【e1m11】ゲット&ラン
大宮は基本的に撃たないので、キャプチャーザフラッグではなく、ボミングランにしようと決定していました。まあ名称はゲット&ランになっていますが。あのゲームが出た時は、アサルトとこれが楽しかったですね。
「このヘタクソ! NOOB!」
「まあまあ、しょうがないよ」
鹿島から、蘇生用注射を突き立てられた。身体が酸素を欲するのだろうか、大きく息を吸い込んで復活する。この深い眠りから急に叩き起こされる感覚、どうしても慣れない。
「イテテ……」
「チッ、ないもんはしょうがない……ゲット&ランにする?」
カレンは、集まっている生徒に提案した。しかし、彼らは『何それ?』と言わんばかりだ。連中の無知に顔を歪め、毛先の反り返ったボブヘアーを掻きむしった。
「カーッ! これだから若いのはっ! シンイチ! ゲット&ランのルールを説明っ!」
「え? 何だっけ? 結構前のゲームなんで忘れ――」
Shinichi was smashed by mighty Karen-kick.
「バカッ! それでもコアゲーマーなの⁉︎」
「残念。すぐにフラグする……」
読者の皆さんこんにちは。メディックの鹿島です。また語り部の代行をします。大宮くんは、ラグドール物理演算を伴いながら吹っ飛んで、そのまま頭部が壁にめり込みました。クリッピングエラーです。全身がブルブル荒ぶっている……。
「じゃあ梢ちん!」
「ふぇ? わ、私? えーっとぉゲット&ランは、ラグビーとチームデスマッチが混ざったゲームモードです。マップ中央のボールを取って、相手のゴールリングに入れると得点になります。ボールキャリアは攻撃できませんが、ヘルスの持続回復を得ます……こうだったっけ?」
「素晴らしい! どう? アンタら理解した?」
よかった。どうやら、みんなは見通しを持てたようです。
「今回この体育館に赤チームのゴール、武道館1階弓道場に青チームのゴールを設置する!」
直径8メーター程度のゴールリングが出現しました。
「キャレン、マップの大きさば考えると、各チーム4人で良かっちゃなか?」
「そうね。赤はアタシ、シンイチ、梢ちん、メグで行くから。青は?」
勝手にフレンドで固めてる。いいのかな? 私、シューター苦手なので、足手まといにならないといいんだど。
「じゃ自分が」
ミディアムヘアでバンドをしている女の子が、控えめに挙手しました。あれは……A組の小早川さん。さっきの“唐揚げパン大作戦”で、スナイパーとして活躍した人です。カレンちゃんは、『上等じゃん』とばかりにニヤリと歯を見せました。
「他は⁉︎」
カレンちゃんが呼びかけると、モブキャラ男子が3人手を挙げました。
「決まり! 梢ちん、その主人公サマを引っこ抜いて、起こしてやって」
「はいはい。大宮くん、語り部を返すよ? お願いね?」【視点が鹿島から大宮に移動】
再び針が突き刺さる感覚を経て、再び俺は目を覚ました。壁の中にいたんか俺……。
「ボールん準備できたばい。シン、持ってみー」
メグがゲット&ラン用に改良したバレーボールをトスする。それは黄金に輝いており、受け取った途端、原子の周りを舞う電子のように、俺の周囲に赤い円状の筋が出た。全身がじんわり暖かくなり、急速にヘルスが回復していく。
「すごい! これ欲しい……」
「シンイチィ、アンタまた攻撃する気ないでしょ? どーせ」
「よくわかっているな。で、お前はボール持つ気ないだろ? どーせ」
このやりとりで赤チームの作戦は決まった。俺がボールキャリア、カレン以下がアタッカーだ。彼女の性分から、デフェンダーやフリーランスなどを置くつもりはないだろう。
「アンタもわかってんじゃん……」
「私たちが援護するって作戦でいいかな?」
「シンの後ろは、任せときんしゃい!」
ポンと俺の尻を叩いて、少年のようにニッとするメグ。親しくないのに、よく異性に平気で触れるなぁ。近くにいたのでわかったが、俺と同じぐらいの背丈なのな。髪は簡素な2つ結びだが、綺麗なブロンドなので遠目でも目立つ。
「Welcome to HIGASHI H.S. Tournament! Today, we’ll be witnesses of bloody……」
誰かがアナウンスを始めた。BGMにはリアルトーナメント99のテーマ曲……。観客であるAとF組連中は、2階のギャラリーに集まっていた。よく見ると、他のクラスや学年も混じっている。みんな掃除用具などを振りかざして興奮している。まるでスポーツ観戦じゃん。いや、まさにそうなのか……。
「大ごとになったな」
「もぅ! 試合前にそんな事!」
「ところでさ、連中のスキルはどれくらいなんだ?」
急に振られ、カレンはきょとんとした。
「モブキャラ3人は、アベレージか良くてエクスペリエンスドと思う。けどささみには気をつけて」
「ささみ?」
「あの子、知らんの?」
カレンが指差す人を見る。理系のA組の中でも、特に優秀な成績を収め、ファッションにも抜かりがない人だ。まあ、ゲーマーの俺とは全く関わりがないタイプだな。しかしどうしてまたカレンの騒動に?
ぼんやり彼女を眺めていると、うっかりポーカーフェイスのジト目が合ってしまった。彼女は視線を外すこともなく、ずっと合わせてくる。
「(LOL)サミーに何ばしたと? めっちゃ見られとーやん!」
メグに笑われてしまったが、逆に小早川氏を睨みつける奴がいた。カレンだ。
「スポーツ系は突進力と破壊力が全て。ロケランで世界一周させてやんよ……」
「わっ!」
鹿島が声を上げた。彼女の面前が緑色に輝き、アサルトライフルが3D生成されている。戸惑いつつも、完成品を両手で受け止めた。アサルトライフルと言っても、リアルなものではない。宇宙海兵隊が持ってそうなゴテゴテとした奴だ。華奢な彼女が平然と持っている図って、すっごい違和感あるな。
「それ重くない?」
「ううん。おもちゃみたい」
「使い方わかんの?」
「うーん、私はメディックだからね」
そこに出しゃばってくるメグ。
「これ、AR780って言うと。プライマリーで5.56ミリ弾ば撃って、セカンダリーはM355グレネードランチャー。安くて大量生産されとー軽量サポート火器やね」
うんちくを述べながら、各部位のチェックを鹿島と一緒に行う。俺も同じものを受け取った。確かに軽い。感覚としては両手持ち水鉄砲だ。
「ねーシンイチ」
「あ?」
Shinichi was ventilated by Karen’s assault rifle.
「Same Team!」
「味方への誤射は許されない!」
「あーFFオンなのねぇ……」
赤く光る粒子が消えて、周囲を把握できると、俺は体育倉庫の中にいた……。正しくはリスポーンした。扉を力一杯開けて文句を言う。
「どこの世界に、撃って確かめるバカがいるんだっ!」
「うっさいなー。試合前にわかってよかったじゃん。以後気をつけまーす」
悪びれる様子もありゃしねー。あいつ、相手を俺共々吹き飛ばすのに躊躇しないぞ。
「っしゃ、やりますか!」
既に青チームの面子は自陣に行ったようだ。カレンの表情は生き生きしており、唐揚げパンウォーフェア同様にレクリエーション気分だ。メグも鹿島もそうだった。俺のやる気はない。が、もう賽は投げられた。無気力でプレーしたり、負けたりするとカレンにひどい目にあうこと請け合いだ。さっさと勝って終わらせたい。
今回も読んでくださってありがとうございます。次回からはまた大暴れする話が続きます。