御計らいのみ候うものかな。女の才は、古来ゟ教養、垂髪、装束、香であるに、今様の殿方、就中宮どのさえ、胸わけの広きを良し、腰細のすがる娘子を良しとしておるのが、まこと嘆かわしい……」
そして標的は俺に移り、綿々と恨んだ。
「( •᷄ὤ•᷅) まいはアホの子だから、のんたん何を言ってるのか、時々わからないよ」
「平たく言うと、俺が先輩のおっぱいばっかり見て、腹が立つそうです」
次はほとんど書いてないので、また時間をください。飛び飛びのイベントを書いてますが、現在32,000字ほどで好調です。先輩や辻のんは書いてて楽しいです。